融資手数料に関する裁判

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第329回)

 最近の中国では「法治」が強調され、人民法院(裁判所)が法に基づき企業の権利を平等に保護しているかという問題が指摘されることが多くなりました。これに対応するためか2025年12月4日に、最高人民法院(最高裁判所)は、人民法院が法に基づき民営企業の合法的権益を平等に保護した典型的な民事・商事事例を7件発表しました(最高人民法院による立件・審議・執行の連携強化及び紛争執行前解決促進に関する業務指針(最高人民法院関于加強立審執協調配合推動矛盾糾紛執前化解的工作指引))。今回はこのうちの1件を見ていきます。

【事例】A銀行と不動産開発会社B社は『融資承諾協議』を締結し、A銀行が3億5千万元の融資枠を提供することを承諾し、不動産開発会社B社が融資承諾料1千万元を支払うことに合意した。枠の利用期間内に、枠が未使用または一部使用の場合、または本協議が早期終了した場合にも、A銀行は既に支払われた承諾料を返還しないことも合意していた。A銀行は「融資承諾書」を発行し、不動産開発会社B社に対し3億5千万元を上限とする融資支援を承諾した。同日、B社は銀行に融資承諾料1千万元を振り込んだ。その後、B社は3回に分けて計3億5千万元を借り入れた。しかし、B社は約定通り返済しなかったため、A銀行は残存元本3億3千万元および利息等の返還を求めて人民法院(裁判所)に提訴した。

 裁判の結果としては、人民法院は、銀行は、原則として借り手から融資承諾料を徴収することには法的根拠がないとしました。つまり、契約に基づく融資提供のためにかかる費用は、金融機関が負担すべき経営コストであるとしたのです。A銀行がこれを有償サービスとして、融資承諾手数料を徴収することは、借り手の融資コストを増加させるものであるとして、B社には、融資承諾手数料を融資元本から控除した3億2千万元の返還を行うよう命じたのです。
 融資の際に手数料を取ってはいけない、と人民法院が判断したというのは、中国のビジネス関係の裁判としては大きなことと言えます。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。