2006年10月号110ページに掲載

日本酒企画

蔵人衆の「神技」に心酔。
九州人には、九州の酒


 「和醸美酒」。日本酒は、熟練の名杜氏が心技を合わせ、絶妙のハーモニーで仕込んでこそ、ビジネスマンをうならす逸品に仕上がる。すなわち、酒米と酵母がよく働く(完全発酵)ため、常温保管で十分に熟成。飲み口と味わい、そして酔い心地、すべてに至高のバランスが伴い真に「旨い」酒ができる。その銘酒は、九州にある。さっそく、ここでは各地の地場酒蔵に立ち寄ってみる。日本酒市場も回復しているなか、左党には朗報である。

37年熟成酒と明快な存在感を
主張できる独自のブランドへ

木箱も、ブランドに重厚な印象を加味している。ボトルを開封するとあたり一面に芳香が漂う
 「極超長期貯蔵限定酒」の発表で、酒類卸や酒販店からの引き合いが続いているのが大分県日田市の老松酒造(森山保徳社長)。
 故・森山知明会長が1969年に製造した1級規格原酒を土蔵で熟成し37年目で商品化したが、これほどの長期貯蔵は他に類を見ない。冒述通り、月300本限定販売の「プレミアム効果」も抜群で、ブランド開発の奥義を極めた老舗(1789年創業)の真価と貫禄を見せつけた。
 同酒造の日本酒は、海外出荷量が対前年比130%の伸び。日本は世界1の長寿国(平均寿命82歳で90歳以上が101万人)であり「スシ、サシミにサケはヘルシー・フーズ」として、国際的な日本食ブームが沸くのも後押しする。
 ラベルに配した浮世絵が目を引く純米吟醸酒「雪月美人」は、欧米の高級スーパーマーケットやアジアのシティーホテルで人気を博す。世界的な高級スーパー、トレーダージョーズとの取り引きも強化、販路が拡大しており「穀物ベースの高級な健康飲料」として認知度と支持率は高まっている。
 一方、国内市場では「売り場で
際立つ主張力があり、個性的で印象的なボトルデザイン」を追求。「日本酒復権」の兆しを受け、「地場の古酒蔵ならではの銘酒」を求める層は、こだわりある酒販店から個人まで広がりを見せている。 「三年目の冷やおろし」あたり、キンキンに雪冷え(5度程度)で、ぐっといきたいところだ。

手造り手法の発展的継承
の中で、清酒本来の旨さを

 清酒「西の関」は明治6(1873)年創業で、明治20年代に2代目が西日本の誇り足るべき抱負と研さんを象徴して「西の関」と命名した。杜氏は、熊本で酒造りの神様といわれた故・野白金一先生の愛弟子・中村千代吉が来場、現在はその子の中村繁雄が継ぎ、親子2代にわたって「西の関」を世に送りだしている。
 初代来「品質主義」を標ぼうし、創業100年を経過した時点で「品質一貫一世紀」をキャッチフレーズに、「時代の風潮や流行に流されることなく、あくまでも昔ながらの『手造り』にこだわって」(萱島進社長)、伝統手造り手法の発展的継承の中で、清酒本来の旨さを伝えている。
 「西の関」にとって最も記念すべきことは、昭和38(1963)年12月に大吟醸「秘蔵酒」を発売したこと。杜氏が心魂込めて造り上げた品評会用の酒で、門外不出の幻の酒という意味を込めて「秘蔵酒」と命名した。
 「西の関」は、お酒の味を形どる五味(甘・酸・辛・苦・渋)が調和した「旨い酒」を理想とし、悠久の時間の中で地元に密着した伝統手造り手法を発展的に継承し、甘い辛いを超越した日本酒本来の旨さを絶えず追い求めている。

