【事例研究】不正競争防止法に関する裁判結果
2026年09月11日
【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第401回)
中国の裁判結果には既判力がありません。これは、裁判結果があっても、それが一般的な法解釈を示すわけではなく、あくまでその事案にのみ効力を持つという意味です。このため、中国の裁判結果は、その事案に対する判断例という意味を込めて「案例」と呼ばれています。しかし、裁判結果があっても他の事例に全く影響を与えないというのは、公平性などの観点から望ましくありません。
そのため中国では「指導性案例」という制度が定められています。指導性案例とは、数多くの案例の中から、素晴らしい判断がされている、他の事案でもこの案例を参考にすべきであると最高人民法院もしくは最高人民検察院が認めた案例は「指導性案例」となり、類似する事例に判決を下す場合には「必ず参考にしなければならない」案例が「指導性案例」であるとされています(それでも、指導性案例と「同じ結論を出さなければならない」わけではありません)。
さて、そんな指導性案例に新しい案例が加わりました。『人民法院報』2026年9月10日付1面掲載の「最高人民法院不正競争防止法の指導性案例を発布する(最高法発布反不正当競争典型案例)」によれば、2026年9月9日に不正競争防止法に関する指導性案例が九つ発表されたとのことです。ここではそのうちの一つを見ていきます。
【事例】原告である法人甲は、「ABC」に対するライセンスとして商標権を持っていた。これに対して、被告である法人乙は「cBa」の商標権を第三者から購入したものの、後に商標権無効の宣告を受けた。法人甲は、法人乙の「cBa」の商標権は、「ABC」に類似しており、過去に「cBa」の商標を使用したことが、法人甲の商標権侵害であり、不正競争にあたるとして、法人乙への損害賠償を請求するため人民法院(裁判所)に訴えた。
第一審判決は、法人乙の商標権侵害を認め法人乙に対し10万元(約230万円)の損害賠償の支払いを命じました。これに対し、法人乙は上訴し、上訴審では一部原審破棄がなされたものの、これに納得しなかった法人甲は再審を請求し、最終的には第一審判決が支持されました(法人甲の勝訴)。
最高人民法院は、「ABC」は非常に高い知名度を持ち、中国でなら誰もが知っている商標であるにもかかわらず、それの順番を変え、大文字・小文字を変えただけの「cBa」という商標は、悪用する意図をもって作成されたと考えられ、「ABC」と関連する商品であると誤認を招くため、不正競争に該当すると判断したのです。しかし、逆に言えば、明らかに悪用する意図がなく、また類似していても誤認を招く可能性の低い類似した商標なら不正競争にはならないと判断できるという面があると中国の専門家は理解しているようです。
●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。


