2007年2月号81ページに掲載
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【焼酎特集】乙類前線 速度緩やかに北上中


●焼酎メーカー各社の最新の取り組みと戦略をレポート。
●雲海酒造
〔薩摩酒造〕
「安定期に入った今、品質のさらなる向上を」
九州本格焼酎協議会会長
本坊喜一郎

 右肩上がりに成長を続けていた本格焼酎は、ここへきて安定期に入った。酒類全体の消費量は毎年ほとんど変わらず、その中でパイを奪いあう形で焼酎、清酒、ビールなどがシェア争いを繰り広げている。少子化で消費の伸びが期待できない以上、本格焼酎も海外進出を積極的に行うべきとの意見も多く聞く。すでに海外からはJINROのような甲類焼酎も多く入ってきており、本格焼酎の本場である九州から海外市場展開を計る時機と思う。海外の日本食ブームが伝えられる今、参入のチャンスである。幸い九州各県では主力とする商品がそれぞれ違い、非常にバラエティに富んだ本格焼酎を提供できるはずである。
 流通に目を向けると、国内の流通競争が厳しさを増し、大手酒類メーカーによるM&Aや提携などがかなり出始めている。大きなうねりの中、こうした傾向が今後もさらに続くことが予測される。地方の蔵元にとっては正念場にさしかかっているが、ここで最も気をつけねばならないことは品質維持である。そうでないと、消費者はすぐに離れていくだろう。
 また本格焼酎のイメージアップには産地表示が不可欠である。鹿児島県のEマークや南さつま表示などはこうしたいい例で、表示をきちんと行ってこそ、消費者の信頼を得るものと考える。売り場では相変わらず連続式焼酎や混和焼酎と本格焼酎の区別がつきにくいという声も耳にする。本格焼酎との分かりやすい表示が必要だ。と同時に地理的表示区別を行うことで、消費者の信頼が増す。九州には薩摩焼酎、球磨焼酎、壱岐焼酎などに加え、地域特性を生かした多様な焼酎がある。その利点を生かし市場に臨むことが肝要である。
 薩摩酒造(鹿児島県枕崎市、本坊松美社長)は鹿児島最大の焼酎メーカーで、イモ焼酎、麦焼酎、米焼酎製造をはじめ花渡川蒸溜所の明治蔵ではサツマイモの発泡酒やルイボス茶、青汁などの健康食品が販売されている。
 代表銘柄「さつま白波」 は焼酎を飲まない人でも名前は知っているほど有名。イモ焼酎を象徴する銘柄といってよい。ほかにも「黒白波」「花白波」「明治の正中」「我は海の子」「千尋」、麦焼酎の「神の河」「天つ風」「琥珀の夢」、米焼酎「白鯨」「欧羅火」など大手メーカーらしく豊富な品揃えを誇っている。
 05年に発売された「黒白波」は重厚さとやわらかい香りが支持を受け、主力商品に成長。当初は黒の伸びによる「さつま白波」の売上減を予想していたが、黒麹に引っ張られ、既存商品も売り上げを伸ばす相乗効果を生んでいるという。同社広報宣伝課では「おかげでイモは麦や米が一息ついたのとは対照的に順調に売り上げを伸ばしている。ただし、首都圏の居酒屋などでは鹿児島では考えられない薄いイモ焼酎が出されていたり、値段もかなり高く、消費者に誤解を与えかねない部分もある。正しいイモ焼酎の知識や飲み方などを指導していくのも今後の大切な仕事」と話している。
〔霧島酒造〕
 霧島酒造(宮崎県都城市、江夏順行社長)は1916(大正5)年に「川東江夏商店」として本格焼酎の製造を開始。昨年、90周年を迎えた。「品質こそ最大のサービスである」をモットーとし、地元宮崎を中心に親しまれてきた。原料となるイモは南九州産のコガネセンガンにこだわり、焼酎づくりに欠かせない水は霧島盆地の恵みである霧島裂罅水を使用。こうして生まれたのが本格焼酎「霧島」「黒霧島」である。
 レギュラー商品の「霧島」「黒霧島」だけでなく、03年に発売された「赤霧島」が新品種のイモである紫マサリを使用した焼酎として、大きく注目を集めるようになった。現在も計画出荷の制限を受けているが、昨年の7月に同市内に志比田工場を増設したことにより、従来の1.5倍の生産能力を持つようになった。また、常に顧客満足を意識しながら焼酎の品質維持向上に取り組み、創業以来「味わい一筋」の基本姿勢を貫いている。品質・環境両方のISO取得もその一環である。
 一方、業界においても大きな課題である「焼酎カスの処理」を解決するため、02年に霧島リサイクル協同組合を設立し、03年焼酎カスリサイクルプラントを竣工した。特長は、メタン発酵による焼酎カス処理プラントである。増産による焼酎カス処理が増大したため、本社工場には1日に約400トンの処理能力を持つ焼酎カス処理プラントを新設し、これも順調に稼動している。
 さらに、地元密着型企業としての評価を得ている点にも触れたい。霧島ファクトリーガーデン(グラウンドゴルフ場・ホール・レストランなど)に隣接している増設工場(志比田工場)は、地域に開かれた工場として多くの見学者が利用できる機能を有する。県内外からの集客を高め、産地形成型の企業として、さらなる圏域振興に貢献している。
〔田苑酒造〕
 田苑酒造(鹿児島県薩摩川内市、有川徹社長)といえば樫樽貯蔵の「田苑金ラベル・ゴールド」があまりにも有名だ。今でこそ広く認知された樫樽貯蔵だが、樫樽に音楽震動を与えまろやかに熟成させるなど焼酎のイメージアップを果たした功績は大きい。
