2008年11月号204ページに掲載

タコすてーき


 食い物に関する私の直感は、このところ90%以上の確率で、おいしいものを探り当てている。もっともその対象はB級グルメに限られるのであって、高価なものは別。高くておいしいのは当り前(高くてマズイものも結構あるが)で、安くておいしいものを発見したときの喜びは、何ものにも代え難いものがある。
 日ごろ、机に向かっての仕事が多いこともあって、気分転換と運動不足解消も兼ねて、ほとんど毎日、近くのマーケットやスーパーへ、いそいそと足を運ぶ。鮮魚など、見切りものが値引きされる夕刻はお買い得。1尾350円の長崎産キンメダイなど、煮付けにしたら、うなるほどの味だった。
 夏は、小アジや小イワシが1パック200円ほどで安く出回り、これをまず空揚げにして、塩コショウを振って食べれば何をかいわんや。発泡酒がプレミアムビールに化けたような美味。残りを南蛮漬けにすれば、数日酒のさかなに不自由することがない。
 こんなしみったれグルメの基本は、まず健康。年齢とともに食生活を軌道修正していかなければならないが、中高年男性の前立腺などの病気は、欧米化した肉中心の食事が主な原因と聞いてからは、専ら魚を主とした食事へとシフトしている。
 魚に傾斜した食生活の中で、テレビに時おり顔を見せる「さかなクン」という、かん高い声の年齢不詳の青年を知った。フグのかぶりもの頭にしてヒョウキンなので、お笑いタレントかと思っていたら、魚のことについては驚嘆すべき知識を持った、東京海洋大学准教授だというから驚いた。
 彼は、小学2年のとき、友達が描いたタコの落書きに興味を持ち、近所の魚屋さんへ行って、店先に並ぶゆでダコに見入った。それからというもの、母親に頼み込んで1カ月間、夕食にタコ料理を出してもらい、日曜日ともなると水族館へ一直線。タコを見続けたという。
 小学3年になると、軟体動物研究の権威といわれる大学教授に「タコ博士になりたい」という手紙を出し、「頑張って」との返事をもらい、飛び上がって喜んだ。そして、千葉県の漁港までタコ見物に行き、様々な魚へと関心を広げていった。学校の成績が悪くても、一度も勉強しなさいといわれなかったというから、彼の長所を伸ばす放任主義を貫いたご両親は立派だ。
 この「さかなクン」が涙を流して喜ぶような町が九州にある。熊本県天草市有明町、ここがタコの町である。同町は、名産のタコをシンボルした町づくりの一環として、平成17年7月17日、国道324号線の有明町部分を「天草ありあけタコ街道」と名付けた。その道筋には、タコが多く捕れる夏ともなれば、干しタコ作りのタコがつるされて、8本足のユーモラスな姿を風に揺らせている。
 この風情を町おこしに生かさない手はない。町には「タコみそ」「タコめし」「干しダコの醤油漬け」「巨大タコやき」「タコ丼」など、タコにちなんだ料理が数々あるが、女性で作る町の加工グループ「ありあけワーキング」は4年前、地元の旅館や民宿で膳に出され、人気を呼んでいたタコのステーキを土産物にできないか、と思い立った。秘伝の方法でタコを軟らかく加工し、日持ちを長くすることが課題だったが、真空パックにすることで、これを解決。商品化に成功した。
 いい、これは良い。おいしいに決まっている!新聞に紹介された同町の物産館「リップルランド」が発売している「タコすてーき」を見て直感。すぐさま電話を入れ、注文した。
 まず、ネーミングがいい。「素敵」と「ステーキ」を絡ませた感覚が楽しい。何、オヤジギャグの極み、ですと。それで結構。もともとヒョウキンなキャラクターのタコには、少々照れるぐらいの名前の方が似合うのである
 さて宅配便で届いた「タコすてーき」は、全国の特産品コンテスト食品部門でグランプリを受賞した逸品だけあって、適度に軟らかく、タコ本来の味がそのまま生かされて、期待を裏切らない美味。1箱125グラム入りで、しょうゆ味、みそ味、トウガラシが利いたピリ辛味の3種類とも、1パック840円。酒のさかなにはもってこいだ。

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