Spotlight【防衛特需】基地施設の更新・改修で地場建設に恩恵も/防衛費増額で、「関連工事」が進行中

 2020年度に初めて国内総生産(GDP)比で1%を突破した防衛費は、高市政権下で目標を前倒しして25年度に2%に達し、総額は約11兆円となった。九州、沖縄でも防衛関連の大型工事が相次いでおり、スーパーゼネコンなどが防衛にシフトするなか、玉突き状態で地場建設事業者にとってチャンスと捉える向きもある。

老朽化した全国の施設整備 5年間で約4兆円を投じる

九州・沖縄は地政学的に防衛の最前線に位置する

 中国の軍事的な脅威と「台湾有事」への備え、北朝鮮のミサイル発射、ロシアのウクライナ侵攻など、日本を取り巻く国家安全保障環境は、かつてない緊張感を生んでいる。こうした状況のなか防衛費は伸び続けており、2023~27年度までに合計43兆円を投じる「防衛力整備計画」が進行中だ。4年目の26年度当初予算は、過去最大の9兆円超(米軍再編関係経費などを含む)となっている。
 防衛費は安倍晋三政権下で増加に転じ、20年度に初めてGDP1%を突破、22年に岸田文雄内閣で、安全保障関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を策定、27年度にGDP比2%の目標を明記した。高市総理は、この目標を2年前倒しで達成すると表明。25年度補正予算は8472億円で、関連費を含めた総額は約1兆1000億円。2025年度の防衛費の総額は約11兆円になり、前倒しを達成した。
 この43兆円の防衛力整備計画のうち、施設整備費として約4兆円が計上され、全国の自衛隊駐屯地や基地の施設強靱(きょうじん)化プロジェクトが進められている。全国約2万3000棟のうち、約4割の9900棟が旧耐震基準時代に建てられており、この更新・改修する工事が「最適化事業」として展開されている。対象となる施設は全国283地区で、マスタープランが作成され、順次工事が進められており、建設事業者にとっても巨大プロジェクトとなっている。大規模で長時間にわたることもあり、多くはスーパーゼネコンや準大手ゼネコンと地場企業によるJVとなっている。また、発注にECI方式を採用。この方式は、発注者と施工予定者は「技術協力業務委託」を締結、実施設計完了後に施工予定者との価格交渉で合意した場合に工事契約を結ぶものだ。

事業規模は300億以上 馬毛島は予算明かされず

 九州・沖縄では、全県下で防衛関連プロジェクトが進行中だ。福岡、佐賀、長崎、大分の自衛隊・在日米軍基地の建設工事などを管轄している九州防衛局、熊本、宮崎、鹿児島を管轄する熊本防衛支局、沖縄の沖縄防衛局がある。九州防衛局では約1100棟が旧耐震基準で建設された建物だという。また、工事は優先順位があり、高い順に築城基地、健軍駐屯地、鹿屋航空基地、新田原基地、那覇基地などとなっている。
 例えば、築城基地の最適化では新設69棟、改修109棟などで、事業期間は10年程度、事業規模は300~500億円。ここでは昨年、技術協力業務を委託していた大林組JVが特需契約した。健軍駐屯地は新設42棟、改修59棟などで、事業規模は300~500億円、技術協力業務で大成JVと契約。鹿屋は新設79棟、改修87棟などで、事業規模は500~700億円、技術協力業務でフジタJVと契約。新田原は新設85棟、改修76棟などで工事規模は300億円、技術協力業務で前田建設工業JVと契約した。那覇基地は、新設96棟、改修166棟で、事業費は700億円以上、昨年、技術協力業務を委託していた大成JVと工事契約した。
 施設整備以外では、佐賀駐屯地が陸上自衛隊の輸送機「オスプレイ」の佐賀空港への配備計画の一環で整備される施設を、技術協力業務を委託していた大成JVと契約。佐世保基地では、技術協力業務として五洋JVと契約。事業規模は550~600億円。また、大分分屯地では火薬庫が整備中だ。
 一方、異例の巨大工事が行われているのが鹿児島県の馬毛島で、米軍空母艦載機の離発着訓練の移転先とするため、無人島を丸ごと基地化している。九州地方整備局が発注している滑走路新設工事は、大成や鹿島などのJV、仮設桟橋工事では五洋や若築、東洋などの各JVが契約している。総工費は発表されておらず、調査段階の12年度から予算を積み上げると、約1兆3000億円にのぼる。作業員は約6000人、27年の完成を目指していたが、波の高さや人手と機材不足を理由に、30年末に延期した。

防衛工事の“玉突き”で異変 地場業者は受注拡大に期待

 こうした押し寄せる防衛需要は建設業界に異変をもたらしている。防衛の仕事を手がけた経験のある地場建設事業者は「近年、防衛関連の仕事はあふれんばかりの勢い。公共事業なので1割もしくは1割5分の利益がとれる仕事」と話す。ただ「事業者にとって防衛関連の経験値が問われる側面もある」とし、「門戸は開かれているが、簡単には参入できない領域」とも打ち明ける。
 福岡の地場ゼネコン関係者は建設業界の異変を指摘する。「防衛絡みでスーパーゼネコンが軒並みシフトしていることで、民間工事を含めて、これまで地場が手がけることができなかった規模の工事が回ってきている。我々にとってはチャンスだ」と意気込む。技術力の高いスーパーや準スーパーが手掛けていた工事レベルは高く、簡単に地場事業者に置き換えが進むわけではないが、すでにその兆しがある。
 ある福岡の高級マンションの建設では「これまでスーパーゼネコンが元請けで受けてJVという流れだったが、地場の有力業者が単独で受けている。これまでにはなかったケースだ」と指摘。在京のデベロッパー関係者は「建設費の高騰で工事を受けてくれるゼネコンを探すのに苦労している。品質を担保して、信用も実績もある事業者の置き換えは簡単ではない」と嘆く。
 一方で、防衛予算の拡大を受けて「馬毛島のように予算規模が見えない工事に巨額の税金が投じられている。現場は難しい場所であるのは確かだが、同時に非効率な現場の実情も聞き及ぶ」ともらす。今後、さらに膨らんでくることが確実な防衛需要は、地方の建設業界にとって地殻変動をもたらす動きにつながる可能性もありそうだ。
(鳥海和史)