中国法における「情」理論が『人民日報』に再び

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第312回)

 『人民日報』2025年10月14日付5面に「法治が明瞭になるほど、社会は文明的になる(法治越昌明,社会越文明)」という記事が掲載されました。これによれば、法学の学生から真の法律家になるのは、「紙の上の法」を「行動の中の法」へと変えていくことであるとしています。そして、その具体例として、「法理と情のバランス」こそが温かさであるとも述べています。これは、中国の人民法院(裁判所)における法運用でよく見られる現象で、法律通りの運用を行った場合、かわいそうな人が救われない場合があり、そのような場合には「情」を「法」より優先させた結論を出すという中国独特の法運用です。このような「情」や「かわいそうな人を救う」ということを考えると、法律に定められた通りの結論が得られず、事前にどのような法運用が行われるか予想がつかず、中国でビジネスなどを行う場合、困ることになります。
 しかし、この『人民日報』の記事ではその「情」こそがやはりまだ重要であるとしているのです。しかも、法理と情のバランスをとる(情を判断基準に入れる)ことは「妥協」ではなく、情を含めることが「正義」であるとしています。
 中国法はまだ日本などとは理解し合えない思考法を持っているようです。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。