2008年6月号82ページに掲載
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◆座談会

産業振興が「人づくり」
「まちづくり」を促す

新たな時代を迎えた「モノづくり」のまち・北九州


安川電機 社長(北九州商工会議所副会頭)利島 康司氏
九州工業大学 学長下村 輝夫氏
北九州産業学術推進機構(FAIS) 専務理事 三木 昌義氏





●三木 昌義(みき・まさよし)
 1967年早稲田大商学部を卒業し東陶機器に入社。大阪支社販売推進部部長、札幌支社長などを経て、00年執行役員(特販本部本部長)、02年常務執行役員(同)。03年財団法人北九州産業学術推進機構に転じ中小企業センター長、キャンパス運営センター長を務めた。05年から専務理事。1943年3月生まれの65歳。







●下村 輝夫(しもむら・てるお)
 1969年九州工業大工学部を卒業、71年同大学大学院を修了し、九州芸術工科大助手に。83年九州工業大講師、84年同大学助教授、87年同大学教授に就任した。93年から2年間同大学地域共同研究センター長を務めた後、96年同大学評議員、98年同大学工学部長に。03年から学長を務めている。専攻は応用光学、計測工学。1945年2月生まれの63歳。






●利島 康司(としま・こうじ)
 1964年慶応大法学部を卒業し安川電機製作所に入社。システム技術部計画部長、ロボット事業部副事業部長などを経て95年取締役に就任。00年常務、02年専務に就任し、この間ロボット事業部長、ロボティクスオートメーション事業部長などを務めた。04年3月に社長昇格。北九州商工会議所副会頭、ロボット産業振興会議会長など多くの公職がある。1941年6月生まれの66歳。



 「モノづくり」のまち・北九州が、活力を取り戻してきた。「モノづくり」を支えてきた鉄鋼を中心とした素材型産業が復活してきたのに加え、高付加価値産業の自動車関連産業の集積が加速し、産業構成は一段と厚みを増した。「モノづくり」は「人づくり」を促し、それはまたにぎわいのある「まちづくり」へとつながっていく。産学官連携が、そうした明るい展望を切り開いていくけん引力の一つとなる。関係3氏に語ってもらった。進行/本誌編集長 山口真一郎

素材型産業+高付加価値産業

 山口 もともと北九州市は、鉄鋼や化学などの素材型産業を中心にした我が国を代表する産業都市として発展してきましたから、「モノづくり」産業の集積が非常に高いところです。そこへ新たに高付加価値産業の代表格とも言える自動車関連産業が急速に集積を高めてきており、「モノづくり」の質と量が格段に進化しつつあると思います。まず皆さん方に「モノづくり」という視点から地域経済の状況について、お伺いしたいと思います。利島社長、いかがでしょうか。
 利島 お話のように、北九州は鉄鋼を中心にした素材型産業によって発展したきた都市ですが、ご承知のようにその鉄鋼が「失われた10年」と言われる不況期に大変厳しい状況に陥り、伴って北九州自体が停滞を余儀なくされてきました。ところが、ここにきて新日鉄さんも住友金属さんもかつての勢いを取り戻し、盛況となってきました。またセメントにしましてもコスト的、環境的にみて日本での製造拡大は難しいと言われる中で、関東や関西地区が生産を落としたことから、その分福岡県での生産が高まるという好条件にも恵まれています。鉄が良くなり、セメントも良いということになりますと必然的に地域経済に好影響を及ぼすことになり、当社にしましても一般産業用需要が増えるという結果になっているわけです。そうしたところへ自動車関連産業がどんどん進出してきていますから、当社のロボットも大変に潤っているというのが現実です。まあ、現状はいいことづくめではないでしょうか。
 ただ、これは比較論的な話でもありますから、これで将来も安泰かと言うと、まだまだ多くの課題を抱えているのも間違いありません。そうした課題については産学官が共通の認識の上に立って問題解決に向けスクラムを組んでいかなければならないと思っています。
 下村 大学が地域経済の状況を見ます時、企業からの相談件数の多寡、その内容が評価指数の一つとなります。最近の状況を見ますと、やはり自動車関連、半導体関連の相談が非常に多くなっています。そうした中で北九州の伝統産業である鉄鋼から転換しようという技術相談が目立って増えてきました。地場の中堅・中小企業が体質を変えようと一生懸命頑張っておられる。そのあたりにも「モノづくり」という伝統の強さというものが感じられ、将来に向けて明るい展望を見せ始めているのではないかと思います。
 いろいろ課題はありましょう。産学、あるいは産学官連携につきましても産業界、大学、それに行政がそれぞれの役割をしっかりと果たしながら連携を強めていくにはどうすればいいか。あるいは人材確保はどうすべきか。人材確保について触れますと、現状は売り手市場で求人倍率は非常に高くなっています。勢い企業側はできるだけ早く優秀な人材を確保しようと青田刈りに走ってしまいがちです。そうした事情は分かるのですが、大学側としては、じっくり育ててから出したい。そこをどうもっていくかも今後の課題でしょうね。いずれにしましても、全般には非常に良い方向に向かっていると思います。
 三木 現状としましては、お二人のお話の通りだと思います。ただ、この好調がずっと続くのかということになりますと、やはり不安定、不透明な要素があるのも確かでしょう。実際、目の前でサブプライムローン問題や原油高といった景況にマイナスに働く問題が起きています。これらにどう対応していくのかということになりますが、やはりそれぞれの産業の高度化が欠かせないと思います。同じ加工でも従来とは違う精密加工とか、そういった技術を中小企業も可能な限り高めていく必要があります。そうしたことに対し、私どもとしましては産学官連携という仕組みの中で取り組んでいきたいと思っています。

