SCOPE【短期大学】九州では7校が学生募集停止表明/文部科学省の「修学支援制度」見直しなどがトリガーに
2025年05月20日
1990年代に学校数・学生数のピークを迎えた短期大学が存続の危機に立っている。少子化の進展や女性の4年制大志向の高まりに加えて、文部科学省が貧困世帯を対象とする「修学支援制度」の見直しを2024年度から開始したことが大きいとされる。これらがトリガーとなり、九州でも学生募集を停止する学校法人が相次いでいる。
学生数ピークから約84%減 若年層の流出拍車に懸念も

全国で短期大学(以下、短大)の閉学ドミノが止まらない。日本私立短期大学協会(私短協)によると、2025~27年度にかけて少なくとも45の短大が学生募集を停止するとの見通しを立てている。文部科学省(以下、文科省)によると私立短大は1997年度の504校をピークに減少に転じており、24年度時点では282校。私短協が発表した45という数字は、全国の私立短大の約16%に該当する。加えて、24年度の短大の学生数は約7万8300人で、ピークだった1993年度の約53万人から約84%減少するなど学生数減少にも歯止めがかからない。
九州に目を向けると、25年度以降に学生募集停止を表明した各県の短大は純真(福岡)、西南女学院(同)、福岡女学院(同)、九州龍谷(佐賀)、中九州(熊本)の5校で、26年度以降では南九州(宮崎)と鹿児島純心女子(鹿児島)の2校。今年3月末時点で九州域内の私立短大は35校あり、そのうち7校がすでに学生募集停止を表明しているため、5校に1校が直近で閉校する計算になる。
地方にとって短大閉校の影響は大きい。特に、短大は幼児教育や保育、介護といったいわゆる「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人材を輩出してきた。私短協によると、「短大は入学者の約7割が所在する都道府県内の出身者で、かつ卒業生の7割以上が地元で就職する地元密着の傾向が強い」という。それだけに、短大が立地する九州のある自治体関係者は、短大閉校で「いよいよ若年層の流出に歯止めがかからなくなる」と悲観する。一度流出した若年層が地方へ戻るハードルは高いといい、地元事業者の人材確保の難易度が高止まりする負の循環も懸念されている。
短大生採用し人件費抑制に 近年では四大卒へとシフト
90年代に短大の学生数がピークを迎えたのは、バブル経済が崩壊し、学費が安く、保育士などの資格を取得しやすいことなどが重宝されたのが大きいとされる。企業側も経営が厳しくなる中で、全体の人件費を抑える役割として総合職を減らし、対象が短大卒の女性という「一般職」を新たに設けた動きもこれに拍車をかけた。この背景には、4年制大学卒の女性を採用しても20代後半で結婚・出産などのライフイベントを機に数年で辞めてしまう可能性が高く、一方で短大卒の女性は20歳から採用できることから企業で長く働いてもらえる、という考え方が広く浸透していたことがある。
しかし、2000年代以降は晩婚化や未婚化が進み、また雇用面でも男女差が徐々に小さくなり、結婚や出産を経験しても復職する女性が増えた。企業側も生産年齢人口の減少により働き手が少なくなる中で、短大卒より四大卒の人材に市場価値を見出すようになったため、短大の人気は徐々に落ちていったとされる。
さらに、短大経営を圧迫するものとして、文科省は24年度から「3年連続学生数が収容定員の8割を満たさない場合、原則として国の修学支援制度から除外する」との表明がある。同制度は、専門学校や短大、大学への進学を希望する家庭に対して、各家庭の所得金額に応じて授業料や入学金が減ったり、原則として返済する必要のない奨学金(給付型奨学金)などで支援する制度だ。卒業までの学費が安価な私立短大は、相対的に低所得世帯が多いといい、そのような世帯の子弟の受け皿となってきたが、前述の“ペナルティー”により全国の約9割に上る短大が定員割れしている現状から同制度の対象外となる事例が続出、ここ数年の短大閉校表明ラッシュにつながったとされる。これらを受けて文科省は、今年度から学生の進学機会が減少しないようペナルティーを緩和すると発表している。
一方で、ある学校法人幹部は「企業と同じように、学校法人も経営が厳しければ退場するのが筋ではないか。留学生頼りの学校や補助金、助成金などで無理して生き長らえるより、自力で健全経営するのが本来の姿だ」と指摘する。
西九州短大県域越えた連携 他学校法人が救済する例も

短大経営に逆風が吹く中、短大側も手をこまねいているわけではない。
西九州大短大学部(佐賀市)は今年2月、長崎短大(長崎県佐世保市)および長崎女子短大(長崎市)と共同で人的資源や設備を共有化し効率化を図る一方で、共同の教育課程を設置して多様な学習環境を提供するなどの「共創プラットフォーム」を構築すると発表した。これらの取り組みは、文科省および日本私立学校振興・共済事業団が支援する「少子化時代を支える新たな私立大学等の経営改革支援」事業の募集でメニュー1・2両方に選定されている。このような県域を越えた短大の連携は珍しく、西九州短大は「何かしらアクションを起こさなければ、淘汰(とうた)されていく」と危機感を強める。今後も九州を中心に短大連携を進めていくといい、さらに社会人のリスキリングなど企業との連携も視野に取り組む方針。
他にも、福岡女子短大(福岡県太宰府市)を運営する九州学園は、25年度から音楽学科のみ募集停止することを発表。その後、経営に苦しむ同学園を支援することを目的に国際医療福祉大・高邦会グループが学生募集の起爆剤として、同短大の既存設備を活用して、新たに「福岡国際音楽大(仮称)」の来年4月開学を目指すと発表するなど、九州でも学校法人再編の動きが少しずつ出てきている。
(梅野 翔平)