2005年12月号137ページに掲載

メディカル特集

施設完結医療から
地域完結医療へ

■九電工■CRCグループ■今宿病院■佐々木総研■大法山病院

注目高まる病院連携の広域化 ―地域医療連携協議会(福岡県)

信友浩一
九州大学大学院医学研究院
医療システム学教室教授
PROFILE
 1971年九州大学医学部卒業後、同助手(衛生学)。78年国立療養所近畿中央病院医師(呼吸器内科)、80年ハーバード大学大学院(公衆衛生学)卒業。88年厚生省課長補佐などを経て96年、国内初の医療管理学講座(医局)を九大大学院に開講、教授に就任した。講演会やメディアなどで提唱する「患者主体」「現場主導」が各地で反響を呼び、相次ぎ実現している。
 厚生労働省の医療計画制度見直しに伴って来年4月に予定される診療報酬改定では、病院の機能分担や医療連携を促すような施策が取られる見込み。福岡県では4月に地域医療・介護連携協議会(安井久喬代表=浜の町病院長)が発足、1人の患者の医療をその地域で完結させることを目指し「地域完結医療」の連携ネットワークがスタートした。一連の医療改革の中で地域完結医療がどのような役割を果たしていくのか、九州大学大学院の信友浩一教授に聞いてみた。

地域にバーチャルな総合病院の機能が不可欠

 ■地域完結医療についてさまざまな提言をされていますが、その理由は。
 ―1960年代は栄養が十分に取れず免疫力が弱い時代で、病気による主な死因が結核などの感染症だった。その後、国内経済の高度成長によって所得が上がり食と生活が豊かになると、早死にが減少し平均寿命が伸びていった。代わって、がん、脳卒中、心臓病の3大疾患が台頭しています。つまり、かつての感染症が死ぬか治るかの短期決戦に対して、現代は3大疾患のように、1つの病院では医療が完結しないという病気の常態化に直面しています。
 軽い病気は身近な診療所で治っても、さらに詳しく診断する必要があれば、地域の大病院が受け入れて入院治療に入っていく。これは、地域があたかもバーチャルな総合病院のように機能する医療ネットワーク、患者さんの治癒を地域でもれなくフォローし完結していく体制が必要になってきたということです。
 ■地域医療連携の先駆けとなった福岡市東区医師会の医療情報ネットワーク(98年開始)が、このほど発足した地域医療・介護連携協議会の原形となっているようですね。
 ―東区医師会はかなり前から親睦、交流が盛んで、病院部会で相互訪問が行われるようにもなり、お互いの施設やサービスを理解し合っていました。今でも医師同士が集まって症例検討会が続いています。96年に東区医師会の講演会で「『施設完結医療』ではなく、患者さんが割を食わない『地域完結医療』への転換が時代の要請」と提言しましたが、もともとこうした土壌があったので、同医師会の19の病院、131の医院がすぐに結束して、地域医療完結のネットワークづくりに乗り出されました。これは全国初のモデルケースとして多くのマスコミが取り上げました。
 さらに、福岡市医師会も地域完結医療を推進しておられましたが、なかなか浸透しなかった。前出の東区の先生方は福岡県全体にも連携の広がりが必要と考えられたようで、ここ数年で多くの医療機関が病診連携の窓口として地域連携室(または医療情報室)を設置していたこともあり、連携室を持っている医療機関を中心に福岡都市圏、北九州市、筑豊などへネットワークを拡大したのが地域医療・介護連携協議会です。福岡市中央区にある浜の町病院の安井久喬院長を代表に、86の病院、診療所、介護施設が参加しています。地域完結医療は福岡が先駆けとなってけん引していますが、厚生労働省では06年4月施行に向けた医療計画制度改正案でやっとこの言葉が出てきました。
 連携によって大病院は入院医療に専念し診療所は外来に専念することで、患者さんは割を食わなくなる。病院同士の役割分担も進み、平均在院日数が短くなる。したがって患者さんのコストがかからないようになり、生き残りを図る病院と医療費抑制を進める国の双方で、大きなメリットをもたらします。東区ネットワークでは紹介率が90%を超えている病院も出ています。