 そんな田苑酒造が10年ぶりの大型新製品として昨年11月に発売したのが「田苑麦黒麹(甕壺貯蔵)」だ。「風味豊かな“鹿児島の本格麦焼酎”」をコンセプトに開発された麦焼酎は、米麹を用い黒麹で仕上げたことで奥深いコクを生み出した。その上、個性と本格焼酎らしさを出すため、伝統的な常圧蒸留を採用。しかも熟成効果が高い甕壺でじっくりと熟成させることで、重厚なまろやかさと複雑な味わいが誕生した。有川徹社長は「10年ぶりの大型新製品ということで、私も社員も意気込んでいる。麦でありながら、しっかりとしたコクや香りが好評で、確かな手応えを感じている」と話す。
 同社は焼酎づくりのほかに、地域文化向上や活性化を目指し、毎年2回クラシック音楽による「田苑酒蔵コンサート」を開催。05年には社団法人企業メセナ協議会主催によるメセナアワード2005で「地域文化賞」を受賞。地域文化発展にも大きく貢献している。
〔濱田酒造〕
 薩摩焼酎として500年。イモ焼酎で300年。鹿児島の県民酒として飲み継がれる本格焼酎の「歴史・伝統・文化を継承・発展させる」ことこそ、濱田酒造の企業使命で、「本格焼酎を真の国酒として、さらには世界に冠たる銘酒を目指す」(濱田雄一郎社長)。
 鹿児島県いちき串木野市の本社では、創業(明治元年)以来、一貫して手作業でのかめ仕込みと木桶蒸留を貫く「伝兵衛蔵」が新生オープン。酒蔵見学や併設店舗に立ち寄る客が引きもきらない。
 ここを西に5キロメートル移動した西薩工業団地では、工場「傅藏院壱の蔵」と「弐の蔵」が稼働。先進設備で蒸留からボトリング・出荷まで完全管理中だ。さらにクルマで北上すること5分。本格焼酎テーマパーク「薩摩金山蔵」でトロッコに乗って地下坑道跡を進み、焼酎貯蔵庫で「マイボトル」を熟成。
焼酎資料展示室や鉱泉水利用の温浴も好評で年間25万人の来場者を呼ぶ。その狙いは冒述通り、愛飲され続ける本格焼酎(Spirits)固有の精神(Spirit)を発信する「スピリチュアル・エンターテインメント」。これら「3大ステージ」を武器に、本格焼酎の「文化性と普及性の追求」に余念がない。
 そのなかで、ここへきて例年2桁成長で躍進してきた本格焼酎業界の伸びが沈静化。「踊り場に差しかかった」との認識はあるが、これは本格焼酎が「市場に浸透し定着してきた証拠」と見ている。
 殊に本格焼酎(乙類)は、日本酒や甲類焼酎圏である東北や北海道でも「十分に善戦」しており、なかでもイモ焼酎には「潜在的な成長性」が目される。大手酒類メーカーの本格参戦が相次ぎ「混線模様」続きだからこそ、酒蔵独自の姿勢を明快にした取り組みが望まれてくるもの、と思われる。
 すでに主力の「海童」は北米、上海、香港、シンガポールへも出荷。 照準は、常に「世界」にある。
〔山元酒造〕
 焼酎の伝来は諸説あるが、有力なのが鹿児島県薩摩川内市の「京泊」説。江戸時代に薩摩藩の貿易港として栄え、16世紀に南方から焼酎造りが伝来、17世紀半ばにはイモ焼酎が造られていたという。1912(大正元)年の創業以来、94年にわたりこの地で焼酎造りを行っている山元酒造。「さつま五代」「蔵の神」「黒蔵の神」「至福の陶酔」などのを中心に古くからのファンを持つ老舗だ。06年、35歳の山元隆功氏が社長に就任した。
 05年に新設した工場では、焼酎の味を大きく左右する温度管理に最新技術を導入するなど、酒質の向上に向け数々の改革に取り組んだ。一方、昔ながらの手造りのよさも忘れてはいない。創業当時の建物を移転して使われている手造り蔵は、70数個のカメが蔵の中に埋められている。麹室での手造りの製麹作業に始まり、カメ仕込み木桶蒸留機による蒸留と近代設備に頼らない人の手で焼酎造りが行われている。
 原料にもこだわる。伝統的なイモ焼酎は、イモのフレッシュ感を大切にするため、仕込み時点で最良のサツマイモを使用。水についても、かつて秦の始皇帝の命を受けた徐福が不老長寿の薬を求めて訪れた伝説の残る冠嶽山の湧水を使用。長命水として古くから地元の人に親しまれてきた水だ。蒸留法は、イモ本来の旨味を味わってほしいという意図から「常圧蒸留」にこだわる。山元酒造の焼酎の魅力は、イモ焼酎本来の醍醐味を今に伝える歴史と風格にある。
〔本坊酒造〕
 1872(明治5)年創業という長い歴史を持つ本坊酒造(鹿児島市、本坊修社長)は、本格焼酎をはじめ梅酒、ワイン、ウイスキーなどを取り扱う総合酒類メーカー。本格焼酎の主力商品は「桜島」「黒麹仕立て桜島」、樫樽貯蔵酒を霧島山系の天然水で割った「石の蔵から」、麦焼酎「ひとひろ」「桜岳」と豊富なラインアップを揃えている。
 数年前から黒麹仕込みの焼酎が人気を得ているが、同社も「黒麹仕立て桜島」やカメ壷仕込みの「貴匠蔵」など黒麹の焼酎が堅調な伸びを見せている。「ブーム的な動きは落ちついてきてはいるものの、市場は安定成長を続けており、人気の高い黒麹のイモ焼酎はまだ伸びる可能性を秘めている」(同社業務部)と見ており、今後もさらに注力する考えだ。
 また、同社では県認定の「鹿児島ふるさと認証」を取得、原産地表示を積極的にラベルへ明示している。
 今後も鹿児島産の新鮮なサツマイモにこだわり、地域に根差したメーカーとして「薩摩」のイモ焼酎の価値を維持していく考えだ。
〔大口酒造〕
「その日のムードと料理で選ぶ麦焼酎」
NPO法人 いち膳から見る日本の文化
和の空間コーディネーター 古賀 令子

 「職人さんを大切にすること」と「焼酎を楽しむこと」。どちらも私の生活に不可欠な「たしなみ」で父親から受け継いだ習慣です。父は、仕事一筋に生きた、家具など木工製品の職人。若手職人の育成にも熱心でした。そして毎日必ず、晩酌。 2時間近くかけて、ゆっくりおいしそうに飲みます。お酌係りは、いつも私。そんな父の気質と作品を継承、現代風にアレンジしたのが目下の取り組みです。300年以上の歴史をもつ肥前名尾和紙を使ったランチョンマットはろうけつ染めを施してあるため丈夫。少々の水なら弾きます。三川内焼きの大皿はぽってりした厚みが特長。刺し身やパスタ、チャーハンなどを盛り付けます。
