2007年2月号76ページに掲載
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【焼酎特集】乙類前線 速度緩やかに北上中

九州の本格焼酎は世界市場を見据えさらなる飛躍を

東京農業大教授 鹿児島大客員教授 小泉 武夫氏


日本の本格焼酎は世界的にも珍しい酒

●小泉武夫氏プロフィル
1943年生まれ。福島県小野町出身。実家は造り酒屋。東京農大教授。農学博士。著書に「酒の話」「平成養生訓「銘酒誕生」「食に知恵あり」「中国怪食紀行」「地球を怪食する」など多数。自らを味覚人飛行物体と称す。4月からは鹿児島大で「焼酎学」講座を開講する。九州の蔵元には教え子が多数。
 −小泉先生のご実家は東北の蔵元とお聞きしましたが、先生は焼酎はお好きですか。また本格焼酎が全国的に浸透している理由をどうお考えですか。
 小泉 私の実家は福島県の造り酒屋です。日本酒が主ですが、酒を搾ったあとのカスでカス取り焼酎も造ってました。ですから焼酎も大好きですよ。その焼酎ですが、近ごろの動向を見ていると、これは一過性のブームではなく、完全に定着したと思っています。そしてこのように伸びた理由を2つ挙げたいと思います。まず本格焼酎が消費者の健康指向に合致したことですね。二日酔いしない、酔いざめがいいなどと言われ、 どうせ飲むなら体にいい酒を飲もう、ということになったのだと思います。
 もう一つは、日本人の食生活の大きな変化です。我々日本人はこの40年間で肉と油の消費量が4倍に増えました。高脂肪、高蛋白で脂っこい食生活になると日本酒のような甘い酒ではどうしても物足らなくなる。そこで辛口で切れ味がある焼酎が飲まれるようになるのは当然です。
 中国を例に挙げると、中華料理はすべて油を使いますから、これに合った白酒が圧倒的に飲まれます。それは料理と酒の相性です。このように料理と酒は密接にかかわっていますから、日本酒が減り、焼酎が飲まれるようになったのは、日本人の食生活が焼酎に合うようになったというべきでしょう。焼酎がブームになったというより、食生活の変化とともに浸透していったといえますね。
 さらに付け加えると、本格焼酎はストレート、ロック、お湯割りなどオールマイティな飲み方ができます。世界的に見てもこういう酒は珍しいですよ。外国の蒸留酒は湯で割るとほとんど腰が砕けてしまうんですが、焼酎にはそれがありません。お湯で割っても焼酎のよさを決して消さない独自性の強い酒です。
 ほかにも、一部特定銘柄の“幻化”が消費者の興味をかき立てたといえるでしょう。周りがそんなに言うのなら、一体どんな味なのか飲んでみようと、初めて本格焼酎を飲んだ方も多かったはずです。しかしこうしたことが逆に1本数万円する焼酎を生み出す馬鹿げたことにもなりました。どこでどうなったか分かりませんが、焼酎はあくまで大衆酒ですからこれはおかしな話です。
 これはマスコミにも責任がありますね。マスメディアが作り上げた話題に消費者が完全に乗せられてしまった。

業界の進むべき方向や問題点など

−あれほど右肩上がりだった本格焼酎もやや落ち着きを見せ始めています。今後、蔵元はどのような方向を目指せばいいとお考えですか。
 小泉 飲み手のキャパシティーは変わらないうえ、少子化ですから酒の消費量が伸びるとは考えにくい。ですから今後は日本の本格焼酎は世界を見据えるべきです。
 世界には蒸留酒とそうでない酒があるわけですが、焼酎は実に特色ある蒸留酒だと思います。ブランデーだとブドウを原料とし、ウイスキーは大麦、ウオッカはえん麦、テキーラは蘭の樹液というように基本的に原料は1つです。しかし焼酎は麦、米、イモ、ソバ、黒糖をはじめ実にさまざまな原料がある。これは世界的にも非常に珍しいと思います。なかでも麹で酒を造るのは日本と中国の特徴です。ですからこれを日本だけに止めておくのは惜しいというか実にもったいない。日本のメーカーは積極的に海外戦略をやるべきです。
 すでに海外でも日本の焼酎は徐々に広がっていますが、中国などは日本の本格焼酎の評判がとてもいい。実は中国でよく飲まれる白酒は度数も55度ぐらいでかなり強く、年配者と違って中国の若い人たちはあまり好きではないようです。それで少しライト化された酒を飲んでいる。ですから日本の焼酎を試飲するとみんながおしいいと納得する。今後の伸びを予感させますね。
−焼酎業界の問題点があればズバリお聞かせください。
 小泉 最も懸念しているのは、大手酒類メーカーの参入が増えていることです。大手は全国的な独自の販売ルートを持っていますから、小さな蔵元の焼酎がその販路に乗って広がっていくのは大変結構ですが、逆に売らなくてはいけなくなるため、どんどん造らなきゃいけない。そうなると品質の低下が起こってくるのではないかと心配です。
 もともと九州各地の蔵元が個性溢れる焼酎を造っていたから注目されたのです。見方を変えれば、本格焼酎は各地域の文化そのものを飲んでいる訳です。売らんがために味や香りが一律になると、消費者に飽きられる可能性があります。
 それと業界全体の問題ですが、焼酎の振興だけではダメだと思います。焼酎全体を底上げしないといけない。また伸びが鈍化した焼酎の中にあり一人気を吐くイモですが、イモだけでもダメです。イモはあくまで全体の中の一つでしかない。麦も米も黒糖もソバも全体を押し上げることが重要です。先ほどの海外進出の話にも言えますが、どこか特定のメーカーだけが乗り込むのではなく、業界が一体となってもらわないと海外市場では厳しいと思います。
 加えて焼酎カスの処分問題もあります。海洋投機ができなくなる前に、対策をとらないといけません。焼酎製造で出た焼酎カスを発酵させて堆肥にし、それを肥料として利用すればいいのです。それで原料となる作物が大きく育てば理想の循環システムが出来上がります。またこれだけ浸透した焼酎ですからトレーサビリティをきちんとやるべきです。フランスではワインの生産地や原料が法律化されている。それを破った者には厳しい対処をします。だからフランスのワインが世界中で安心して飲まれのです。本格焼酎も世界を見据えるなら、原料、生産地、製造などをきちんと表示し、しかも管理する必要がある思います。
−小泉先生は今年の4月から鹿児島大学で「焼酎学」講座を持たれますね。
 小泉 文部科学省が文化芸術振興に力を入れており、私も地域に密着した講座を持てることを楽しみにしています。鹿児島は焼酎の国、黒酢も有名です。鹿大では私の専門である醸造学、発酵学、食文化などはもちろん、今後の焼酎の進むべき方向性など戦略などありとあらゆる知識を伝授したいと考えています。それに鹿児島の蔵元には私の教え子も数多くいますしね。みんな小泉チルドレンですよ(笑)。
−小泉先生、今日はどうもありがとうございました。今後のご活躍をお祈りします。

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