日中間の水域問題

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第382回)

 2026年6月30日夜に、日本の排他的経済水域内で海洋調査を行っていた海上保安庁の測量船に対し、中国海警局の船が無線で調査中止と退去を求めたと報道されています(注1)。これに対して、日本側は、外交ルートを通じて中国に抗議したとのことです。ところで、このような中国の行動の法的根拠はどこにあるのでしょうか。
 中国の「排他的経済水域および大陸棚法(専属経済区和大陸架法)」第4条第1項には「中華人民共和国は、大陸棚における天然資源の探査及び開発を目的として、大陸棚に対する主権的権利を行使する」という規定があります。排他的経済水域は、海岸線から200海里の範囲で、天然資源の探査・開発などを含めた経済的活動についての主権的権利と、海洋の科学的調査、海洋環境の保護・保全等についての管轄権が認められた水域です。しかし、領海外については排他的経済水域だけではなく、大陸棚(水深200メートルあるいは海底の開発が可能な範囲)に関しては、陸地の延長との認識から、大陸棚資源は排他的に沿岸国の管轄権と管理に服すると大陸棚条約2条では定められています。
 つまり、今回問題となっている水域は、日本の海岸線から200海里の排他的経済水域と中国の大陸棚とが競合する場所になっており、中国側ではこれらの境界画定に関する日中二国間交渉も完了していない中で、日本は海洋調査を行っていると報道しています(注2)。
 そして、中国側としては、中国の大陸棚にあたる部分なので、中国の海警法第21条の「外国の軍用船舶および非商業目的に使用される外国政府船舶が、我が国の管轄海域で我が国の法律、法規に違反する場合、海警機構は必要な警戒と管制措置を取って制止し、速やかに関連海域から離れるよう命じる権利を有する。立ち退きを拒否し、深刻な危害や脅威を引き起こす者に対して、海警機構は強制立ち退き、強制えい航などの措置を講じる権利を有する」との規定に基づき、中止命令を出したり強制えい航を行ったりできるわけです。
 しかし、今回問題となっている水域について、日中間で交渉するということは、日本と中国の海岸線はどこからになるのかについて確定させる必要があります。つまり、尖閣諸島の取り扱いについても決定しなければならないため、交渉がまとまらない水域であり、日本側も中国側も交渉をしたくないというのが本音でしょう。しかし、上記の通り、中国側としては中止命令や強制えい航が可能と考えている水域であることも確かなので、今後、この水域でどのような問題が発生するのか冷静に見ていくことが必要でしょう。もちろん、日本側も、日本の「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」に基づき、活動を行える水域と認識はしていますが、中国側の報道のとおり、日中間で境界線交渉がなされていない水域であることも事実です。

〈注〉
(1)「中国海警船が日本のEEZで海保測量船に退去要求 中国の『管轄権』主張が新段階」(YAHOO!JAPANニュースウェブサイト)〈https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/fe9aa374aaef03f990807aebca3688633be1e864〉2026年7月2日更新、2026年7月3日閲覧。
(2)「日本内閣官房長官木原稔対外表示,日方就中国海警船只阻攔日本海上保安庁測量船開展海底勘探作業一事,已通過外交渠道向中方提出正式抗議」(百度ニュースウェブサイト)〈https://baijiahao.baidu.com/s?id=1869587498743867977〉2026年7月2日更新、2026年7月3日閲覧。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。