「ベスト電器福岡本店ビル」売却へ

 福岡市の大規模再開発「天神ビッグバン」が進行する天神地区にあり、ベスト電器福岡本店が入る「ベスト電器みすず庵共同ビル」が、売却に向けた手続きを進めていることが7月、複数の取材で明らかになった。売却先は入札形式で、入札期限は8月8日。2021年に同社を統合したヤマダホールディングスが、全国に所有する不動産を整理する中での売却とみられており、買い手が決まった場合、ビルの建て替えが予想される。
 同ビルの周辺では、オフィスやホテルが入る複合型のビルが複数、竣工している。まさに一等地でもあり、買い手側にとっては魅力的な場所にあるが、事情は少々複雑のようだ。というのは、1階と地下に入る蕎麦店「みすゞ庵」は、同ビルを区分所有しており、建て替えとなれば立ち退きになる可能性が高いが、現時点でみすゞ庵は立ち退きに応じない姿勢を見せているという。そのため、複数のデベロッパーは関心を示すものの、二の足を踏んでいるようだ。
みすゞ庵は、ベスト電器福岡本店が建てられる前から営業しており、かつて周辺に存在した因幡町商店街の雰囲気を残す唯一の店舗。福岡市役所から近く、常連客は多い。決して広い店舗ではないものの、全国的に飲食店の人手不足が叫ばれる中で、ランチタイムだけでも10人ほどのスタッフが厨房やホールで働いている。そんな老舗店舗が移転先を見つけるのは簡単ではないだろう。
 天神ビッグバンでは以前、割烹料理店「割烹よし田」や中華料理店「新生飯店」、もつ鍋の「楽天地」などもビルの建て替えに伴う立ち退きを要求されたことがあった。しかし店舗のオーナーはこぞって反対。結局、建て替え後のビル所有者が多額の移転資金を積み増したことでなんとか事態は収まった。みすゞ庵がそうした事例を知っているのは当然だろう。かといって買い手側の足元を見ているかどうかは定かではないが、買う側からすれば大きな悩みの種となっているのは間違いない。
ある不動産関係者は「デベロッパーがビルの取得に積極的か消極的か、それによって入札額がキッパリ分かれる典型例」と話す。別の不動産関係者は「ビックカメラやヨドバシカメラと異なり、ヤマダデンキはロードサイドに強い。売却され、建て替えとなると、70年の歴史を持つ祖業の店舗に幕を下ろす可能性も考えられる」と話す。もちろん、不調に終わる可能性もある。なお隣には「福岡フコク生命ビル」があるが、こちらは現時点で売りに出ていない模様。
 ベスト電器は、もとは戦後の闇市から成功した北田光男氏が1953年、当時の社名「九州機材倉庫」のもと、「バーゲンセンター」の店名で現在の場所で家電を販売。56年にベスト電器福岡本店が開店した。その後、ベスト電器は九州を地盤に全国展開され、70年代後半から90年代中ごろまで業界首位にまで成長。シンガポールやマレーシアに連結子会社を設立するなど、海外にも手を広げた。2006年には、首都圏を基盤とするさくらやを買収、子会社化したものの、さくらやの事業回復のめどが立たず10年に清算。12年にはヤマダ傘下となり、17年に完全子会社となった。そして21年、ヤマダに統合され、屋号を除いてベスト電器は消滅した。現在、ヤマダデンキの社長を務めるのは、ベスト電器からの生え抜きで長崎県出身の上野善紀氏。