とある「医療保険詐欺事件」のてん末
2025年08月08日
【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第293回)
『人民法院報』2025年8月6日付1面に「最高人民法院、医療保険詐欺犯罪を厳正に処罰した典型事例を発表(最高法発布人民法院依法厳懲医保騙保犯罪典型案例)」という記事が掲載されました。今月6日、最高人民法院が医療保険詐欺犯罪を厳正に処罰した4件の典型的典型的な事例を発表したそうです。
このような事例が発表されるということ自体、最近の中国では医療保険詐欺犯罪が増加しているということです。以下、その典型的事例の一つを紹介します。
【事例】
2018年1月、重慶市に病院が設立され、2019年5月に指定医療機関となった。被告人Aは同病院の実質的責任者で、Aの主導により患者に低価格または無料での入院治療を提供し、高額な治療費を支払う患者に対して返金を行うなどしていた。このことは、医師や医療助手などの職員を通じて患者に宣伝され、既存の患者が新規患者を紹介するという方法によって無料で医療が受けられると、大量の中高年医療保険加入者がこの病院に入院することになった。
しかし、Aは入院患者の血液検査報告書やDR検査(X線透視を使用した疾患の診断)報告書を改ざんし、入院期間中に発生した薬代や検査費を医療保険で請求し、国家の医療保険基金から390万元余りを詐取した。
人民法院は審理の結果、被告人Aが指定医療機関の実際の支配者として、職員に虚偽の行為を指示し、医学検査データを改竄し、虚偽の病歴を作成し、入院する必要のない患者を入院治療させ、医療保険基金を詐取しており、詐取罪に該当すると判断しました。そしてAは、詐取罪で懲役12年、罰金50万元に科されました。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。