「余裕が出てきた」企業の地域貢献

 利島 当社は一応大企業に属すると思いますが、景況がこうした好循環になった時に当社として何をなすべきか考えますと、やはり中小企業の皆さん方のことを考えなければいけないと思っています。
 少々、弁解じみた話になりますが「失われた10年」で大変な苦境に陥った際、結局誰も助けてくれなかったという意識が非常に強いんですね。「自分だけの力で生き抜くしかない」といった思いは、いまだに続いているような気がします。しかし、こうした好況によって当社にしましても地域にしましても多少の余裕が出てきました。そういう時に、「誰も助けてくれなかった」といった被害者的な意識は、もう捨てなければなりません。もう一度、国のこと、地域のことを考え、加えて大企業は中小企業のことまでも考えていく時期にきているのではないかと思います。したがって「自分だけ良ければいい」というのではなく、中小企業の皆さん方とも連携していかなければならないと思っています。
 産学官連携にしましても、企業側からもっと学や官に近づいていくという努力が必要でしょう。人材育成につきましても、今お話した被害者的な意識ですと、人を育てるのも「自分でやらなきゃならない」ということになってしまう。当然、学や官もいろいろと考えてくれているわけですから、連携すればより効果的に人材を育成できるはずです。技術の問題にしても同様で、当社が手掛けているロボットみたいな商品は、レベルの高いところとの幅広い連携が欠かせず、自らそこへ入っていくことが必要なんです。よくよく考えれば、何も自分一人で生きているわけではない。ようやく、そういう気持ちになってきましたし、また企業のトップの方々とお話しますと、そんな機運がずっと高まってきていると思います。

 下村 「余裕が出てきた」というのは大変重要なことですね。その余裕度をいかに大きくしていくかが、それぞれのセクションに求められていることではないでしょうか。企業で言えばCSR、大学ではUSR、要するに社会貢献をどうするかという問題だと思います。
 大学側からしますと、「地域に必要とされる大学」ということが最も大事なことですが、それにはやはり現場をよく知らなければなりません。今、利島社長から産の立場でお話がありましたが、これは学側の足らなかったことを大いに反省すべきでして、やはり地域のニーズを把握する努力が必要だということだろうと思います。企業の皆さん方からは「大学は敷居が高い」「何をやっているのか、よく分からない」といったお話をよく聞きます。やはり情報発信ができていないということなんですね。大学のいちばん重要な役割は、その地域、あるいは国にとって有為な人材を輩出することですから、そのあたりはきちんとやらなければならないと思っています。
 話を戻しますと、余裕度を大きくしていくには、やはり産学官がよく相談しながら、谷が来たらそれを乗り越えていけるよう連携の実を育てていくことが大事です。おそらく、その育て方の一つにCSR、USRがあるのだと思います。「余裕が出てきた」という芽を大事にして、余裕度を大きくしていくよう大学側も努力しなければなりません。
 三木 私どもの役割は、まさにそこにあると思っています。「共同で取り組んだらどうか」とか「大学は決して敷居は高くないから、気軽に相談に行ったらどうか」などと勧めましても、そう簡単には運ばないというのが現実です。それで、産学官連携のための国・県・市からの資金を活用して、いろんな研究会を開き、さらにそれらの研究会から進んだ具体的なプロジェクトを立ち上げることを進めています。この研究会やプロジェクトに大企業や中堅・中小企業の皆さん方に一緒に入っていただいている。もちろん、大学の先生方も入っていただいていますから、研究会やプロジェクトの場を通して自然な形でお互いを理解し、連携を深めていこうというわけです。
 また、ニーズをとらえるというのも簡単なことではありません。それで私どもが間に入り、大学のシーズを十分に理解しつつ、企業の真のニーズはどこにあるのかをとらえる。そのシーズとニーズを付き合わせることによって共同プロジェクトを作っていく。そういうことにも努力していきたいと思っています。おそらく企業側が大学に対して抱いていた、かつてのイメージは随分変わってきたのではないでしょうか。

