2006年9月号78ページに掲載
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総合エネルギー企業 九州電力

「グループの体系を整理し、収益力を高めていく」

九州電力社長 松尾 新吾氏

 松尾社長は実に巧みに自由化を乗り切っていっている、との評価が高い。確かに自由化をテコにして、営業力の強化はもとより経営効率化、さらにはグループ力の向上など、大胆とも思える策を矢継ぎ早に繰り出している感がある。社内には「プルサーマル計画など懸案事項もクリアし、極めて順調な足取り」と自信さえ伺わせる声も出るほどである。
聞き手/本誌編集長 山口 真一郎


資源を有効活用する意義

 山口 玄海原子力発電所3号機のプルサーマル計画につきましては、今年3月佐賀県及び玄海町から了解を得、7月初めにはMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料に関する調査のためフランスヘ担当者を派遣されるなど着実に取り組まれているようですね。改めて伺いますが、このプルサーマル計画の意義についてどのようにお考えでしょうか。
 松尾 プルサーマルというのは、一言で言いますと原子燃料のリサイクルです。ご存知のように、天然ウランの中には核分裂しやすい、要するに燃えやすいウラン235が0.7%しか含まれていませんが、これを濃縮して約4%まで高めてウラン燃料として使用しています。これが使用済みの燃料になりますと、ウラン235が約1%に減りますが、新しくプルトニウムが約1%生成されることになります。このプルトニウムを回収して再び燃料として利用しようということなのです。その場合、回収したプルトニウムはウランと酸化物の形で混合して新しい燃料をつくりますから混合酸化物(Mixed Oxide)、略してMOX燃料と呼んでいます。
 要するに再利用が可能な使用済みの燃料をそのまま捨ててしまうのでは、非常に「もったいない」話ですし、特に資源小国の日本にとりましては、資源の有効活用ということになり、その観点から大変に意義のあることだと思っています。また核不拡散、要するに必要以上のプルトニウムは持たないという趣旨にも沿うことになるわけで、この側面での意義も大きいと思います。
 MOX燃料を用いた発電は、フランスが数十年前から取り組んでいるのをはじめ、海外では約5000体ほどのMOX燃料集合体を装荷して発電している実績があります。他の国がやっているから安全だという論は少し乱暴かもしれませんが、技術的に日本が他の国に劣っているとは思いません。国も慎重に審査して許可しており、原子力発電所の安全性については問題ないと思っています。
 そこで当社としましては、2010年度までには玄海3号機の定期検査時にMOX燃料を装荷したいと考えています。ただ、MOX燃料は現状では国内で加工ができません。必然的に海外に依頼することになりますが、まずは海外成型加工メーカーの実情をつぶさに調査する必要があり、7月初めにフランスのメーカーへ社員5人を派遣しました。これらを踏まえ、メーカーへ発注し、それからMOX燃料の成型加工、輸送などの過程を経て装荷ということになります。メーカーの都合もあり若干スケジュールに変更が出てくる可能性もありますが、現段階では目標通りに進められるのではないかとの見通しを持っています。

ベストミックスの優等生

 山口 九電さんは、その原子力をべースに電源のベストミックスを進めてこられました。今や我が国の電力会社の中では「優等生」と評価されていますね。
 松尾 資源小国である我が国におきましては、電力の長期安定供給が重要な課題となっており、リスクの分散を図る意味からもいろいろな電源を組みあわせておく必要があると思います。その望ましい電源構成として、供給の安定性、経済性、環境への適合などを総合的に勘案し、原子力はべース電源の中核として電力量構成比で50%程度、水力・地熱10%程度、残りを石炭、LNG、石油で分担することを目標としています。これに対し当社の現状は、平成17年度実績で申しますと、原子力が44%、石炭が%、LNGが16%、石油が6%、それから水力、地熱、新エネルギーを合わせ8%といった状況です。まさにベストミックスを達成しており、それで「優等生」、という評価をいただいているわけです。
玄海原子力発電所

 ご承知のように、現在、原油価格が高騰していますが当社の経営はほとんど影響を受けていません。しかも今年4月からは料金値下げまで実施しています。これはまさに原子力をべース電源としたベストミックスのお陰です。その意味で、50年前から原子力発電に取り組んできた先輩たちの功績に助けられていると思っています。ですから、これを維持していくことは私どもの務めです。
 また将来の電源開発につきましては、資源小国の我が国におけるエネルギーの安定供給の確保やCO2排出量の削減の観点に立ち、さらに今後緩やかながらも着実に伸びると予想される電力需要に対応して電力の安定供給の確保を図るため、次期原子力を開発することが必要不可欠だと考えています。
 山口 それは川内原子力発電所3号機ですね。
 松尾 川内におきましては、「2010年代後半」の開発を目指し、今年6月1日から環境アセスメントの現況調査を開始しました。6月末現在までの総合進捗率は70.2%となっており、環境アセスメント、地質調査、気象調査とも順調に進んでいます。これらの環境調査が予定通り進みますと、08年6月ごろには終了しますので、その環境調査結果を踏まえ、増設について判断したいと思っています。焦ってはいませんが、着実に、できるだけ迅速に進めたいですね。