 こんな食卓の「いち膳」を、織物や陶磁器など伝統工芸品から提案。職人衆に活躍の場を提供しています。同時にその日の気分や料理に合わせロック、お湯割りなどで麦焼酎をいただきます。「つくし」は居酒屋のご主人のお薦め。私のお気に入りは、ズシッとした呑みごたえのある、黒ラベルです。和洋中どんなメニューでも、素材のうま味を引き出し、麦本来の香味を感じますね。
 大口酒協業組合(鹿児島県大口市、川原健一代表理事)がある伊佐地方一帯はおいしさで知られる伊佐米の産地。清流、寒冷な気候など恵まれた自然環境がおいしい焼酎づくりを育んできた。
 以前、伊佐には13の蔵元があったが、70年、そのうち11の蔵元が統一ブランド『伊佐錦』の大口酒造協業組合を創業。「伊佐美」の甲斐商店、「伊佐大泉」の大山酒造を加えた3蔵元が、現在の伊佐焼酎を育み支えている。
 同社の製造はイモ焼酎のみで、移出量は県内2位。 同社代表銘柄は「伊佐錦」、黒麹で仕込んだ「黒伊佐錦」をはじめ菱刈町にある菱刈金山にちなみ命名した「金山」、鹿児島県工業技術センターと共同で抽出に成功した新酵母を使って造った「伊佐舞」など多彩な製品を揃えている。
 鹿児島県の焼酎は「薩摩焼酎」とも呼ばれ産地呼称として保護されている(名瀬市、大島郡を除く)が、大口市と菱刈町で造られた焼酎を『伊佐焼酎』と呼び、おいしさには県内でも定評がある。また県内でもこのように、地域の焼酎を総称して呼ばれる地域は例がない。川原健一代表理事は「今後もイモ焼酎一筋に、おいしさを追求したい」と話している。
〔白金酒造〕
 創業は1869(明治2)年という長い歴史を誇る白金酒造(鹿児島県姶良町)。錦江湾に面した蔵では地元のイモと水を使ったイモ焼酎が製造されている。
 主力商品は「白金乃露」「白金乃露黒」で、ほかにもハコ麹、カメ仕込み、木桶蒸留とすべて昔のままの手造りにこだわり、登録有形文化財の石蔵で黒瀬杜氏が造る「石蔵」などがある。この石蔵では
温度管理用のエアコンを使わず、すべて自然の風により温度管理を行っているため、杜氏の技量が試される難しい作業になる。また石蔵の2階では焼酎の試飲やビデオによる焼酎製造が観賞できるため、訪れた焼酎ファンを喜ばせている。
 ほかにも俳優で画家の片岡鶴太郎氏のデザインをラベルに使った「龍神蔵」「鶴日和」など豊富なライン アップを揃える。
 同社は04年に新工場を建設、従来の1.5倍の生産体制を整えたが、工場も順調に稼働しているという。竹之内雄作専務は「焼酎は地域文化。だから地産地消でなければならない。地元の新鮮なイモとおいしい水で造った焼酎は何とも言えないおいしさがある」と話している。
〔知覧醸造〕
 鹿児島県薩摩半島の南部にある知覧町は薩摩藩士の武家屋敷が立ち並び、茶の産地としても知られる。また太平洋戦争末期、この知覧には陸軍特攻基地があり、多くの若者がこの地から出撃していったことから、知覧特攻記念館には毎年、多くの人々が訪れている。
 その特攻記念館から車で10分あまり、東シナ海を臨む広大な畑に囲まれた知覧醸造がある。地元知覧で採れたコガネセンガンで造る「知覧武家屋敷」はイモの甘さとコクが特徴。もともとは地元で飲まれていたが、最近は観光客がみやげ品として持ち帰り、その味に魅了されたリピーターが増えているという。加えて九州新幹線開通効果により、鹿児島中央駅でも売り上げを伸ばしている。
 ほかにも特攻隊員から母親のように慕われ「特攻の母」と言われた鳥濱トメさんの孫の鳥濱久氏デザインによる「ホタル」も人気だ。森正木社長は「数年前のブーム時も決して無理せず、おいしい焼酎をまじめに造ってきた。小さな蔵なので決して背伸びせず、品質本位の姿勢を今後も貫きたい」と意気込みを語る。
〔白露酒造〕
 白露酒造(鹿児島市、岩崎麻友子社長)は鹿児島を代表する企業、岩崎産業グループの一社。後発メーカーでありながら、着実に規模を拡大している。
 工場がある揖宿郡山川町周辺は開聞岳地下数百メートルから地下水がこんこんと湧きだし、そのおいしい水は大手スーパーでも人気商品になるほど。この水と地元で採れたコガネセンガンで仕込んだ「白露」「白露黒」「岩いずみ」「麻友子スイート・ドライ」などはいずれも個性豊かで、焼酎ファンを喜ばせている。
 主力商品の一つ「岩いずみ」は黒麹の原酒をブレンドし、従来のイモ焼酎とは一味違う味を目指した逸品。端麗な飲み口でふくよかな香りが口に広がるこだわり焼酎。「麻友子」はスイート、ドライ、ピュアブラックの3酒類があり、そのいずれもが減圧蒸留となっている。そのためイモの匂いが少なく、焼酎が苦手という人にもワイン感覚で楽しめるのが特徴だ。岩崎麻友社長は「焼酎といえば男性の飲み物というイメージだが、女性をターゲットにした当社ならではの焼酎をこれからも提案したい」と独自の焼酎を誕生させる考えだ。
〔長島研醸〕
「鹿児島での出合いから本格的に口に」
日立システム九州社長 
市山 信也

 日立製作所に入社してから1年を経て九州に着任、以来こちらでの生活が続いている。焼酎というお酒を初めて身近に感じたのは、91歳までずっと元気で長生きした熊本の母方の祖母が、毎日の晩酌で「これがいい」と、うれしそうにおちょこの焼酎に氷砂糖を入れて飲んでいる姿を見た時。ただ私自身が本格的に口にするようになったのは、それから後年のことである。