ターゲットを絞り込んだ産学官連携に

 山口 産学官連携の重要性はかねてから言われ続けてきたことですが、掛け声ほどには進んでこなかったというのが率直なところではないかと思います。しかし、皆さん方のお話をお聞きしますと、北九州ではこれが現実に進んできたように思えます。
 利島 連携するというのは、あるプロジェクト、あるいは共通する事項を共同して進めることだと思います。おそらく、これまでも一つのテーマを据えてやってきたのだと思いますが、そのテーマが次の連携へとつながっていく将来性とか拡張性がないと、結局理論だけで終わっていくことになりがちです。実践を積みながら、より連携を深めたり、新しい連携の仕方を体験していくということがないと、結局モチベーションが出てきません。おそらく、これまではそうした点が欠けるケースが多かったのだろうと思います。
 その点、今は自動車とか、半導体といったテーマがきちっと据えられ、連携のあり方が非常に具体的に議論、実践できるようになっています。ここが、いちばん進んだことだと思います。したがって将来性、拡張性といったものが出てきて、どんどん広がっている。伴って産も学も官もおのおのの立場が向上していくというスパイラルアップが生まれてきています。私どものロボットにしましても、自動車や半導体とくっつき、新たな連携が生まれるという、新しい方向が出てきており、北九州の産学官連携は進化していると思っています。
 下村 テーマが非常に具体的になり、ターゲットがはっきりし始め、方向性が見えてきたというのが過去と違うところでしょうね。これまでの産学官連携は、どちらかといえば官主導の場合が多く、官は官で連携をリードしていただく役割を担っているわけですが、支援していただいてから3、4年しますと「もう自立しなさい」ということになる。しかし、どうやったら自立できるのか、本当に産業が育つようなことになるのか分からない。要するに揺らん期から成長期に移れるのかどうか分からないままで終わっていたのだと思います。それがテーマをぐっと絞り込んだことで、次の成長期へ移ることも容易になってきたということでしょう。

 三木 的が絞られてきたというのは、かなりはっきりしています。技術の確立、あるいは製品化の一歩手前まできたら「このプロジェクトはこれで終わり」というのが、これまでの感じでしたが、今ではそれを商品化、事業化して売り上げや雇用につながるところまで、ちゃんとやらなきゃダメだというふうに変わってきました。国や市にしても、そういう考え方をするようになっています。それで、国や市も事業化に向け、引き続きフォローアップしているというのが現状です。産学官連携は、そのあたりが随分変わってきましたね。