地域連携のかなめコーディネーターを養成

 ■その連携で活動の中心になるのがコーディネーターですね。
 ―以前は医師が互いの病院を知らないことが多く、患者さんをどの病院に送ればいいのかよく分からないというのが実態でした。その役割を地域連携室のコーディネーターが担うわけです。現在、ソーシャルワーカーや看護師、事務員などを対象に、ネットワークの総論と神経難病や臓器移植といった各論の2本立てで毎月1回の養成講座を開いており、医療・介護サービスのメニューや医師のレベルなどについても情報共有化を図り、どんな病棟があり、どの病院がどういう特色のある医療を行っているかを知ってもらうようにしています。
 福岡市医師会や福岡県医師会もホームページで、住民向けに医療機関や休日急患診療、医師会員向けには当直情報などを公開しています。中でも先に紹介した東区医師会のサイトは充実した内容になっています。
 このようにさまざまな医療機関が地域完結医療に重点を移すことで、たらい回しされていた患者さんに割を食わせないネットワークができますし、地域の医療資源も最大限に生かせます。この協調・連携に参加しない医療機関は、それ相応の結果責任が問われてくるのではないでしょうか。

患者本位、現場主導による組織化が医療改革に成果

 ■地域完結医療は他の地域でも成果を上げるケースが増えているようですが。
 −中津市民病院(大分県中津市)は、地域の医療機関と役割分担して連携を進め、紹介率が50%を超える成果を出しています。目標を定めて医師や診療科の再配置を行い、医療の過不足を修正していくことで、国立病院時代の赤字を黒字経営に転換して注目を集めました。
 済生会熊本病院など熊本市4病院のクリティカルパスによる脳卒中疾患の医療連携は、日本一と言っていいほど、ち密な医療ネットワークです。病院の経営改革を考える「アドミ塾」を受講された福山市民病院(広島県)の浮田實院長は、地域連携を立ち上げ経営も一気に黒字に転換しました。医療人自らが、担う「責任診療圏」を明確に設定するところから地域完結医療が始まるこの事例は、「福山型」または「浮田型」と呼ばれ評価されています。
 福岡県宗像市では病院同士がITによる医療ネットワークで結ばれ、連携するなど、現場の人たちが地域で完結させる医療をつくり上げる医療革命が、各地で起こっています。
 ■こうした取り組みには、患者さん側に立った医療のあり方という原点があるようですね。
 ―これまでの施設完結医療はドクター主体で進められてきましたが、ご指摘の通り地域完結医療は患者さんが主体です。これからの医療は、患者さんと医師という2つの視点が求められます。私が参加した福岡県医師会の「診療情報共有福岡宣言」(2000年)も患者さん本位の診療情報共有を促す試みです。福岡県下10病院が「身体拘束ゼロ作戦」をうたった「抑制廃止福岡宣言」(98年)もそうです。これらのすべてが、行政に頼らず医療現場からの発想で提言し、自ら実践する「現場主導主義」によって組織化することで、患者さんニーズに応える体制をいち早く築いています。国や行政から動いて改革するやり方では、どうしても限界がありスピードも遅い。
 実は世界一といわれる国民皆健康保険制度は、戦前、福岡県宗像郡(現宗像市)の定礼がモデルとなって誕生しました。権限を国から地方に戻し、地方が医療改革を創りだす時代に入っています。地方分権は必然の流れだといえるでしょう。

地域医療・介護連携協議会代表
安井久喬
(九州大学名誉教授、浜の町病院長)