 20年ほど前、仕事で鹿児島に頻繁に通った。そんなある日、居酒屋でたまたま口にした焼酎がびっくりするほどおいしく、福岡に戻ると早速探し求めた。ところが同じ銘柄のはずがさほどおいしくもない。そこでまた鹿児島に行った折、蔵元を訪ねてその話をしたところ、原因は割るのに使った水道水だと分かった。また、おいしい飲み方も教わり、それ以降はできるだけ前日に清水で割ってひと晩寝かせ、当日かんをつけて飲むようになった。東京へ足を運ぶ機会も多く、酒席では当然焼酎を注文しているが、何も言わないままだとレモンや梅干しが入って出てきたりし、焼酎ブームと言われながら、本当のものは伝わっていないと感じている。
 私たちの若いころは酒の場で先輩や上司から仕事、人生、その他もろもろのことを学び、かつ鍛えられた。日中の会社では型通りの指導になりがちで、本音もつかみにくく、真の人材教育がやりづらい。今当社では夕方、先輩が後輩に仕事の苦労話などをし、そのまま酒席へと流れているが、これを積極的に後押ししている。
 鹿児島県北部にある出水は毎年冬になるとナベヅルやマナヅルなど1万羽以上が飛来する観光名所だ。
 長島研醸は出水市内から車で約40分。天草の海に面した長島にある蔵元だ。もともと島内に5つの蔵元があり、それぞれ違うブランドを製造していたが、1967年、共同瓶詰場として設立されたのを機に「さつま島美人」という統一銘柄にした。これは島(世)の男性にいつまでも愛されるようにと願いが込められているという。
 島内5つの蔵元が、それぞれ伝統の技を使い醸し出した焼酎を巧みにブレンドするイモ焼酎は、サツマイモ本来の深い味わいと、まろやかな甘みの絶妙な味わいが特徴。飲み飽きしない上品な余韻を残すため、地元はもちろん鹿児島県内でも圧倒的な人気を持つ商品だ。出荷量はそれほど多くないことから、出荷調整を行う時期もあったが、「どんなときも決して無理な生産は行わず、品質本位に徹してきた」(小川清洋社長)と言う。主力商品は「さつま島美人」のほかに「島乙女」、黒麹仕込み「だんだん」、島内限定販売の「さつま島娘」となっている。
〔田崎酒造〕
 「ブレない酒づくり」ということで筆頭格にあがるのが、鹿児島県いちき串木野市の田崎酒造。
 創業以来、長期熟成酒を基軸に取り組む。1000日以上寝かせたイモ焼酎「千夜の夢」や、1953年製造の原酒から熟成した米焼酎「万夜の夢」は希少価値も高い。選りすぐりワインの美称よろしく「焼酎版『ヴィンテージ』」と呼びたい逸品ぞろいで、全工程に「凡事徹底。おいしい焼酎をつくり世に送りだす。酒蔵として当たり前のことを愚直なまでに守る」(田崎周二専務)姿勢が反映する。 特に「さつま七夕」はコンビニエンスストアで手に入るため、同社ブランド“入門”の1品となっている。ソムリエ世界一・田崎真也氏が同酒造3代目社長にインタビュー。「焼酎づくりでのこだわり」などで意気投合したことが全国デビューの起点となった。先に発売されている焼きいも焼酎「鬼火」(1年貯蔵)も、「基本に忠実」。
同酒造のスタンスを知るのに格好の一品であり、西薩摩地方の伸びやかで豊かな田園風景に思いを馳せながら、自宅で「柔らかで、ふくよかなまろみ」を愛でてみたい。
〔小鹿酒造〕
 1971(昭和46)年、4酒造メーカーにより創業した小鹿酒造協業組合(鹿児島県鹿屋市、田中高逸理事長)は、豊かな自然と温暖な気候に恵まれた大隅半島のほぼ中央に位置する。ここは県内屈指のサツマイモ生産地でもあり、まるでサツマイモ畑の中に蔵があるような印象を持つ。
 国見山系の山々に囲まれ、その深い山々をつたって清らかで豊富に流れる水を使用。原料のサツマイモはすべて大隅産のもの。94年、自社栽培のための農業法人「有限会社小鹿農業生産組合」を設立し、当時からトレーサビリティ(生産履歴)を意識した焼酎づくりを始めるなど、業界では先駆け的な存在でもある。こだわりぬいた原料への思いが、収穫したばかりのサツマイモをすぐに仕込む掘りたて仕込みの焼酎「美し里(うましさと)」を生んだ。
 また、主力商品のイモ焼酎「小鹿」は県外でも人気が高い。新鮮な大隅産黄金千貫を使ったサツマイモの甘い香りと豊かなまろやかな味わいがあり、原料の良さがストレートに感じられるクセのない芳醇な香味を醸し出している。
〔大海酒造〕
 1975(昭和50)年、鹿屋税務署管内の9工場と共同瓶詰場の出資者10名により創業した大海酒造協業組合(鹿児島県鹿屋市、北山幸男代表理事)。イモ焼酎「さつま大海」を主軸に、「一番雫」「さつま大海黒麹」「海王」「海」「くじらのボトル」「 さつまの海」などを手掛け、幅広いニーズに応えられるよう商品展開している。
 同社では外国産の安価な原料に頼ることなく、地域に根づいた焼酎づくりの実現を目指し、使用するすべてのサツマイモを鹿屋市内の契約農家に栽培を委託。衰退していく日本の農業を酒造りの場から支援していく構えだ。
 また、99年に杜氏となった大牟禮良行氏によって生まれた「海」などの新ブランドが、近年県外でも高い評価を受けている。熊本国税局並びに鹿児島県酒造連合会主催の本格焼酎鑑評会で、01年と04年に優等賞第1位の栄冠を獲得した。「杜氏になり経験を重ねるごとに狙いどおりの味を出せるようになった」と大牟禮氏。これからも杜氏の腕前に期待が高まる。
〔日当山醸造〕
「九州と東京で異なる品ぞろえ」
JR九州フードサービス 営業部次長
安留 利夫

 当社は居酒屋の「うまや」を九州と東京で、「駅亭」「八代目」を九州で出店しており、焼酎の品ぞろえには力を入れている。
