【地域共創】住民の自立意識で地域の足存続へ/自治体が運営主導する「公共ライドシェア」が拡大
2025年06月20日
公共交通の存続が危ぶまれるなか、昨年登場したのが、民間のタクシー事業者が運営する「日本版ライドシェア」だった。コロナ禍で、タクシーの運転手不足が深刻化したこともあり、自治体が運営を主導する「公共ライドシェア」も浸透している。北九州市ではこれをさらに進化させ、地域の足は地域住民で守る新たな取り組みを進めている。
日本版ライドシェア浸透も 運転手不足で自治体主導へ

利用者不足や燃料費高騰、運転手不足などによって公共交通の存続危機が全国的に深刻化するなかで今年4月、国土交通省は「地域の足」「観光の足」を確保するため、何らかの対応が必要な交通空白を抱える地域で、交通空白地の解消に向けたサービスの仕組み構築を支援する「交通空白解消緊急対策事業」として、全国で200件の事業を採択した。
地域の足を維持する新たな交通サービスでは、昨年から一般のドライバーが有償で乗客を運ぶ「日本版ライドシェア」がスタート、全国約130地域、935事業者(今年3月末時点)が参入するなど一定規模の活用が進んでいる。日本版ライドシェアは民間のタクシー会社が運営していく取り組みだが、タクシー会社の運転手不足などを背景に、自治体が運営を主導する「公共ライドシェア」に切り替える動きも広がっている。
今年4月から福岡県宗像市は、タクシー会社の空き車両を活用し、一般のドライバーが有償で乗客を運ぶ公共ライドシェアの実証を始めた。同市内では西鉄バスとコミュニティーバスが運行されているが、近年は西鉄バスの路線廃止や減便などで、カバーできない交通空白地が発生している。現状の定時定路線のコミュニティーバスでは、運行コースから外れた場所に住んでいる特に高齢者が利用しにくい側面がある。そのため市は、利用者が事前予約して利用する路線バスとタクシーの中間的な「デマンド型交通」が有効と判断。デマンド型にはオンデマンド型バスとライドシェアなどがあり、市内の日の里団地でオンデマンド型バスを導入したが、普通2種免許の運転手が必要で、継続的な運転手確保に不安を残す。そこで、ライドシェアでは、日本版と公共の2種類のうち、公共ライドシェアを選択した。
同市は、もともとコミュニティーバスを公共ライドシェアに置き換える可能性を検討していたが、「運転手がおらず、遊休車両ならある」との市内タクシー会社への聞き取り結果を受けて、運営は自治体が主導し、市内の複数のタクシー会社に運営を委託、緑ナンバー車両で7時から20時まで運行する。遊休車両を使う点が特徴だ。ドライバーは国土交通大臣の認定講習を受ける必要がある。今年度内に市内数カ所で実証し、27年度に全市で本格運行に移行予定。市は「遊休タクシーの活用でタクシー会社の収益や利用者の安心感などでメリットがある」としている。
一方、インバウンドの急増を受け、観光地を結ぶバスの混雑やタクシー不足といった課題が顕在化している。そこで今年4月28日から、タクシー運賃相当額に迎車料金1000円を上乗せしたインバウンド向けの公共ライドシェアを始めたのが、日本有数の温泉地として知られる大分県別府市だ。料金は、タクシー運賃相当額に迎車料金1000円が上乗せされる。昨年6月からコミュニティーバスによる公共ライドシェアを導入、同12月には日本版ライドシェアを導入したが、ドライバーの確保が進まなかった。そこで、同市では市が運行主体の公共ライドシェアを活用した。
サービス名は「湯けむりライドシェアGLOBAL」で、運行時間は24時間365日で、公共ライドシェアの24時間サービスは全国的にも珍しい。市職員の副業が認められており、長野恭紘市長もドライバー登録、実際に運転した。5月18日時点で配車依頼のうち約6割を運行、このうちインバウンドの利用が約6割を占めた。実証運行は来年3月末までで、本格導入を判断する。
市が運転手募集呼びかけ 交通の地産地消を目指す
同じく交通空白地の解消に向け、官民連携で「北九州モデル」に取り組む北九州市は、タクシー大手の第一交通産業、西鉄バス北九州が連携し、市内各地域を走る乗り合いタクシー「おでかけ交通」のドライバーを、行政が窓口になって確保し、将来の交通空白地の発生を予防する。第一交通は、2000年以降、北九州市から鉄道やバス路線などが撤退し、交通空白地となった過疎地に乗り合いタクシーを運行する「おでかけ交通」を行っており、現在、全国27道府県77市町村315路線(デマンドバス含む、2024年10月末)に拡大している。ところが運転手不足が進むと路線維持が難しくなる。そこで、北九州市内10地区で運行しているおでかけ交通に地域人材を活用していくが、市が地域に対して運転手募集の呼びかけを行い、交通事業者が採用試験・教習を担い、地域住民がおでかけ交通に乗務する仕組みづくりに取り組む。6月ごろに市が自治会などの地域コミュニティーをとおして、おでかけ交通のドライバー募集を呼びかける。こうした取り組みは九州初。
市内の公共交通機関の利用者数は、五市合併した1965年は98万人だったが、23年には31万人に減少。01年~23年までに79路線、距離205キロが廃止となった。タクシー運転手はコロナ禍以降で900人減少、バス運転手は現在50人が不足している。武内和久市長は「交通の地産地消といえば言い過ぎかもしれないが、地域の足を地域の皆さんと守っていく」と話す。
北九州タクシー協会会長で第一交通産業の田中亮一郎社長は「北九州市は政令市の中でも日本の5年先を行く高齢化の都市。現在は交通空白地はないが、今後はそうなる地域も出てくる」と懸念を示し、今年度内にもドライバーを確保していく。「個々の事業者が募集するだけでなく、自治体の力を借りながら、ドライバーへの関心を高めてもらうことが第一」とし、市がバックアップすることで信用度も上がり、地域貢献に意欲を持つ人の採用が前向きに進む効果を期待する。
さらに、西鉄バス北九州と第一交通のタクシーの運転手が「例えば時間帯によってバスを運転したり、タクシーを運転したりすれば、ドライバーの活躍の場は広がる」との構想もある。公共交通が苦境に立たされる中で、地域の足は、地域住民の自立的な意識で守っていくことを予感させる。
(鳥海 和史)