新大学構想【九州】私大新設は地方にとって福音か?/「武雄アジア大」は認可されるが学生確保など不安の声も
2025年10月20日
少子化の進行などで全国の私大の過半数が定員割れするなか、来春の開学に向けた新設大学の申請が全国で8校あった。今夏に文部科学省が九州で唯一認可を出したのが武雄アジア大(佐賀県武雄市)だが、多額の公費投入や地方に立地するが故の学生確保など、開学後の大学経営の安定的なかじ取りが求められている。
定員割れ私大3年連続過半 少子化の進行で淘汰不可避

今年8月、文部科学省(以下、文科省)は大学設置・学校法人審議会において、来年度開設予定としている大学などの認可について答申し、大学新設に関して「コー・イノベーション大」(岐阜県飛騨市)、「大阪医療大」(大阪市)、「武雄アジア大」(佐賀県武雄市)の3校を来年4月開学する新設大として認可した。今回の大学新設の申請は全国で8校あり、九州からは4校が申請していた。
今回3校が認可を受けたが、少子化時代において大学運営は厳しさを増している。日本私立学校振興・共済事業団によると、今年度に定員割れとなった大学は全国594の私立大のうち53・2%となった。半数以上の私立大が定員割れとなるのは3年連続のことだ。また、今年度の私立大全体の定員数は、昨年度と比較して1114人少ない50万2755人となり、22年ぶりの減少にも転じた。ある九州の私立大関係者は「これまで安定的に100万人代だった出生数も昨年は約68万人と急激に減少し、今後10年でこれまで以上に学生争奪戦が苛烈(かれつ)になる」と吐露する。すでに文科省は、定員割れの大学について新学部などの設置基準を厳格化する方針を示しており、今後、地方を中心に規模縮小や統廃合が進むとみられている。
一方で別の大学関係者は「大学進学率の低い地方では、(どの大学であれ)大卒者が尊ばれる傾向にある。また、学校法人からみれば4年制大は、4年間の学費や補助金、寄付金を見込めるため、大学ビジネスの熱は冷めないだろう」と話す。
九州は4校が大学新設申請 10月末に認可の可能性も?
ここで、九州から申請し、来年4月開学の認可に関して審議継続(または申請取り下げ)となった大学の概要をまとめておく。
福岡国際音楽大(仮称、福岡県太宰府市)は、高邦会・国際医療福祉大グループである高木学園が運営母体。昨年グループ入りした九州学園が運営する福岡女子短大の音楽科(募集停止済)の既存施設を生かし、「音楽のまち・福岡に初の4年制音楽大」としてアピールしている。
西日本看護医療大(同、福岡県北九州市)は、北九州病院グループの創心会が運営母体。少子高齢化社会で、ニーズの高まる看護人材のさらなる輩出のため申請した。
博多大(同、福岡市)は、20年12月に設立された「(一社)考働経営研究所」が運営母体(23年8月に博多大学設立準備会へ名称変更)。データサイエンス系の学部構想を掲げ、九州で不足するデータプロフェッショナルの養成に取り組む。なお、博多大は今年6月に諸般の事情により、1年遅れの27年4月開学を目指すと発表している。
本稿締め切り時点で、今夏、認可が出なかった福岡国際音楽大および西日本看護医療大は、来年4月開学の姿勢を崩していない。前出の大学関係者は「今年4月に開学した日本財団とドワンゴ学園が運営する『ZEN大』は、文科省が昨年10月末に認可した経緯がある。審議継続となった九州の2校は何度も学校説明会を開催し、満員になったと公表しているため、学生募集の影響も鑑みて、11月初頭まで来年4月の開学は絶対に譲らないだろう」とみている。
大学進学者の8割が県外へ 若年層の定着に期待感も…
今夏、認可を受けた武雄アジア大の構想は23年2月、佐賀女子短大(佐賀市)などを運営する旭学園(同)と武雄市間で締結された「新たな教育連携事業に関する包括連携協定」に端を発する。前年に3選した武雄市の小松政(ただし)市長が公約に「若者定着のため、学校誘致を進める」と掲げ、旭学園側は立命館アジア太平洋大(大分県別府市)の開設に携わり副学長も経験し、定年後は学園経営コンサル会社「今村食堂」を立ち上げた佐賀女子短大の今村正治学長が指揮する体制下で同構想は進行、具体化した。その後23年6月に、25年4月開学を目指す「武雄アジア大」として韓国をはじめとする国際文化を学ぶ「現代韓国学部(仮称)」と、教員に縛られない人材を育成する「次世代教育学部(同)」の2学部制を公表。しかし、同8月に開学を1年遅らせることを発表し、昨年2月には「東アジア地域共創学部」(140人)の1学部制とするなど、「短期間で迷走が目立った印象が強い」(地元関係者)。また、総事業費約36億円のうち武雄市が約12億円、県が約6億5000万円の公費を注入することに対して反発もあり、今年7月に反対署名が1000筆以上集まった。
学生確保も課題だ。県内の四年制大は佐賀大と西九州大の2校のみで、毎年高校卒業後に大学進学する18歳人口の約8割が県外流出するなど若者の地元定着が課題。特に県西部には大学が立地しておらず、武雄アジア大は地元にとって待望の4年制大となるはずだが、学長予定者でモンゴル研究者の小長谷有紀氏はブログ(7月16日付)で「学校法人の生き残り施策ならば、佐賀市内に大学をつくるのが道理」(要約)と、すでに学生確保が難しいことを示唆。今年9月の武雄市議会でも複数の議員から学生確保に関して質問が出るなど、今後の運営に対して不安が募っている。小松市長は答弁で繰り返し「開設までは支援するが、その後の運営は支援しない」とする一方で、全国では運営に行き詰まった私大が公立化する事例がここ10年で複数あり、公費投入が健全な大学経営をゆがめる可能性も指摘されている。
地方にとって人口減および若者流出が避けて通れないのは明白で、文科省の厳格な審査を経て認可された武雄アジア大も決して楽観視できないだろう。「地域の生き残り戦略」も掲げる同大が、人口減時代の新たな大学経営モデルとなるか、注目が集まる。
(梅野 翔平)