 一昔前は日本酒がもてはやされたが、昨近は焼酎が随分と増えている。ここ4年ほどはイモ焼酎ブームが続いており、お店でも米焼酎や麦焼酎などに勝る人気ぶり。若い女性でも銘柄を指定してロックでイモを飲む人がいる。それ以前は東京の焼酎ブームの影響で、日本酒に近くて飲みやすい米や麦が、夏場を中心にウケが良かったようだ。
 当店はほとんどが九州産焼酎だが、東京と九州では品ぞろえに違いがある。東京では、普通のお店に置いていない、知られていない蔵元の銘柄にウエートをかけ、メジャーやポピュラーな銘柄も含めて40種類前後はそろえる。九州では、お客さまが比較的ブームに左右されず、飲み慣れたものを選ぶ安定した傾向にあり、従ってポピュラー中心となる。イモが主流の鹿児島のお店はいうまでもなく、近年は麦が本場の大分、米が本場の熊本でもイモが台頭してきた。東京ではいまだに焼酎に梅などを入れたり割ったりする人がいるが、九州人はさすがにロックで飲む人が多く、焼酎の本当のうまみを知っている。私はお湯割りよりも氷と水で割るほうが、香りを消さずに飲めるのでお勧めしたい。
 薩摩半島と大隅半島からなる鹿児島県のほぼ中央に位置する霧島市。同市の西側・隼人地区に、1920(大正9)年創業の「日当山醸造」(小牧一郎社長)はある。
 北側には霧島連山をかかえ、南側には桜島の浮かぶ鹿児島湾を臨む平野が、大自然の中で良質のサツマイモと上質の水を生み出してくれる。同社は創業以来、「アサヒ」という骨太のイモ焼酎を造り続けている。地元で焼酎といえば「アサヒ」を連想するほどだ。
 しかし時代の流れの中で、「より現代にマッチした味の焼酎を造りたい」との思いから、マイルドな焼酎「百秀」を世に送り出した。さらに、女性にもイモ焼酎をより親しんでもらいたいとの思いを込めて、フルーティーな味わいが楽しめる「千秀」を開発・販売した。県外でも好評を得ているという。霧島山系の湧水を更に研いて使用している同社の焼酎。「水」へ真剣に取り組む姿勢、そして「まじめな焼酎」こそ、日当山醸造のこだわりだ。
〔オガタマ酒造〕
 山元酒造系列のオガタマ酒造(薩摩川内市、山元隆功社長)は、かつての焼酎づくりの豊かな記憶を今でも残す数少ない焼酎蔵のひとつ。温故知新の焼酎造りをこの地で何代にもわたって守り続けてきている。特徴は「地杜氏」にある。 「地杜氏」とは、地の焼酎蔵だけを手がける専属の杜氏のこと。その地の自然をくまなく知り尽くし、蔵癖までをも肌で学んだ職人だ。現在その「地杜氏」に学んだ若手の杜氏たちが、オガタマ酒造の焼酎づくりに励んでいる。蔵の心と杜氏の心が一つになったとき、最上等の焼酎が誕生する。オガタマの焼酎は、その香り、柔らかさ、飲み応えのある充実感、他のどれにも似ていない。
 ここで生産される焼酎は、古式甕仕込み「鉄幹」を中心に黒麹を使用した「鉄幹黒」原料芋にベニアズマを使用した「紅鉄幹」。ほか、焼酎白麹、清酒用黄麹をともに加えて仕込み、白麹のすっきりとした甘さ、黄麹の奥行きのある味わいを併せ持った、白黄吟味「二天一流鉄幹」、「貴心樹」「さつまげんち」「おかがいも」や蒸留されたイモ焼酎を「封印甕」でじっくりと長期熟成させた秘蔵の逸品、封印甕壷貯蔵庫酒「蛮酒の杯」などがある。手間ひまかけこだわりを持ち、蔵の個性を醸すオガタマの焼酎は、こだわりの焼酎として根強いファンに支えられている。
〔紅乙女酒造〕
 06年の「国際食品コンクール」で、初出品ながら見事に最優秀味覚賞の三つ星を受賞するという快挙を成し遂げたのが、紅乙女酒造(林田春野社長)の胡麻祥酎「紅乙女ゴールド」。「ウイスキーやブランデーに負けない焼酎をと取り組んできたので、大きな自信になった」と林田博隆副社長。
 同コンクールは国際味覚品質審査会(ベルギー)が毎年開催し、三つ星レストランなどのシェフやソムリエ約50人が審査、今回は55カ国から飲料、食品といった430点の出品があり、焼酎が三つ星を獲得するのは初めてでもある。
 また、国内においても福岡国税局管内の福岡、佐賀、長崎の酒造場を対象とした06年酒類鑑評会で、本格焼酎部門・43酒造場153点の中から、麦焼酎「夢乙女」が最高位の大賞に選ばれ、同鑑評会のトップの常連ともなっている。
 これだけ国内外から高い評価を得ているのは、同蔵のお酒が素材を含めた自然との調和の中から生まれているためであろう。筑後・耳納連山からわき出る自然水と、良質の胡麻・麦・米を原料に、低温発酵・低温蒸留により醸し出された胡麻祥酎は、豊かな自然に囲まれた貯蔵庫で数年の歳月、静かな熟成の眠りにつく。
 「長い歳月と限りない手間をかけるのは、香り高い本当においしい焼酎を飲んでいただきたいと願うから。常に緊張を強いられる現代社会において、それを和らげるお手伝いができれば」と安らぎと幸せをもたらしてくれる祥酎である。
〔玄海酒造〕
 玄界灘に浮かぶロマンの島・壱岐は、海の幸とともに長崎県で二番目に大きな穀倉地帯を有し、米や麦も多く収穫されている。しかし昔は米に対する租税が非常に厳しかったことから、島の人たちは大麦を原料に、中国から伝わった製法で壱岐独特の焼酎を生み出した。それは16世紀ころからとされており、壱岐が「麦焼酎発祥の地」といわれているゆえんである。
 この壱岐を代表する本格焼酎メーカーが玄海酒造(山内賢明社長)で、壱岐で一番高い山(岳の辻)の伏流水と厳選された原料、そして長年培ってきた醸造技術を駆使して数々の逸品を世に送り出している。麦の香りの風味と、米麹を使用することによる天然の甘みが壱岐焼酎の特長で、ふくよかな香り、まろやかなコク、手間ひまをかけ丹精を込めて造り上げられているのが、本格焼酎「むぎ焼酎壱岐」である。
