農業FOCUS【肥料】自給率高めるため国消国産を推進/中東情勢の緊迫化で「食料不足」に陥る懸念が一気に露呈

 農業を巡る問題で特に近年、注目されているワードに「国消国産」がある。「日本で消費する食べ物はできるだけ国内で生産する」ことを実現する具体的な取り組みの一つが、化学肥料の自給率の向上だ。また、畜産の排せつ物の適正管理によって循環型農業を形成し、持続可能性を高める取り組みも各地で進められている。

国内自給率が極めて低い 生育に欠かせない3要素

4月から稼働した福岡市西部水処理センターのリン除去回収設備は、コストを抑制した効率的なリン回収が期待されている

 日本は資源が乏しい化学肥料の自給率が極めて低い。農林水産省の資料によれば、植物の成長に必要な窒素を供給する尿素は4%、植物の成長を促すリン酸アンモニウムと作物の根や果実の成長、病害耐性に欠かせない塩化カリウムに至っては0%だ。しかも、それぞれの輸入先を見ると、尿素はマレーシアが75%、リン酸アンモニウムは中国が73%、塩化カリウムはカナダが68%を占めるなど、特定の国に大きく依存している。政府はリスク回避のため輸入元の多元化を図っているものの、何らかの要因で輸入がストップ、または、大幅に減少した場合、農作物が栽培できずに深刻な食料不足に陥りかねない状況にある。実際、今春には、中東情勢の緊迫化によって、複数の国が化学肥料の生産量を減らし、世界の肥料相場はわずか1週間で40%も値上がりした。
 こうした事情を背景として、化学肥料を国産化する動きが加速している。例えば、国土交通省の下水道革新的技術実証実験の採択を受けて、8都県市で計11のリン回収施設が整備されている。全国で毎年、発生する下水汚泥には、国内のリンの年間需要量の6分の1に当たる5万トンが含まれているとされる。しかし、製造プラントの初期投資には巨額のコストがかかるほか、成分の安定性の確保や法的な規制への対応など複数の課題がある。法的な規制とは、肥料化する際は主成分や有害成分の分析を行い、基準を下回るように製造しなければならないことを指す。各リン回収施設では、こうした課題を克服するための実証実験が進められている。
 このうち福岡市では4月、西区に新設したリン回収施設が稼働した。市とJA全農ふくれん(福岡市)、汚泥再生処理施設の建設を手掛ける月島JFEアクアソリューション(川崎市)による共同研究体で実施し、来年度中にも国内最大規模の年間300トンの肥料製造を目指す。
 市は国内で初めて、1996年に東区の和白水処理センターで下水からリンを取り出す施設を導入。2022年にはJA全農ふくれんと協定を締結し、再生リンを原料とする肥料「E・GREEN」を販売している。西区の施設では、リンの含有率が高い「余剰汚泥」とリンの含有率が低い「初沈汚泥」を別々に処理し、余剰汚泥からのみリンを効率的に回収できるという。施設も小型化できるため、維持管理コストを下げられるメリットもある。ちなみに、同量の余剰汚泥と初沈汚泥に含まれるリンの割合は、95対5だという。
 JA全農ふくれんの永田雅彦副本部長は「民間企業が単独で再生リン製造施設を建設することは、コスト面から難しい。したがって、福岡市西区での取り組みがしっかりと成果を得られることが証明され必要だという共通認識が高まれば、他のエリアで国や自治体などとの連携による新たな施設整備の参考になる」と期待を込めて語る。

排せつ物を適正に管理し 畜産の持続可能性を向上

 環境負荷の低減や持続可能性の向上という観点から、家畜排せつ物を適正に管理して利用する重要性が今後さらに高まっていくことは間違いない。鹿児島県の酪農・肉用牛生産近代化計画書によれば、同県では家畜排せつ物のうち堆肥化されたものが農業利用の74%を占めるが、生利用も6%みられるという。これを受けて「適切な管理のもとで堆肥化をいっそう推進する必要がある」とするものの、関係機関や団体が一体となって畜産環境保全対策を推進してきた結果、「家畜排せつ物の管理の適正化および利用の促進に関する法律」に規定される管理基準は「ほぼすべての適用対象農家で順守されている」とする。
 また、熊本県は同計画書のなかで、家畜排せつ物から生産される堆肥は畜産農家の自給飼料生産だけでなく、飼料用イネ生産における資源循環や稲わらとの交換などに利用されており、国産粗飼料の確保や水田の地力向上の観点から有用であると述べられている。一方で、堆肥散布や稲わら収集などの作業は畜産サイドを中心に行われているが、近年は高齢化や担い手の減少によって対応が困難になっていることを課題として指摘。耕種農家が利用しやすい堆肥の生産や広域流通の促進により、畜産農家と耕種農家との連携を推進することが、環境と調和の取れた畜産経営には不可欠としている。
 両県の課題は、家畜飼養頭羽数の多いことも大きな要因と言える。こうした課題に対応するため宮崎県は同計画書のなかで「堆肥の需給バランスの改善が課題であり、堆肥の県外・農外への利用拡大を推進する」と対策を述べる。さらに「堆肥としての利用が進まない地域等においては、収益性や地域の送電インフラの状況を見極めたうえで畜産バイオマスエネルギーによる固定価格買取制度(FIT)の活用等のエネルギー利用等についても検討する」としている。
 この取り組みのベースとなるのが粗飼料自給率100%を目指した「宮崎アクション」だ。同県では年間約400万トンの家畜排せつ物が発生し、その80%が堆肥やエネルギー源として利用され、残る20%は浄化処理されているという。そのうえで、ペレット化や堆肥と化学肥料の混合などによる堆肥の高品質化、堆肥利用マッチングの推進、耕畜連携をはじめとする地域内流通や県外への広域流通の推進を図っている。
 この基本方針を踏まえて県内7地域で耕種連携と畜産農家などが連携したコンソーシアムが発足し、優良事例を県域に波及させる事業を展開している。この横展開には、堆肥供給者の情報が地域ごとに検索可能なホームページを活用。耕種側が求める堆肥が選択できるよう堆肥原料の種類が調べられるほか、施肥量を自動計算できる。地域内の堆肥資源の活用による、国際情勢の影響を受けにくい畜産経営への転換に向けた各地の取り組みは、これからも続く。
(竹井文夫)