 医療連携は当然のことだと思っている。江戸時代は医者が1人で医療を完結していたが、近代に入って抗生物質が登場、麻酔技術や診断技術など技術レベルが格段と向上していくにつれ、疾患のテリトリーも拡大し、医師がお互いに協力して治療することがかなめになってきた。
 戦後は施設や医療機器、人員が整い高度治療体制ができて、専門分野ごとに機能分担が行われるようになった。さらに、手術後の平均在院日数が40日程度だったのがここ3年で平均12〜13日に短縮されると同時に、退院後の治療を行う慢性期病院、療養型病院や診療所が必要になった。このように、地域の中で病院同士あるいは病院と診療所が役割分担する地域完結医療は、現代の医療に欠かせなくなってきたといえるだろう。
 実際の連携は、疾患に対してどこの病院にどういう得意分野があるのか、またその患者が地域のどんなロケーションにいるかを把握することで、病院間の連携をスムーズに進めることになる。患者さんが治るか、あるいは診断がついて治療方針が決定したら、また依頼先の病院へ戻っていただくといった「切れ目のない治療」が協議会の目指すところである。
 当院は福岡市中央区にあるが、市外にある離島の壱岐・対馬や前原市方面からも患者さんが来院されるので、医療連携は市町村単位ではなく県単位、医療圏単位でまかなっていくのが妥当。高齢者の医療費が一番高い福岡県だからこそ、病診の機能分化により医療効率を上げる私たちの取り組みは、医療費を削減することになり、大きな意味を持ってくる。
 連携の際、急性期と慢性期の病院の隘路に入る患者が問題化している。当該病院で治療を終えたにもかかわらず入院患者が退院や転院を拒むケースが意外と多い。強行はできないだけに、説得するのに大変な時間と労力を費やすことになる。病院側の努力はもちろん必要だが、そもそも患者さんの理解が不可欠なので、政府には医療費を抑制しようとする医療政策の懇切な説明をお願いしたい。時間がかかればコストもかかり、これは国の医療費抑制政策に逆行することになる。わがままは許されないことを理解してほしい。(談)

地域医療・介護連携協議会発起人
原 寛
(原土井病院理事長)

 このほど発足した地域連携協議会は、福岡市東区医師会の病院部会を源にする医療情報ネットワークがベースとなっている。主に慢性期病院である当院の場合、急性期病院から患者さんを受け入れることが多い。その際に、知らない病院同士でも、こうした連携が図れるようにしなければならない。このち密な連携を東区の病院に呼びかけたのがきっかけで、他に例を見ないネットワークに発展、全国からも注目された。
 各病院には当時から連携の窓口として地域連携室があったが、連携が十分ではなかったし、区域外からも患者さんが来院しており、連携するエリアを広げる必要にも迫られていた。そこで、信友浩一九州大大学院教授から地域連携を図るコーディネーターの養成講座を定期的に開講する提言があり、東区医師会をベースに福岡県内の病院にも呼びかけて連携先を拡大、4月の協議会設立に至った。
 現在の参加は県下86の病院や介護施設にとどまっているが、おそらくもっと広がっていくであろう。医療制度の改革により、連携しないと単独ではうまく運営できないようになってきたからだ。連携の窓口である各病院の地域連携室が、現在は電話やFAXを使ってやりとりしているが、いずれはコンピューターによる情報ネットワーク化を実現したい。
 慢性期の病院で最も問題になるのが終末治療。末期寝たきりの患者さんは本人の遺書や遺言がない限りは、意識がないまま植物人間のような状態になったら延命を図るのかどうか、がんの場合は抗がん剤をどこまで投与するのか、といった極めて切迫した局面にぶち当たる。こうした場合、生命の尊厳と家族の意志とのはざまで、医師と家族がどう対処していくかの判断が難しくなる。コストのかかる末期治療は、国の進める医療費削減政策にとっても大きな障壁となる。財界を含めたさまざまな識者で構成する倫理委員会で、明確な方向性を打ち出すことが大切だと考えている。(談)

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