 世界が認めた壱岐焼酎。
 世界貿易機関(WTO)において、壱岐焼酎は95年に地理的表示の産地に指定された。日本で認められているのは他に、熊本県の球磨焼酎、沖縄県の琉球泡盛で、世界ではワインのボルドー・シャブリ・シャンパーニュ、ブランデーのコニャック・アルマニャック、ウイスキーのスコッチ・バーボンなどがある。
〔西吉田酒造〕
 大手酒類メーカーの参入や合併、また酒卸・酒販店の再編で風雲急を告げる焼酎業界。大規模かつ広範囲に、大量の商品を全国一律にちりばめる「空中戦」の様相を呈する。一連の動きには「介入も阻止」もないが、地場酒蔵としては「大地に足を付け、身の丈 に合った地道な取り組みが大切」と読むのが、西吉田酒造(福岡県筑後市)の吉田元彦専務。
 規模の大小問わず、未来の市場競合で試されるのは「メーカーとしての価値観」との持論がある。 少なくとも郊外型ショッピングセンターやコンビニエンスストア店頭で、ラベルを一瞥しただけで次々とカートに収まる1本と、居酒屋や小料理店で1杯ずつ吟味した後に、酒販店内で選ばれる1品とは根本的に異なる。
 多くの地場酒蔵の基本スタンスは後者。経営上、数量を求めるのは当然だが「着実かつ丁寧に自社ブランドの“味方”を醸成すること」が「地上戦」ではモノをいう。 例えば、「地域に根差した土着性」「ここにだけの限定感」「素朴かつ誠実に手間ひまかけた手づくり」だけがもつ独自の個性は地場酒蔵ならでは。使い込んだ樫樽やタンク、蒸留機や、蔵人衆の伝統技法は「時間と熟練の結晶」であり、大資本と組織力があればそろう、といった代物ではない。
 一方、地場酒蔵が「空中戦」に参入しても不毛な体力消耗戦に終わる公算が大。冒述の「読み」に忠実であることが賢明と目される。
 むしろ、競合に多くのプレーヤーが参戦すればするほど、地場酒蔵の存在感は増す。同時にその焼酎は、ここにきて日の目を見たわけであり、「もっと自社の路線に自信を深めていい」とも強調。
 1893年創業の同酒造では、麦焼酎「つくし」に古久蔵で長期貯蔵している麦焼酎をブレンドする。古久蔵は旧国鉄の遊休トンネル(全長320メートル)で、管内の通年気温が15度前後。この空間で台湾製かめに寝かせた原酒はなめらかさが際立つ。福岡では白ラベル(減圧蒸留で軽快)が支持され、東上するつれて黒ラベル(常圧蒸留で重厚)が好評を博す。
 麦の原料費はしばらく高止まりしているが、まず自らのブランドの魅力を磨く姿勢も不変だ。
〔老松酒造〕
 大分県日田市の老松酒造は、名実ともに世界の頂点を極めた。麦焼酎「赤閻魔(えんま)」が2006年モンドセレクション(世界食品品評会)蒸留酒部門で最高賞(特別金賞)を受賞。同焼酎製造8年目の快挙で「国際市場を攻勢する好機」(森山保徳社長)を得た。 モンドセレクションでは容器・ボトルのデザインから酒質・味わいまで多面的かつ総合的に評価。 真っ赤なラベルに雄渾なタッチの墨文字、キャップをひねると、洋ナシ風のフレーバーが香り立つ点などが審査員の信任を集めた。 同酒造は05年まで7年連続で金賞を受賞してきたが、ついに「決定打」を放った。カナダ、アメリカなど北米から中国、台湾とアジアまで輸出を強化。スシ、サシミ、天プラと世界的な和食ブームのなか「メニューを問わず、素材のうま味とマッチする」麦焼酎は各国で“市民権”を獲得しそう。
 森山社長は毎月、全社員に向け「トップ・メッセージ」を郵送するが、最新のはがきには「時間こそは共通の有限資産。人間・商人・職人として、タイミングを有効活用しましょう」との一文が輝く。
〔ぶんご銘醸〕
他の九州各県に比べて、清酒と焼酎の兼業酒蔵が多いのも大分県酒造界の特長。佐伯市のぶんご銘醸も冠岳や酒利岳など700メートル級の峻険(しゅんけん)な山々に端を発する水系や、宇佐平野などの豊富な穀類にあずかり、兼業で多くの酒類ブランドを培ってきた。
 狩生(かりう)幸一社長は「1次産業である農業と直結するのが酒造業。地産地消に取り組み、2次産業(農産物加工業)として農家再生や街づくりに寄与する」。
 厳選した大麦を50%まで精白。仕込み水に「蛍が飲む」と謳われるほどの清流、「番匠川」源流域の伏流水を使った「香吟のささやき」。「ぶんご太郎」は澄み切った酒質と柔らかな甘味が印象的だ。 有機栽培(オーガニック)大麦を原料に、高波動( 分子の小さい水)の水で仕上げた「狩生」も食中酒として極上の出来栄え。
 すべてが「身土不二」。人間の心身は自然と一体であり「三里四方の収穫のたまもの。だから、焼酎も眼・耳・鼻と五感を駆使して」五臓六腑に染みわたらせたい。この3品にも、農家・杜氏などつくり手の“表情”がうかがえそうだ 。
〔壱岐焼酎協業組合〕
 蔵元究極の企業価値は「愛飲家」。それも、ことあるごと自発的に自社商品を喧伝する熱烈ファンまであれば心強いことこの上ないが、壱岐焼酎協業組合はこれで成長する最たる例だ。
 毎月1回、福岡市内でメーンブランド「壱岐っ娘」を囲んで集う「いきっ子会」は開催14年目・170回に迫る。同種の会合は同市内でも多数あるが、一蔵元・単独銘柄でこれほど長期にわたって続くのはまれ。それも毎回70人強が会場にひしめくなか、初参加者が2割近い。「会長(森祐行九州大学名誉教授)はじめ、幹事などの結束性と吸引力のたまもの」と篠崎修理事長は恐縮気味だが、要は「壱岐っ娘がうまいから」(常連客)。 「肩書・役職一切不問」で、だれもが気軽にグラスを傾ける布衣(ふい)の交わり。形式ばったあいさつ抜きで始まり三々五々2次会へ。自由な雰囲気はOLや主婦も魅了し、リピーターも自然増だ。