大学のシーズ・特許と企業ニーズの融合

 利島 私ども産の立場からしますと、実業としての成果を見せないといけないわけです。自動車だったら北九州での生産台数を増やす、ロボットだったら生産額を引き上げる。また新たに進出してきた企業と地場企業が連携したり、産と学が共同でベンチャーみたいな企業を立ち上げる。そんな目に見える成果が必要なんですが、それが今、そうなりつつあると思います。
 ただ、日本のあちこちで同じことを言い、やっていますから、北九州、あるいは北部九州ならではの商品、産業を生み出すことが必要になってくると思います。つまり、北九州、北部九州が日本のリーダーになったという証しが出来るところまでいけば合格点でしょう。そこまで行けるんじゃないでしょうか。
 下村 「メード・イン北九州」ですね。実は内閣府、経済産業省が「ものづくり日本大賞」というものを実施していますが、これまで九州は内閣総理大臣賞が取れずにいたんです。それが平成年度に田川産業がしっくいタイルを開発し、内閣総理大臣賞を受賞しました。また新日鉄の協力企業なんかにはすばらしい技術を持っているところがあります。例えば緩まないネジを開発した大喜工業、マグネシウムを1万分の1秒で溶接する技術を開発したアジア技研とかですね。
 現場を回って話を聞きますと、「これはおたくの大学の先生と一緒にやったんです」と言われる。それで、その先生に「きっかけは何だったのか」を尋ねますと、「最初はまったく違う相談だったのが、一緒にやっていくうちに新しい技術を開発できた」ということなんです。大学の貢献としては理想的なことではないかと思っています。
 「モノづくり」の観点で、もう一つ言いますと、デザイン力と言いますか、そういう感性の部分が非常に重要だろうと思っています。商品の中でデザインが占めるウエートは大変高く、モノづくりの重要な要素であるのは言うまでもないと思います。それを北九州に、もう一つのクサビとして打ち込みたいですね。そうすれば余裕度はもっと大きくなるはずです。
 三木 話がちょっと戻ることになるかもしれませんが、これまでの私どもの産学連携というのは、大学のシーズ、あるいは特許をとらえ、これを企業に「ご利用になりませんか」と勧めることを中心にやってきました。ただ、これだけだと産と学の結び付きがそれほど強くなりません。それで、逆に企業のニーズを的確にとらえ、そのニーズを大学のシーズ、特許で解決していくという取り組みもやってみたいと思っています。先ほどもお話したように企業のニーズをとらえると言っても簡単なことではありませんが、幸いFAISには私自身がTOTO出身なように民間企業の出身者が多くいますから、民間企業とのつながりは強く、その蓄積が生かせるだろうと思っています。

 そうしたことを半導体関連で先行させていまして、昨年1年間で企業から80〜90件の相談を受けています。そのうち4、5を継続テーマとして大学の先生方のご協力をいただきながら、企業と一緒に課題解決に取り組んでいます。
 余談ですが、下村先生からご紹介のありました田川産業は内閣総理大臣賞を受賞したことで、引き合いがものすごく増えています。今までのしっくいの売り方とはまったく違ってきているようで、海外を含む新しい市場性をもった製品の流通ルートをどう整理していくかといったことも私どもが相談を受けています。

全体を引っ張り上げる人材の育成必要

 山口 「モノづくり」には「人づくり」が欠かせません。この「人づくり」については、どのような取り組みを?
 利島 言うまでもなく、人が開発し、ものを作っていくわけですから、人なしでは「モノづくり」は成り立たないわけです。そういう優秀な人材を抱えることが、北九州のこれからの活性化の源であるのは間違いありません。先ほどお話しましたように「メード・イン北九州」、つまりオンリーワンの商品を開発していくには、既存の力に新しい力を加えなければなりません。そして有為な人材が全体を引っ張り上げる。この引っ張り上げる力を持つ人材をどれだけ育てておくかということだろうと思います。
 当社も人づくりには力を入れており、私自身が人づくり推進担当になっています。なぜ、他の役員に担当させず、私が担当しているかと言いますと、引っ張り上げる人を見つけ出し、自社にいなければ他から呼んでくる、といったことをしなければならないと思っているからです。そうしなければ「メード・イン北九州」はできません。

 これは大学も同じだろうと思います。全体を引っ張り上げる力を持った先生を育てる。その先生が学生を育てていただけば、人材は格段に底上げできるのではないでしょうか。
 下村 人づくりにいちばん重要なことは、基礎的なことをきちっと教えておくことです。それを前提としたうえで、産と学の距離をできるだけ近くしておきたいと考えています。私が参考にしたいと思っていますのは、例えば関東学院大学ですね。ここにメッキの大家である本間先生がおられ、関東化成という会社を大学の中につくっておられます。学生は歩いてその会社に行く。要するにインターンシップになっているわけです。そうしますと、学生は企業では今何が必要なのか、また自分に足りないものは何かといったことを勉強できる。そこからまた経営管理に目覚めていくことにもなるのではないかと思います。利島社長がおっしゃる全体を引っ張り上げる人材を育てる一つの方法かもしれません。
 もう一つには、地域においてどういう分野に力を入れていくか、しっかりセレクトしていかなければなりません。例えば火薬ですが、今非常に需要が増してきています。ところが火薬に関する講座は東京大と九州大くらいしかありません。我が国の技術を継承していくことは大事なことですので、国あるいは企業と相談しながら取り組む必要があるのではないかと思っています。そのほか溶接技術などもそうですね。取り組みを維持しようとする大学と、もう捨ててしまおうとする大学といった具合に、大学の戦略そのものがはっきりとしてきました。
 これらは国際競争とかかわることが多いわけですが、すべての大学がノーベル賞を目指す必要はないでしょう。要はそれぞれの大学が置かれた、九工大にとっては北部九州、さらには九州の産業に貢献できることは何かをしっかり考えることだろうと思います。
 三木 基本的な人材育成は大学が中心となり、私どもはそれをどこまでお手伝いできるかだと思っています。ただ、学研都市には3つの大学(九工大、北九州市立大、早稲田大)がありますので、他と違う人材育成の方法があるのではないかと考えています。具体例としまして、FAIS内に「カー・エレクトロニクスセンター」を設置しており、3大学それぞれの特徴、専門分野を組み合わせてカーエレクトロニクスに関する人材の育成を本格的に進めています。これなんかFAISの人材育成の一つのあり方ではないかと思います。
 それからアジアに開かれた学術研究都市を目指していますから、アジアとの懸け橋になるブリッジ人材の育成にも重点を置いています。当然、アジアからの留学生が対象になるわけで、宿舎、奨学金の支援はもちろん日本語スクールの設置などといったことも文科省のアジア高度人材育成資金などを活用して進めています。

