2008年2月号ペ196ージに掲載

「女性は女神」

西日本新聞 平成19年12月2日
 檀一雄の小説『元帥』に、陸軍士官学校を首席で合格した主人公が、恩賜の時計を胸に出征する場面がある。郷里の駅から列車が出発する直前、彼に思いを寄せる少女が駆けつけ、お守りを渡す。列車がホームを離れてから、そのお守りを開けると、そこには紙に包まれた漆黒の1本の毛が。 そんなシーンを思い起こさせるような新聞記事に目がとまった。
 歌手の加藤登紀子さんの夫、故藤本敏夫さんが西日本新聞記者の河上弘文さんと博多中洲で飲んだとき語った「栃木・黒羽刑務所秘話」である。
 三派系全学連委員長の藤本さんが、防衛庁襲撃などの罪で3年8カ月の実刑判決を受け、刑務所に入所していたときのこと。登紀子さんの長い髪1束を差し入れてもらった。この1束は金の延べ棒と同じような価値があったという。なにせ1本でたばこから酒、チョコまで手に入ったそうだから、まるで魔法の髪、いや神。「長い髪は、囚人には欲しくてもなかなか入手は困難。長い髪は黄金色に光り輝く女神」と藤本さんは語ったそうだ。
 この記事を、メールで紹介したところ、多くの反響があった。というのは、男にとって女性は女神に間違いないのだが、女性にとって男とは一体どんな存在なのかを知りたいと、問いかけたからである。
 よく論争を挑んでくる理論派女性がいる。かつて「豚まん」を紹介したとき、「豚まん」などと汚い豚の姿を連想させる言葉はおやめなさい。東京から博多に引っ越して来て、皆が「豚まん」と言うのを聞いてから、食べられなくなった。関東風に「肉まん」と上品にお呼びになったら、と抗議してきたものだから、「肉マン」の方が妙な連想させて、よほど嫌らしいではないか、と言ってやったら、卑猥な連想はやめなさいと怒った女性だ。彼女いわく「男の存在価値は“働きばち”だから」だそうで、稼ぎの悪い男、経済力のないかい性なしは存在価値がない、と断言してきた。
 独身女性からは「男性とは、女性が女であるために必要な存在」と、すごく美しく、うれしい答えが返ってきた。そうなんです。女性がいつまでも美しくあるためには、男の存在が必要不可欠なのでありまして、その心をなくした女性はオバサンと化してゆくのであります。
 北九州の中年男性からは「男は女性にとって地蔵菩薩。手を合わせておれば何でもかなえてくれる」と、おそらく奥さんの言葉であろうものを代弁してきた。
 藤本さんのすごいところは、髪の毛を差し入れしてもらうという発想である。それも妻をしのぶという自分の慰めのためにではなく、「刑務所の中でも需給関係は働いた」という、極めて戦略的なものだから、感心させられるではないか。よくぞ刑務官も認めたものだと思うし、規則を熟知して手を打った、藤本氏の作戦勝ちだったようである。
 それにしても藤本さんは、刑務所内で自分の妻が加藤登紀子であることを公言していたのだろうか。それでなければ金の延べ棒のようなありがたみは生まれないはず。メールを返してきた男たちの多くが、そのことを指摘してきた。なかには、吉永小百合のだったらプラチナ級、という不謹慎なものもあった。男は純真なのか馬鹿なのだろうか。

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