 わけても海外出張の際まで率先して「壱岐っ娘」を携え、現地の人に薦めるご仁まで控えており、愛飲家の積極的な口コミで冒述の企業価値を拡大し続けている 。
〔高橋酒造〕
 人吉・球磨地方で造られる米焼酎は「球磨焼酎」と呼ばれ、長い歴史と伝統を持つ。その代表的な蔵元の高橋酒造(熊本県人吉市、高橋光宏社長)の主力商品は「白岳」「白岳しろ」。九州域内はもとより首都圏でも幅広い人気を誇 っている。
 昨年ロンドンで行われた「インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション(IWSC)」のスピリッツ部門で「白岳しろ」が堂々の「銀賞」を受賞。この快挙に社内の士気は大いに高まっているという。同社では白岳しろ720ミリリットル(業務用)のネックリンガーを従来品から、受賞記念品に変えて発売中だ。
 一方、05年9月、新たな米焼酎ファンを開拓すべく発売した「待宵(まつよい)」1800ミリリットルと720ミリリットルはともに売り上げを伸ばし、新たなファン層を獲得している。「待宵」は濃厚で芳醇な味わいが特徴で、それを生み出すのが全麹仕込みと呼ばれる製造方法だ。時間も手間もかかるため熊本県内限定販売のため、」熊本でしか買えないみやげ品として喜ばれている。
 待宵のコンセプトは食とのコラボレーション。食中酒としておいしい料理をよりおいしく楽しむために造られた酒だ。高橋光宏社長は「待宵は大量生産できない手間暇かかる製品だが、出荷量も着実に伸びている。今後も、米焼酎のおいしさを追求し続けたい」と意欲を見せている。
〔繊月酒造〕
 熊本県人吉市にある繊月酒造は創業103年を誇る歴史と伝統ある蔵元。この蔵の3代目社長は堤正博氏。大手都市銀行勤務から家業を継ぎ、人吉商工会議所会頭を務める。
 「球磨焼酎」は産地指定を受け、世界でも認められた焼酎だが、人吉や球磨地方で生産されるすべてが球磨焼酎とは呼ばれない。仕込み水が球磨川の伏流水でなければ、球磨焼酎されない定義になっているからだ。同蔵で造られる「峰の露」「繊月」「舞せんげつ」「たる繊月」などレギュラー商品はすべて球磨川の伏流水を使用しており、真の球磨焼酎といえる。長い歴史を持つ蔵だけに、かつての仕込み蔵には30年以上寝かせた古酒が豊富に貯蔵され、さらなる熟成が行われている。
 同蔵は地域おこしにも積極的に参加。熊本県球磨郡五木村から流れ出す清流川辺川の水と流域の相良米で造った「限定阿部川辺」は全国的に人気が出ているという。ほかにも鹿本郡の合鴨米で造った「さきもり」、同県球磨郡五木村の無農薬米で造った「五木」などその地域で採れた米で造った米焼酎は合計9つの地域に及んでいる。堤純子企画宣伝部長は「おいしい水と米、それに熟練の杜氏の腕が加わった本格米焼酎をぜひ味わってほしい」とアピールしている。
〔杵の川酒造〕
「東北でも着実に愛されている九州の本格焼酎」
大石産業 管理部 総務部長 
入江 清造

 8年ぶりに北九州市の本社に戻った。その前は、主に東北で環境保全型リサイクル製品のパルプモウルドの工場に勤務。酒席で印象に残ったのは、東北の人が想像以上に九州の本格焼酎を愛飲していること。年配の方は日本酒党が多いが、若者には確実に焼酎党が増えており、中でもイモ焼酎が多いと感じる。
 東北勤務時代にはよく「九州の人はお酒が強いでしょう」と飲まされたものだ。酒はそれほど強くないが、どの本格焼酎も原料のうまみが感じられるので好んで飲む。ただ、東北の人とじっくり腰を据えて2、3時間飲んでみたら、どんなに強い九州人でもかなわないと思う。それほど北国の人は強い。そんな酒どころ東北で地元九州の本格焼酎が健闘しているのはうれしい。
 ただ悲しいことも。毎年、鹿児島営業所の社員に手配させ、一升瓶を1ケース(6本入り)を東北のお客さんに郵送してもらっていた。ほんの5、6年前までは、うち2本にいわゆる「プレミア焼酎」が含まれており、大変喜ばれていたもの。今ではそううまくはいかないが、仕方がない。
 1977(昭和52)年、大阪で初めて口にした麦焼酎を「うまい」と感じた衝撃から30年が経つ。時代の流れとともに親しむ酒も変わっていく。東北勤務の思い出とともに、今夜も本格焼酎を楽しむ。
 焼酎による「地産地消の可能性」を追求し“正解”を得たのが長崎県諫早市の杵の川酒造。
 「焼酎ミニブランド」企画で「焼酎ファンの広がりと、ニーズの本格化を実感している」(瀬頭昭治社長)。同市近郊の農家からコメ、ムギなどを預かり、個別に「マイ焼酎」を生産。250キログラムの原料から1.8リットル瓶(アルコール25度)換算で220本程が仕上がる。仕込み場も見学でき、減圧蒸留で10カ後に全本買い取りで受け渡し。
 これが福岡、佐賀など「近郊」を超え農家以外でビジネスマンからの反響も多く、熊本のハーレーダビッドソン愛好家が「とうもろこし」、北海道札幌のすし店経営者からは「トマト」でオリジナル焼酎を、との要望が舞い込む。「現実性」を吟味して受注するが、同企画が「図らずも、酒蔵独自の市場調査」として機能したのは事実。 多くの焼酎愛飲家と面談、その要望をヒヤリングして次代の要望を先取りしたことで、近未来の焼酎市場競合に先行した。さっそく、近隣のそのぎ町名産のお茶と焼酎をブレンドしたリキュールなどを商品化の方向にある。
〔長崎大島醸造〕
 テーマパーク「ハウステンボス」から西海パールラインを車で西上。青海原にオフホワイトの橋りょうのコントラストも鮮やかな大島大橋を渡れば、長崎大島醸造では「ちょうちょうさん」「いつもの奴」「大福帳」のタンクを前面に「たぬき」のマスコットがお出迎えしてくれる。これは「目・腹・尾など8つの部位から、恩恵がある(八相縁喜)蔵元の守り神」(山下英一社長)。