人材流失防ぐため受け皿企業を育てる

 山口 ただ優秀な人材を育てても地元に就職する学生は2割にすぎないようです。受け皿づくり、これも課題ですね。
 利島 受け皿となる企業をたくさん作るべきだというのは当然のことですが、もう一つには職種の問題があるように思います。当社の例で恐縮ですが、当社は研究所もありますし、事業部ごとに開発部隊もいます。もちろん生産技術部門もあり、製造部門もありますから、幅広く人材を受け入れられると思います。しかし、大学で専門的に勉強してきたことを生かし、こういう職種を選びたいと思っても受け入れ可能な企業はそう多くありません。自動車にしましても、今のところ組み立てが中心ですから自動車の開発・設計をやってみたいと思っても、ここでは就職できないわけです。トヨタがようやく開発・設計部門を置くようになりましたが、こうした職種の問題によって域外に就職する学生が多いということになってしまっています。そう考えますと、技術集積度の高い職種を育てていかなければならないということになりますね。
 下村 うちの卒業生を見ますと、喜んで関東や関西へ行っているわけではないんですね。あるいは戻って来たくとも戻れないでいるんです。やはり利島社長がおっしゃったような職種、それと研究開発能力・施設を持つ必要があります。産と学が協力して取り組んでいかなければなりません。
 三木 学研都市の中に産学が連携し、共同研究を目的とした企業をつくることも一案だろうと思います。そこに就職してもらうことも可能ではないでしょうか。学研都市には現在54社が入居していますが、これでも足りず、今5番目の施設を建設中です。これも予約でほぼ埋まりかけています。私どもとしましては、そういうことも着実に進め、人材の受け皿づくりを粘り強く積み重ねていきたいと思っています。
 利島 私は「にぎわいづくり懇話会」の座長を仰せつかっていますが、北九州はやはり「モノづくり」を通して市民の気持ちが一つになり、また外から見た時「北九州は大変活気がある。暮らしやすいまちだ」というふうにし、それが結果的ににぎわいをつくり出すことだと思っています。それには、まずは産業がしっかり根付くことで、市民が気持ちも含めて豊かさを実感できるようにしなければならないと思います。
 下村 北九州では工業系の大学、高専、高校に学ぶ学生・生徒は4000人ほどです。これは福岡市と同じくらい多いんです。やはり若い人が多いと、まちは生き生きとしてきますし、市民の心の余裕度も出てきます。そうした若い人たちをどう北九州にとどめておけるか。先ほどの話になりますが、産学官が連携して産業を高度化しつつ、受け皿をより多くつくっていくということが、まちの活性化にもつながっていくのではないでしょうか。
 三木 いろんな技術を駆使して生産性を上げ、それによって一人ひとりの所得を少しでも向上させることができれば、おのずとまちのにぎわいづくりにつながっていく。その意味でも、私どもに課せられた責務は大きいと言わざるを得ませんね。
 山口 経済が活性化すると、そこに人が集まり、にぎわいをつくり出していきます。そして都市は活力を増していくことになるのだろうと思います。北九州は今、その途上にあり、「モノづくり」「人づくり」「まちづくり」を併行しながら進めておられます。皆様方はその中心的なお立場でご活躍なわけで、お話は尽きないと思いますが、紙数の関係でこのへんで終わらせていただきたいと思います。今後のご活躍とご発展を期待しております。

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