「純粋な和の酒」を自分の
加減とペースに合わせて

 この秋、やまと酒造(佐賀市)がキャンペーンする「純米酒 肥前杜氏」は、「『和らぎ水』と共に」(北島恭一社長)いただきたい。
 醸造用アルコールなどの代用原料を一切添加せず、「米と米こうじと水だけで作った酒」の傍らに1杯の冷水を。酒を何杯か飲む間に冷水も口中に運ぶ。これで「日本人の体質に良く合う12度度前に」アルコール度数を緩和、飲み口も調整しながら「ゆっくりと時間をかけ、自分のペースと酔い加減に合わせて味わう」という趣向。
 「ロハス(LOHAS)」に代表されるような自然回帰・健康志向から和の食事が見直されるなか、「純な和の酒」も注目される。ラベルには原料米の生産者の顔写真も施し、トレーサビリティー(製造工程そ求性)に応え「安心感と安全性」を示すと同時に、「地域で誠実・丁寧に磨き上げた味」も訴求。盛夏から晩秋に向けて佐賀平野で実った稲穂を収穫、米を蒸す「釜屋」、酒母(酵母)担当の「  (もと)屋」、酒を搾る「槽(ふな)屋」などの専門職人を杜氏が仕切って、銘酒に仕上げる風景を思い描きながらの一献がお奨め。もちろん「和らぎ水」に「純米酒 肥前杜氏」の仕込みに使う、背振山地下170メートルから湧き出す伏流水が出てくればいうことはない。

陶磁器の里で「カッパ」を
守護神にトップを目指す

 社名と酒名にある通り、西九州・松浦地区で「一番」の酒蔵を目指すのが、松浦一酒造(佐賀県伊万里市)。田尻泰浩社長は創業290年の同酒造を「観光酒蔵」としてPRする。
 染付・錦手などの色絵も見事な伊万里焼に合わせ、見学客を呼ぶのが「カッパのミイラ」。50年程前、母屋の屋根替えのとき偶然に見つかった代物で黒い木箱の表に「河伯」(カッパの意味)とあり、頭上に皿があったようすなどから本物か、と目される。カッパは水の守り神であり「日本酒の生命線も水」であることから「そのまま蔵元の守護神」として祭っている。
「カッパの酒」で有名な黄桜酒造の首脳陣も“表敬訪問”。水神、河童を巡る談義に花が咲いたとも聞く

  これが新聞、テレビなどマスメディアを通じて報道されたこともあり、全国からカッパに関する資料や文献が舞い込んだ。そこでカッパの人形や置き物と合わせて「カッパコレクション」を集成。
 バスツアーなどで年間4万人の集客は経営上、心強い。純米大吟醸「松浦一」などのブランドはじめ、酒器や盃(さかずき)、古民具に酒造道具などを巡り、松浦地区の自然や文化に触れた印象が口コミで広まっているもようだ。

手作業・重労働でも古来手法の
「ハネ木搾り」で、期待に応える

 「誠実な仕事を通じた、真に価値ある銘酒造り」にこだわるのが白糸酒造(田中信彦社長)。福岡県前原市で創業(1855年)以来、「ハネ木搾り」による酒造りを貫く。いま、全国には1800の酒造があるが、この古来手法を代々、踏襲するのは同酒造のみ。
 木箱に、もろみの入った酒袋を敷き詰め板で覆いをする。その上から長さ8メートルのカシの木(ハネ木)にロープでつり下げた計1.2トンの巨大な石をおろしていく。 これで丸2日間、板ごと重みを加える。それらの圧力で酒と酒かすとに分離する。すべて手作業であり重労働。機械搾りより工程は複雑で酒量も減産となるが「もろみを搾りきれないぶん、雑味成分が出にくい。苦味も少なく、柔らかい飲み口とすっきりとした酔いざめが保証できる」(田中社長)。
 何より、同酒造のある糸島地区はじめ福岡県南西部の清酒「白糸」ファン層を裏切りたくない。
 同地区は酒造好適米、山田錦の生産量が兵庫県に次いで全国第2位であり、銘酒造りは農家250軒の協力あればこそ。上品な酒質も背振山系の天然清水のたまもので、百貨店などで「指名買い」も多い。期待に応えるのは「地場酒蔵の責務であり、本懐でもある」。
 現に、同酒造のブランド愛飲家で結成する「ザ・ハネ木塾」では米作りから酒の仕込み、ボトリング」まで体験する趣向が進む。
 7代目、田中社長は「未来永劫、『ハネ木搾り』を続ける心構えと酒蔵のシンボル」として、すでに新しいカシの木を準備している。 こうして各蔵元を探訪していくと、古来伝統の技法をいまに受け継ぎ、一心に「旨い酒を造りたい」と念ずる蔵人衆の心意気が伝わってくる。同時に、味わいの基本は「地産地消」。大量の生産・消費に終始する工業製品ではなく、自然の収穫を地元で吟味、少量でも確かに支持され堪能されるし好品であり、日本酒こそ、究極のスローフードではないかと感じられる。そしてやはり、「九州人には、九州の酒」との思いが強くなるのだ。

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