日本行きの旅行者を減らす根拠とは

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第333回)

 日本では「複数の関係者によりますと、中国の文化観光省は、高市首相の台湾有事をめぐる発言を受けて、複数の大手旅行会社の担当者を集め、日本行きの旅行者をこれまでの6割にまで減らすように指示したということです。(改行)政府から指示が出されたことについては、口外しないように注意があったということです」というニュースが報じられています(注1)。
 この指示には何らかの法的根拠はあるのでしょうか。中国の旅行法(2013年4月25日主席令第3号公布、同年10月1日施行。2018年10月26日主席令第16号公布で最終改正・施行)第4条は「観光業の発展は、社会的効果、経済的効果及び生態的効果が統一される原則に従うものとする。国は、各種市場主体が観光資源を効果的に保護することを前提に、法に基づき合理的に観光資源を利用することを奨励する。公共資源を利用して建設された観光施設は公益性を体現しなければならない」と規定しています。また、同法第5条は「国は健康的で文明的かつ環境に配慮した観光スタイルを提唱し、各種社会機関による観光公益宣伝活動を支援・奨励するとともに、観光業発展に顕著な貢献をした団体及び個人に対して表彰を行う」と規定しています。
 ここで問題となるのは「中国にとって、日本に行かないこと」が「各種市場主体が観光資源を効果的に保護すること」や「健康的で文明的かつ環境に配慮した観光スタイル」に該当すると解釈できるのかということです。ただ、少なくとも中国政府という「国」は、法律上「奨励」や「支援」までしかできないと言えます。
 同法第7条第2項は「県級以上の地方人民政府は、観光業務の組織と指導を強化し、関連部門または機関を明確にし、当該行政区域の観光業の発展と監督管理を統括調整する」と規定しており、観光業務に対し直接の「指導」をできるのは、県以上の地方政府ということになっています。すると、今回報じられている「日本行きの旅行者をこれまでの6割にまで減らすように指示」というのは、あくまで中国政府から旅行会社への「お願い」あるいは「自主規制を求める」ものと考えられます(むろん、超法規的に強制力をもって命令している可能性もありますが)。
 もっとも、自主規制を促すものといっても、中国のような政府の力が強い国家の場合、それに反対することはなかなか難しいと思われます。しかし、法的な構成はこのようになっているということです。

〈注〉
(1) 「中国政府「日本への旅行者を6割にまで減少を」国内旅行会社に指示」(YAHOO!JAPANニュースウェブサイト)〈https://news.yahoo.co.jp/articles/7a02760
dfcf16d4ffdefb3f093ea4b8555839703〉2025年12月25日更新、同月26日閲覧。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。