天安門事件の日「墓参り禁止」の通告

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第373回)

 6月4日は、中国の第二次天安門事件から37年目となりました。中国では、この事件について基本的には「なかったこと」としているところ、今年は遺族の方が、6月4日に犠牲者の墓参りをすることすら禁止する通告が公安当局から発出されたと報道されています(注1)。
 公安とは、日本でいう「警察」で、国家安全と社会治安秩序の維持を行うための機関です(人民警察法第1条)。そして、公安がこのような通告を法律上出すことができるのかというと、そのようなことをできるとする法律はありません。人民警察法第7条は「公安機関の人民警察は、治安管理もしくはその他公安行政管理の法律、法規に違反した個人もしくは組織に対し、法により強制措置や行政処罰を実施することができる」としています。このように、中国の公安が通告など何らかの強制措置を行えるのは「法律に違反する場合」にのみできるのであり、墓参りをこれから行おうとする者に対して通告などの強制措置を取ることはできないのです。
 では、墓参り禁止の通告を一切出すことはできないのかというと、そうではなく、法律上の根拠はありませんが、中国では学説上、警察目的として公共の秩序を維持するために、その妨害を排除する必要があるときは、それを行うことが公安の役目であり、特に法律の根拠がなくても強制措置を行うことができると考えられています(注2)。もちろん、公安が公共の秩序維持以外の目的で強制措置を行う場合には法律の根拠が必要であると考えられています。
 そして、第二次天安門事件のことを思い起こさせるような行為は、中国当局にとって公共の秩序を乱す行為と捉えていると考えられることから、法律の根拠なく遺族の墓参りを禁止することができることになります。
 第二次天安門事件の遺族にとっては、学説上の根拠はあるものの、法律上の根拠なく墓参りすら禁止されたことには複雑な思いがあることでしょう。

〈注〉
(1)「天安門事件37年、追悼抑圧 中国、『負の記憶』消去」
〈https://news.yahoo.co.jp/articles/7f7c0c784e959d91dbc2c9965370efb8b13f5277〉(YAHOO!ニュース(共同通信)ウェブサイト)2026年6月4日更新、2026年6月5日閲覧。
(2)楊建順(主編)『行政法総論』(第2版)中国・北京大学出版社、2016年、145頁。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。