お客さまとの信頼関係確立

 山口 ところで電力自由化に伴い、一時PPS(特定規模電気事業者)に大口需要者を中心に顧客が流れました。それが今年になって戻ってきているようですね。
 松尾 離脱需要は7月1日現在で90件となっており、件数自体は増えています。ただ、離脱電力量そのものは逆に減ってきました。つまり、小口の離脱件数は増えているが、大口のお客さまが戻ってきているということです。
 これは、ある意味で皮肉な現象なのです ね。通常、原油価格が高騰しますと電力会社を圧迫することになりますが、先ほどもお話しましたように原子力のウエートが高く、石油のウエートが低い当社は、この原油価格高騰の影響をさほど受けずに済んでいます。これに対し、石油燃料による分散型電源を主とする新規参入事業者は原油価格高騰の影響を直接受けているわけです。それが入札の価格に表れ、結果的に当社に戻っているということでしょうね。
 とは言え、小口のお客さまは離脱されていますし、また、別の電力会社の供給区域へ電気を送る場合、電力会社の供給区域をまたぐ毎に連系線の使用料として課金される振替供給制度が咋年4月から廃止されたことに加え、PPSによる新規電源開発や卸電力取引所における取引量の増加などにより、今後全国規模での競争が本格化することも予想されています。当然当社の離脱需要の増加は避けられないでしょう。安閑としているわけにもいきません。
 山口 その営業戦略は、どのようにお考えでしよう。
 松尾 これまでも強調してきたことです が、これには2つしかありません。1つは価格競争力、もう1つは非価格競争力をつけることです。価格競争力につきましては、ご存知のように昨年1月に5.46%値下げしたのに続き、今年も4月に3.71%値下げしました。また電化空調割引、オール電化割引、契約継続割引、それに高負荷率型電灯料金といった新料金メニューを導入することで実質的な料金値下げとしています。お客さまにもかなり満足いただいていると思っています。
 非価格競争力につきましては、アカウントマネージャーを配置するなどして、お客さまのご相談を受け、問題を解決していくトータルソリューション営業を展開しています。要するに、当社に対するお客さまの満足度を高め、「頼りになる電力会社」として、お客さまから選んでいただけるようになろうというわけです。こうしたお客さまとの信頼関係の確立、維持が自由化の中では特に大事なことだと思います。

新規に25億kWhを創出

 山口 09年度までに03年度対比で25億kWhの新規需要の創出を日指されていますね。
 松尾 その内訳は法人需要で12億kWh、オール電化住宅で13億kWhとしています。今村お客さま本部長(副社長)以下、必死になって取り組んでおり、お陰さまで順調に進んでいます。特に原油高の影響で、自家発から当社の売電に切り替えるお客さまが増えたこともあり、法人需要は今年6月末までに累計で13.4億kWhに達し、すでに目標を突破しました。オール電化住宅につきましても5.3億kWhと、こちらも前倒しで達成できる勢いで伸びています。
 電力会社は設備産業で、固定費比率が高く、当社にしましても8割近くになっています。こうしたコスト構造ですから、需要が伸びなくなったら、たちまち経営が苦しくなってきます。ですから、私は社員に対し需要を創出することこそが我々の存立のポイントになるということを常に言っているわけです。当社は19年間、需要の伸びがマイナスになったことはありません。これを切らすことは絶対に許されません。
 山口 新規事業の取り組みについてはいかがでしょう。
 松尾 当社グループは、厳しい競争を生き抜くため、電気事業ではもちろんですが、電気事業以外の事業におきましても複数の収益基盤を確立し、グループとしての収益力を強化する必要があると考えています。そこで、当社グループでは、経営目標として「電気事業以外のグループ外売上高1000億円増」(09年度、対03年度)、「当社電気事業を除く連結経常利益100億円」(05〜09年度の5カ年平均)ということを掲げています。この経営目標を達成するため、当社グループでは「総合エネルギー事業」「情報通信事業」「環境・リサイクル事業」「生活サービス事業」の4つの事業領域において、グループの経営資源を最大限に活用し、積極的な事業展開を図っており、その中で成功事業モデルとしてさらに力を入れ事業展開すべきものが明確になってきました。
 例えばIPP事業(海外事業)では、メキシコ・トゥクスパン2号、フィリピン・イリハン、ベトナム・フーミーの3プロジェクトは順調に運転を継続中ですし、今年9月に営業連転を開始する予定のトゥクスパン5号の建設も順調に進んでいます。今後も既存プロジェクトの円滑な遂行はもちろん、中国を中心としたアジア地域やメキシコなどでの新規IPP案件の発掘に積極的に取り組んでいく考えです。このIPP事業に限らず、新規事業として成功した事業モデルの展開をこれからも積極的に進めるとともに、新規案件をさらに開発していきたいと思っています。

