オフィス特集
「個性」「余白」のオフィスで
知的価値を創造する
●オフィスレポート/■岡村製作所 西日本支社/■コクヨ九州販売/■アオヤギ
(森田昌嗣氏プロフィル)
1954年生まれ、九州芸術工科大学(現九州大学)卒業。92年九州芸術工科大学助教授、2000年同教授、03年九州大学大学院教授を経て現職。専門はパブリックデザイン、生活空間デザイン、インダストリアルデザイン。東京の銀座・晴海通り、JR箱崎駅周辺計画などを手がける。九大では副学府長、副学部長を兼任。福岡産業デザイン賞審査委員長なども務める。
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国内の経済成長に伴ってオフィスは効率性を高め、生産性を向上させてきた。今、新たな座標軸としてワーカーの感性や創造性を高める、使い手の立場に立ったオフィス環境づくりが進められている。どのようにすればこうしたオフィスが作れるのか、森田昌嗣・九州大学大学院芸術工学研究院教授(副研究院長)に聞くとともに、これを積極的に推進しているニューオフィス推進協議会の活動をレポートで紹介する。
オフィスに必要な
秩序化と個性化
ー現在取り組んでおられるパブリックデザインとは、どのようなものでしょうか。
森田 まずアーバンデザイン(都市設計)は、都市全体をマクロでとらえて作られますが、ランドスケープデザインや建築デザインは、都市の施設や公園といった公共空間の「メソなスケール」といわれるジャンルです。これらに対して、パブリックデザイン、またはインテリアデザインは、さらにミクロな人や製品などのスケールで環境を構築するもので、そこには人との接点が多いオフィス家具や照明など、さまざまなエレメントがあります。いずれも都市基盤の整備と深いかかわりがある分野です。
ーオフィスに関連するパブリックデザインは、どのようなものが求められているのでしょうか。
森田 パブリックデザインでは「レジビリティ」と「アンビギュイティ」が大切だと考えます。
パソコン導入などIT化が始まった1990年代は、オフィスにパーソナルスペースが設けられるようになり、執務スペースをどこに配置し、共有スペースをどこに設けるか、人が接するサインをどのように組んでいくか、というふうにオフィスに秩序をもたらすことで機能性が高まっていきました。
秩序化する「レジビリティ」、言い換えれば「分かりやすさ」によって、秩序だった組織の構図は描けたのですが、オフィスづくりの条件として効率性が優先されましたので、ムダな空間を提供しづらい状況にあったため「仕事をこなすだけのオフィス」という印象がぬぐえませんでした。分かりやすさゆえに除外される空間が生じてしまい、その結果使いやすさを生み出す「余白」が生まれなかったのです。
言い換えれば、仕事固有のものに対応した個性的な場づくりが不足していたといえるでしょう。仕事の個性に応じてどんなスペースを提供すればいいのか、それがオフィスを個性化する「アンビギュイティ」です。
このように、秩序「レジビリティ」に個性「アンビギュイティ」を与えていくのが近年のデザインの潮流で、そこでは空間や使い手が持っている魅力を引き出すためのデザインとして、新しい価値を見い出すことができます。
オフィスを一体化する
9つのキーワード
また、これまでのオフィス環境は、建築や土木が先行してつくった空間を土台にして作られてきましたが、そういう発想ではオフィスが使いにくくなります。たとえば私が建物の中の空間デザインを手がけた東京都庁舎では、外枠の設計ができた後に中の設計着手となったので、ある程度の制約がありました。
これからはミクロのスケール、つまり人が直接触れるパブリックデザインの環境づくりから派生したものが、ランドスケープデザインという全体の空間へ波及していくという考え方が必要でしょう。
私はオフィスづくりを考えるに際して、具体的に9つのキーワードを使って提唱しています。
オフィス空間を構築する際には、使い手の歴史的・文化的な背景や時間的な変化、地域性や場所性を読み込む。その一方で、オフィスの中身を構成するエレメントについては、持続性や柔軟性に加えて公共性という分かりやすさを持たせていく。その空間とエレメントの秩序化、個性化を一貫したものにするために、ハードばかりでなく実際の使いやすさを考えるソフトデザインや、建築家とインテリアデザイナーなど外と内の空間を担当する関係者の間で環境デザインをコーディネートする、というような調整機能を活用して、全体 の総合性を図っていきます。さまざまなキーワードの要素を全体のコンセプトへ一体化していけば、個性のある使い手とオフィス空間全体との間で、一つのテーマが定着していくと思われます。
ーオフィス環境には、使い手などが持つ固有性を引き出すデザインが求められているのですね。これまでのオフィスづくりとは異なった新しい方向性が感じられますね。
森田 近年のオフィスは随分と変わりました。80年代まであった壁や間仕切りに囲まれた部屋や旧来のお役所スタイルでなく、集中して仕事をする空間もあれば、ほっとするリラックス空間もできました。この原理は都市空間と同じです。公園やリゾートなどの豊かな空間にさりげなくしつらえられた心を癒やす場所。その公園が都会の喧騒の中で生活に余白を与えるように、働く場のオフィスはもちろん、学ぶ場の学校、図書館などでも、知的生産のために「余白の場」が求められ、それに応じた形でスペースや機能がもたらされるようになっています。
ただ、日常生活においてパブリックとプライベートを別々に仕切る欧米人に比べると、日本人、アジア人はその境界線がなく交じり合っているので、国内のオフィスは進化したとはいっても、結局は日本的なものを残しています。こうした欧米の文化との絶妙な融合が、現代のオフィスを生んでいるともいえるのではないでしょうか。
ズレの可視化で
使いやすい製品を生む
ー07年からニューオフィス推進協議会が、新たな知的価値を創造する「クリエイティブワークプレイス」を推し進めています。
森田 クリエイティブワークプレイスを考えた場合、前にもお話ししたように都市の中の街づくりを考えると分かりやすいでしょう。一緒に共存生活している状態で、自分ひとりのための空間がある一方で、複数で集まってコミュニケーションを図る場があるように、都市空間でも分かりやすい個性と秩序が作られています。
同様にオフィスの場合でも、仕事の内容ややり方には一人ひとりの個性があって、限られたスペースの中で、こうした違いを考慮したオフィス環境をいかに与えていけるか、やはり「レジビリティ」と「アンビギュイティ」がポイントになってくると考えています。
さらに、使い手が使う製品についていえば、私は「グッドデザイン賞」の審査委員を務めていますが、どこの空間に使うかが分からなくなる作品に行き当たり、たとえいろいろな工夫はできていても、真意が読み取れない例があります。そこに使い方を押し付けない装置や家具がしつらえられているからこそ、「余白」が生まれて人はほっと自分を見つめ、創造的な発想とコミュニケーションが生まれるのです。
私が部門長を務める九州大学ユーザーサイエンス機構では、製品に対する専門家と実際に使う人との間に、暗黙知のうちに何らかのズレがある点に着目、「作り手」、「送り手」、「受け手」の3者間に生じるズレを可視化することで、より良いものづくりを進めることを研究しています。
こうしたズレの評価調査は九州国立博物館でも実施する予定で、福岡市の都市景観アドバイザーをしているJR博多駅再開発でも評価診断を働きかけているところです。
ー本日は大変ありがとうございました。
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