 一例に「通帳」で、「世渡りは先(ま)づ信用が第一。活動常に四通八達」とある。総じて「たぬきは他を抜き出ること」に通じ、商売上でおめでたいシンボル。ただし「他を蹴落としてまで抜き出る私欲ではなく、他の真似出来ない自己を見出すこと」との一文に蔵元の不動の信念が込められている。
 「自らの個性と魅力に磨きをかけることに専心。結果において他社に勝る」一品を出荷する。
 冒述の3ブランドを主軸に工場見学や試飲を勧める。2006年の「勝手にしやがれ」「狂わせたいの」(ともに麦焼酎で、作家・阿久悠氏の自筆ラベル)に続き、07年早々に3アイテムを発表。話題性を巻きながら、定番商品の脇を固めている。
〔壱岐の華〕
壱岐の華(長田勝社長)には九州各地の地場酒蔵と業務提携して進めているサントリーの「本格焼酎戦略」から白羽の矢が立った。
 同社は初代・長田嘉助氏が1900年に創業。原料の仕込みは「5割麹」を貫く。島内に伝わる米:麦の割合は1対2で麦半分の米から麹をつくるため。これで「眼・鼻・耳・舌など5感を駆使、神経を集中して」(長田社長)古式の単式常圧蒸溜器に向き合い、麦のコクと米麹の甘味を浮き出させる。 一連の一途な酒づくりにサントリー側が“心酔”。度重なるアプローチの結果、2年をかけて共同開発したのが「壱の國(いちのくに)」で「割り水寝かせ」を採用した。原酒(43〜44%)を地下100メートル以上から汲み上げた壱岐の地下水で30%まで割り、2年程熟成。ネーミングは、中国の歴史書『魏志倭人伝』(3世紀ころに成立)に「一大國」として記されるなど、古代壱岐が王都をもって栄えた国家だったことに因む。
 はたして、「提携効果は抜群」。月1万2000本強を出荷する伸びで、「世界ブランド」としての壱岐焼酎全体を、全国に広める先導役を果たしているところだ。
〔メルシャン〕
 06年9月から熊本県八代市の「八代不知火蔵」(乙類焼酎製造棟)の生産能力を一段とアップし、新たなスタートを切ったメルシャン。「この蔵発の本格焼酎のすばらしさを、九州の皆さまによりお伝えしていければ」と坂本博九州支社長。70年近い歴史を持つ八代工場から九州各地へと、自信の本格焼酎を発信している。
 その1つが料飲店向けの「麦焼酎 どぎゃん」。良質な球磨川流域の伏流水を仕込みと割水に使用し、熊本県産米使用の米麹と二条大麦で作った1つの醪(もろみ)を、3つの異なる釜(蒸留器)で蒸留、再び1つの原酒に収れんするという業界初、八代不知火蔵独自の製法で、“個性と調和”の本格焼酎を具現化した。
 同じく料飲店向けの「黒ごま焼酎 黒胡宝(くろごほう)」は、選りすぐった黒ごまを粒のまま焙煎してすりつぶし、米、米麹のもろみに掛けて風味豊かに仕上げられた本格焼酎。素材のごまには「黒ごま」を100%使用することで、黒ごまの香ばしい香りと、すっきりとした飲み口を実現した。「これからもこうした品質本位、付加価値重視の本格焼酎を、皆さまの団らんの場での名わき役としてお届けしていきたい」(同氏)考えである。
〔宝酒造〕
 芋と芋麹だけの“芋100%”にこだわった本格焼酎が、全量芋焼酎「一刻者」だ。
 焼酎の味わいと香りを大きく左右するのが、仕込みに使う「麹」。芋焼酎には当然芋麹と思われがちだが、実は違う。芋原料は水分が多くつぶれやすいなどの理由で、麹菌が根付きにくく、昔から芋麹造りは極めて難しいとされてきた。そのため一般的な芋焼酎には米麹が使用されている。つまり、一般的な芋焼酎は芋と米から造られているのだ。
 しかし、「一刻者」は独自の技術で生み出された芋麹を使用、芋と芋麹だけで造られた「全量芋焼酎」である。“芋100%”ならではの、芋本来の甘い香りとまろやかで上品な味わいが楽しめる。
 また、料飲店限定商品として、紅さつまを原料とした「紅一刻(べにいっこ)」、黒麹で仕込んだ「黒一刻(くろいっこ)」といった、個性豊かな商品も発売しており、多くのファンに愛飲されている。
 「一刻者(いっこもん)」とは、薩摩地方の話し言葉で「頑固者」という意味。“芋100%”に頑固なまでにこだわった芋焼酎にふさわしい名前だ。ラベルは懐古感あふれる復古調デザインで、その書は榊莫山氏の作品。販売元は宝酒造。製造元は鹿児島県薩摩郡の焼酎蔵・小牧醸造。

世界のSHOCHUとして次なる戦略を

 イモ、麦、米、ソバ、黒糖、ゴマ、ニンジン―このように九州各県では実にバラエティに富んだ本格焼酎が造りだされている。「焼酎王国九州」の面目躍如だ。
 本格焼酎は誰もが認める日本の焼酎となった訳だが、これほど多くの原料を持つ蒸留酒は世界中どこにも見当たらず、今後は世界を見据えた戦略をすべきとの声が多く聞かれる。
 すでに一部の大手メーカーでは中国、東南アジア、ヨーロッパなどで独自の展開を行っているが、なかなか入り込めないのが現状のようだ。今後は日本が世界に誇る蒸留酒として積極的に海外進出するには業界団体が一丸となり推し進めねばならない。
 酒はほど良く飲め体にいいことから「百薬の長」という。この出典は前漢書の「夫塩食肴之将、酒百薬之長」にある。英語の同意語だと「Good wine makes good blood」となるが、「Good shochu makes good blood」と呼ばれる日はそう遠くないかもしれない。

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