2007年6月号80ページに掲載

松岡賛 嘉麻市長
(SUSUMU MATSUOKA)


破たん回避には行財政改革の断行と市民参加型のまちづくりしかない

 福岡県嘉麻市は昨年3月、筑豊地区の嘉穂南部1市3町が合併して誕生した新市。遠賀川の源流を有した豊かな自然と歴史、文化に育まれたまちだが、市の財政は石炭六法失効後の激変緩和措置終了もあって破たん寸前。それだけに初代の松岡賛市長は思い切った行財政改革を断行、痛みの伴う施策を相次ぎ打ち出す一方で市民が主役のまちづくりへ転換、市民参加による「人と自然にやさしいまちづくり」を提唱しながら活性化の道を探っている。

合併はバラ色ではない
県内最悪の財政硬直度

 ■合併は当初、飯塚市を含む嘉飯山地区2市8町が参加して行われるはずだった。しかし、在任特例の適用をめぐって桂川町が離脱したため、残る2市7町は2グループに分かれ、1市4町の「新飯塚市」と1市3町の「嘉麻市」が生まれた。当時、山田市長で法定協委員を務めていた松岡市長はその間の事情をよく知る一人。
 嘉飯山2市8町の合併によって20万都市の形成を目指したが、実現しなかった。どの自治体も「小規模自治体ではこれからやっていけない」の思いで、合併に活路を見い出そう取り組んだがだめだった。結局、私ども1市3町(旧山田市、稲築・碓井・嘉穂3町)はこれまで一部事務組合での経験があったことから一緒に嘉穂南部1市3町合併協議会を立ち上げた。
山田市長だった当時、市の財政事情は最悪で、人口も1万1000人台になっていた。また、2万人近くと人口が最も多い稲築町がワースト2、1万人を切る嘉穂・碓井両町も厳しい状況だった。それだけにやむにやまれぬ状況下での合併だが、住民の一部に「合併すればなんとかなる」という思いがあることから「合併すればバラ色というわけではない」と説明した。案の定、合併前に予想した以上に財政問題が厳しい局面にあることが分かった。05年度経常収支比率でも当市は(90%の警戒ラインをはるかに超える)111・3%と財政の硬直度が県内自治体ワースト1になった。それだけに行財政改革を進めないと自治体として継続できず『第2の夕張』になることは明らかだ。
■そんな状況下にもかかわらず旧4市町の融合や職員の意識変革がなかなか進まないようだ。
 1964年3月福岡学芸大学卒。小中学校教員を経て、筑穂町立筑穂中学校長、山田市立山田中学校校長、福岡県教育庁筑豊教育事務所所長などを歴任、2001年8月山田市長に就任、05年8月無投票当選で2期目を務める。06年3月嘉穂南部1市3町が合併「嘉麻市」が誕生、同年4月市長選に出馬、当選し初代市長に就任。福岡県嘉麻市出身、1940年11月13日生まれ。

 合併して1年余経過したが、正直いってまだまだ一体感が備わっていない。第一が議員数。今回の市議選でやっと26人になったが、それまでは在任特例で66人おり、それぞれの地区代表として発言していた。また、職員数も合併前に550人ほどいて旧自治体の幹部職員がそれぞれのやり方、慣習にしたがって業務を行っていた。これまで支所長の異動など2度ほど人事異動を行う中で、職員間に徐々に一体感が醸成されてきたが、まだまだ十分ではない。そこで6月議会に組織機構改革案を諮り、8月から思い切った改革に着手する。いま部、課、係の統廃合や総合支所方式の抜本的な見直しを図っているが、特に重要なのは職員数の削減だ。合併によって3人の首長のほか、助役や議員数も減った。そこで職員数も減らさないと財政効果は上がらない。何しろ本年度予算で約20億円の歳入不足が生じ、それを補うため歳出の約2割を占める人件費の削減が大きな課題だからだ。すでに06年度末、30人ほど退職したが、15年度まで段階的に減らし延べ140人以上(約26%)削減する計画だ。給与についても特別職給与の削減をはじめ管理職手当、一般職給与の削減を人事考査制度、評価制度を活用したり、類似自治体の状況を参考にしながら順次実施する。

