10億円投じた直売所に万感の思い
2026年03月27日
もち吉
米菓製造・販売のもち吉(福岡県直方市)が約10億円を投じて、本店となる新たな工場直売所を3月、市内に開業した。38年にわたって営業を続けた旧直方本店は閉鎖され、近隣で営業していた「米工房」や「豆腐工房」は直売所に集約された。直売所の売り場は約880平方㍍。市内3店舗目となる「水車うどん」など、飲食スペースもある。
5日の開業セレモニーでは、森田恵子社長と並んで大塚進弘直方市長や市出身の浅香山親方(元大関・魁皇)らが参列。森田社長が「日本の米と福智山系の水で作られるもち吉のせんべい・あられは世界一おいしいと思う」とあいさつすると、大塚市長は「もち吉は市の代名詞であり広告塔」と表現して開業を祝福。浅香山親方は「全国にもち吉のファンがいる」と称賛した。親方の発言通り、当日は開業2時間前から買い物客が長蛇の列をなし、市内だけでなく県外から訪れた客もいた。開店と同時に押しかける客を森田社長は、市民以上に万感の思いで眺めていたに違いない。直売所は森田社長肝いりのプロジェクトだった。
もっとも森田社長の父で前社長の森田長吉氏が2022年に逝去する前から、老朽化の目立つ本店を建て替える構想はあった。しかし長吉氏は、人口減少の進む市に人を呼び込もうと、周辺で飲食店の水車うどんや「水車茶屋」などを開業。極め付けは、23年に完成した商業モールの「もちだんご村モール」の構想だった。もともと田畑や雑木林だった本社周辺の土地を長吉氏は次々に取得。最初は中国地方に本社を置く大型商業施設を誘致する計画だったが、5キロ離れた場所に「イオンモール直方」が05年の開業を控えていることが分かり、頓挫。老朽化した本社工場を移転する構想もあったが、しばらくの間、そのままの状態が続いた。同社が取得した土地は66万平方㍍にも及んだ。
転機となったのは15年ごろ。「カインズ」が同地での出店を決めた。はじめは北九州市での出店を模索していたが、必要な売り場面積などの条件が合わず、同市に近い直方市を選んだ。食品スーパーの誘致に動いていた長吉氏は「フードウェイ」の後藤圭介社長に出店を打診。直方市出身の後藤社長は、長吉氏の熱量とカインズの出店計画が決め手となり、快諾した。カインズとフードウェイの出店が決まると、あとは早かった。カインズと同じベイシアグループの「ワークマン」のほか、ドラッグストアの「新生堂薬局」、100円ショップの「セリア」、「ケンタッキーフライドチキン」などが出店を決定。モール周辺に「無添くら寿司」や「ニトリ」も出店、開業した。モールがひと段落したら、次はいよいよ本店の建て替えが視野に入ってくる、そんなときに長吉氏の病状が悪化。視力を失いながらも、得意な暗算と抜群の記憶力で入院先から電話で社員の相談に応じるなど、仕事一筋は変わらなかった。残念ながらモールの完成を見ることなく長吉氏は逝去。あとは次女の恵子社長に引き継がれた。
森田社長はすぐに直売所の計画に着手。資材高騰により、計画当初に比べて建築費は倍増したものの、森田社長の決断は揺るがなかった。待望の直売所完成を喜んだのが森田社長1人でないことは、訪れた客の数が現している。次の計画は工場の建て替えだ。親子2代の〝熱量〟が工場建て替えを実現するだろう。