グループのイメージを確立

 山口 連結決算の時代ですからグループ力をつけることは言うまでもありませんね。

 松尾 言い換えますと、九電というものが単体で見られるのではなく、グループとして見られる時代になったということです。そうであれば、まずは「九電グループ」のイメージをきちっと作り上げる必要があると思います。具体的には、グループ会社の各事業を電気事業を遂行する上で必要な商品・サービスを提供する「電力サポート事業」と、電気事業とは直接関係のない分野の商品・サービスを提供する「一般事業」に分類し、電力サポート事業については「電気事業のコスト削減や基盤整備の確立に寄与する」、また一般事業につきましては「高い収益性を目指す」という役割を担うことになります。それを踏まえ、現在、グループ各社の各事業について現状分析や評価を行っており、電力サポート事業は同業他社をベンチマークとしたコスト削減 を、一般事業は同業他社との競争力の確保による高い収益性を実現するため、経営改善計画などの検討を進めているところです。
 このようなことをやりながら、何となくあいまいなイメージとなっている「九電グルー プ」というものを、どなたが見てもすぐにイメージできるようにしたいと考えています。一種の体系の整理ですね。これが私の基本的な考え方です。
 山口 そういう考え方をべースにして、退任役員の人事措置も見直されるようですね。
 松尾 これまで、グループ会社が退任役員の人事措置上、非常に有効な機能を果たしてきたのは確かです。つまり、グループ会社が退任した役員の受け皿会社になってきたわけですね。しかし、それは付随的な意義であって、受け皿として使いたいから、その会社を残すというのは本筋の考え方ではないと思います。会社の存立というのは、その会社の必要性そのものから起こってくるわけで、退任役員を処遇するための受け皿であってはならないと思います。(グループ会社を)便利だから残したいという気持ちがあるのは間違いありません が、それだとコスト高にもなりますし、いずれ経営破たんしかねません。
 そうなりますと、グループ会社はプロパー社長を育てないといけないことになります。プロパー社長になりますと、グループ会社社員のモラルも上がり、それがひいては九電グループの活性化につながると確信しています。もっともこれには時間がかかりますから、プロパー社長が本格的に誕生してくるには、それ相当の時間が必要かもしれません。

地域密着型経営さらに強化

 山口 最後になりますが、地域との関わりについて伺いたいと思います。九電さんが地域の発展に主導的な役割を果たされているのは言うまでもありません。ところが、自由化によってその役割が多少薄らぐのではないかと懸念する向きもあります。
 松尾 お話のように、「九電はこれまで電力の供給区域が限定されていたから地域と運命共同体の立場だった。それが自由化によって、そういう要素が薄らぐのではないか」とおっしゃる方もいらっしゃいます。考え方としては成り立つと思いますが、ここではっきり申し上げたいのは、その逆だということです。
 自由化以前は、お客さまは否が応でも当社から電気を買わざるを得ませんでした。ところが自由化されましたので、お客さまが電力会社を選べる時代になりました。そうなりますと、私どもはこれまで以上に地域密着型でないと、お客さまから選んでいただけないことになってしまいます。これこそまさに事業活動のベースに捉えるべきものだと考えています。
 地域のお客さまから選ばれるためには、真に地域の共感が得られる必要があると思っています。ご協力することによって、皆さまから当社を本当に評価いただけるものかどうかをこれまで以上に精査して、評価いただけるものであれば、堂々とお金を使っていくという考え方に変えていくつもりです。また電力需要に結びつくと考えられる地域振興策について協力するのは当然のことです。オリンピックの福岡招致は、この考え方に立っており、オリンピックを招致できれば電力需要も増えるだろうという判断に立ち、それで招致に協力するというスタンスを取っているわけです。
 要するに、お金の使い方にメリハリをつけるということですね。
 山口 本日はご多忙の中、ありがとうございました。ますますのご発展とご活躍を期待しています。

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