市民に痛みの覚悟求める
類似市に準じたサービス

嘉麻市役所本庁舎(旧碓井町役場)
 ■行財政改革は職員など庁内はもとより市民にも痛みを求めることになり、それは住民サービスの低下につながることになる。
 いまこそ私のリーダーシップが問われている。確かに行革は住民の痛みを伴い、住民に憎まれるかもしれない。しかし、これを断行しなければ将来に禍根を残すことになる。それだけに「思い切ってやってくれてよかった」と振り返られるような基盤をつくりたい。行革は単純にいっていかに歳出を減らし、歳入を増やすかに尽きる。歳入面ではこれまでの使用料、サービス料を近隣自治体なみに引き上げる。例えば学童保育使用料は現行1000円から3000円、無料だった火葬場使用料を大人1万円でお願いする。また、滞納対策として特別チームを結成して納入を促し、場合によっては法的措置を講じる。各種団体に対する補助金についても07年度は一律10%カットするほか第三者機関によって聖域なき精査を行い、ゼロベースから見直す。ほかにも当市は類似人口の自治体と比べ公共施設が多く、保育所、プール、体育館、図書館が旧4市町にあり、それぞれ維持費がかさむことから休廃止し半分ほどに削減、残る施設についても指定管理者制度の導入や業務の民間委託を行う。
 歳入強化・歳出削減の一方で住民サービス向上のために窓口業務の時間延長や総合窓口化のほか、これまで3歳未満だった乳幼児無料化を5歳未満にまで引き上げるなど支援を拡充、子育てがしやすいまちづくりを目指す。
■危機的な財政状況を踏まえて松岡市長は市の将来像をどう描き、どういったまちづくりを目指そうとしているのか。
 ローカルマニフェストにも書いたが、基本テーマは『みんなでつくろう新しい嘉麻市!』。みんなでつくるとは「行政主体」のまちづくりから「市民主体」、つまり市民が主役のまちづくりへの転換を意味するもので、市民に開かれた市民参加型の公平、公正な透明度の高い行政を目指している。そのため自治基本条例(仮称)の制定のめどを来年中につけたい。それと嘉麻市の特徴は豊かな自然と歴史、文化にも恵まれていることから「人と自然にやさしいまちづくり」を打ち出している。これは人づくりはまちづくり、まちづくりは人づくりということから、人を育てるために教育に力を注ぐととともに生涯学習にも取り組む。遠賀川の源流を有した豊かな自然環境の中で学べば、きっといい人材が育ち、まちづくりに生かされるに違いない。

今年4社が進出を決定
実現困難な新庁舎建設

■ひっ迫する市財政の中で、まちを活性化させるには交通インフラ整備や雇用の場確保、つまり企業誘致が急務といえる。
 企業誘致を積極的に進めている。おかげで今年4月、工業用温度センサー製造で国内最大手の岡崎製作所(神戸市)が当市への進出を決めた。同社はこれまでの福岡工場に加えて、来年3月にも九州工場を開設する。ほかにも今年に入って自動車関連のプラスチック部品製造の会社や半導体製造装置の会社など3社と工場増設の立地協定を結んだ。すでに漆生団地(稲築町)は完売したため、新たな工業団地の造成を計画している。今後も私自身がセールスマンとなって誘致を呼び掛けていく。そのためには大分自動車道・甘木インターとつながる国道222号八丁峠トンネル整備が急務であり、関係者に早期開通を訴えていく。完成すれば企業誘致だけでなく、観光面でも期待できる。
■現在、嘉麻市の本庁舎は旧碓井庁舎に置かれているが、いずれ新庁舎を新築移転することになることから建設候補地選定に向けた綱引きが行われている。
 本庁舎の場所は合併協議会でも問題になった。当初は人口が多い稲築町に持っていく話があった。しかし、面積が最も広く、地形的にも庁舎が真ん中にある嘉穂町と引き合いになった。山田市は合併協をけん引する立場から名乗らなかった。結局、庁舎が新しいこの碓井町に落ち着いた。新庁舎の建設についてはご存じのような財政状況から実現は困難とみている。ただ、現庁舎は狭くて不便であることは確かで、例えば都市建設部は稲築庁舎、保健福祉部は山田庁舎にあるといった具合だ。そこで少しずつ人員を整理しながら1カ所に集めようとしているが、今のところどこに新庁舎を置くかは決まっていない。もう一つの理由は道州制論議が高まる中で将来、嘉飯山地区が一緒になることも考えられる。一番いいのはさらに周辺を巻き込んで30万の中核都市になることだ。そのために新庁舎よりもまず嘉麻市が財政的に自立することだと思う。

●ご意見・ご感想・情報提供はこちら
  (尚、無記名・連絡先のないメールは削除されます)