【A】 従業員が業務上のミスによって会社に損害を与えた場合、民法の一般原則により、従業員は会社に対して損害賠償義務を負うことになります。 しかし、損害の公平な分担という観点から、貴社の従業員のミスが労働過程において通常発生することが予想されるようなものである場合は、従業員に対して損害賠償を請求することは困難であると考えられます。なぜなら、法律上、社会生活において利益を収める者(会社)はその収益活動から生じる損害について責任を負うのが公平だからです。これを報償責任の原則といいます。 他方、貴社の従業員のミスが常識に照らしてあり得ないような重大な過失によるものであった場合には、従業員に損害賠償を求めることができます。 ただし、貴社が従業員に請求できる損害賠償の範囲は、損害の公平な分担という観点から、貴社の規模、従業員の労働条件、勤務態度、ミスを犯した際の状況、貴社のミス防止対策の程度などを考慮して、一定範囲に限定されることになります。 判例でも、従業員が業務上運転中に交通事故を起こし、これにより損害を被った会社が従業員を訴えた事例で、会社の請求を「4分の1」に制限したものがあります。(最判昭51・7・8) では、この損害を従業員の給与から天引き(相殺)することはできるでしょうか。 法律上、賃金は、原則として全額を支払うことが必要であり、会社がその一部を控除して支払うことは許されません(労働基準法24条1項)。したがって、たとえ従業員が損害賠償義務を負う場合であっても、会社は給与から一方的に天引きすることはできないことになります。判例上も、賠償額を一方的に天引きすることは認められていません。(最大判昭36・5・31など) もっとも、従業員が給与天引きに納得(同意)していれば、判例上、天引きが許されることもあります(最二小判平2・11・26)が、天引きへの同意が労働者の自由な意思に基づいたものであることが条件となるため、拙速に解決を急がず、慎重に従業員から天引きへの同意を得ることが必要です。
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