食品・医薬品に関する賠償問題の一考察

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第313回)

 中国には、『人民法院報』という法律専門の新聞があります。2025年10月16日付7面に食品・医薬品に関する賠償問題のQ&Aが掲載されました。今回は、これまでとはやや趣向を変えて、このQ&Aの中から一つの問答を見ていきます。

「知っていて偽物を買う」行為を行う者が、食品安全基準に適合しない食品を少額でかつ複数回購入し、複数の事業者に対して懲罰的賠償を請求する場合、賠償金額はどのように認定されるのか。

この問いに対して「回答」は、現実に、一部の「知っていて偽物を買う」者は、意図的に各地で賞味期限切れなど食品安全基準に適合しない食品を探してこれを10元以内で購入し、複数の事業者に対して各地の裁判所に返金請求と1000元の懲罰的賠償責任を求める訴訟を起こしているものの、その請求は容認されていないとしています。一応、「最高人民法院による食品医薬品懲罰的賠償紛争事件の審理における法律適用に関する若干の問題の解釈(最高人民法院関于審理食品薬品懲罰性賠償糾紛案件適用法律若干問題的解釈)」では、合理的な生活消費の必要範囲内で「偽物を故意に購入する者」が提起する懲罰的賠償請求を支持すると規定しているものの、10元程度で購入して、1000元の懲罰的賠償責任を負わせることは合理的な範囲を超え、認められないということです。

 なお、懲罰的賠償責任とは、強い非難に値する加害行為が行われた場合に、実際の損害発生額を越えて懲罰的な金銭賠償を認めるという制度です。そう考えれば、確かに分かっていて、10元で買ったものの賠償責任が1000元というのは高すぎて合理性がないと言えるかもしれません。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)
アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。