未成年者の権利保護

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第374回)

 『人民法院報』2026年6月3日付1面に「未成年者に優しい市場環境の構築強化(持続強化未成年人友好型市場環境建設)」という記事が掲載されました。これによれば、子どもと青少年は、強国建設と国家復興の未来を担う原動力であり、「中華人民共和国第15次五カ年計画:国家経済社会発展計画」でも、未成年者の保護と福祉の強化を重視し、子どもに優しい発展を促進し、次世代を育む社会環境を整備することを明確に提唱しているとのことです。さらに、本記事によれば、最高人民法院と国家市場監督管理総局は、模範事例の指導的役割と模範的役割を最大限に活用するため、未成年者の権利保護に関する四つの模範事例を公開したとのことです。その模範事例のうちの一つは以下のようなものでした。

【事例】2022年10月1日、15歳のAは娯楽施設でゲームに参加した。入場前に、施設側はAに免責同意書への署名を求め、ゲーム中のケガは自己責任とすることを明記していた。ゲーム中、Aは転倒して負傷し、5万元以上の経済的損失を被った。Aの保護者は施設側との賠償に関する合意に至らず、訴訟を起こし、施設側に対しすべての経済的損失の賠償を求めた。
 調査の結果、この脱出ゲームは「血生臭く恐ろしい」雰囲気を演出するように設計されていたことが判明した。そして、対象年齢は18歳以上と登録されていた。ゲーム会場は狭い通路、薄暗い照明、黒い壁、そして基本的な安全設備を備えていた。しかし、施設側はAに安全装備を提供せず、また着用を義務付けてもいなかった。

【判決】人民法院は、台本に基づいたゲームを提供する娯楽施設は、年齢に応じた適切な管理を厳格に実施し、安全上のリスクを伴う可能性のある施設を定期的に保守点検し、注意喚起を示す安全標識を目立つ場所に掲示しなければならないと判断した。走ったり追いかけたりするような高リスクなテーマについては、未成年者に安全装備を提供し、着用を義務付けるべきとしたのである。事実関係から、問題の脱出ゲームは明らかに未成年者には不適切であるにもかかわらず、当該娯楽施設はAの参加を許可し、年齢に応じた適切な管理義務および関連する安全義務を怠り、Aに損害を与えたと考えられると指摘した。さらに、当該娯楽施設はAに免責同意書への署名を求めたが、この同意書には「相手方への人身傷害」に関する条項が含まれており、中華人民共和国民法典第506条によりこの条項は無効となるもので、娯楽施設は免責条項を理由に責任を免れることはできず、人民法院は、娯楽施設には不法行為責任があり、Aに対し、医療費、看護費、精神的苦痛に対する損害賠償、その他の損失を賠償すべきであるとの判決を下した。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。