medical careストレス社会を乗り切るための免疫力の正しい知識
病気の予防または早期回復を左右する条件として注目される免疫力。新聞やテレビなど多くの媒体が取り上げるが、その中身について以外と知らなかったり、誤解していたりもする。正しい免疫力の知識から正常な免疫力を向上する方法までを九州大学医学研究院病態修復内科学(第一内科)の大塚毅講師に聞いた。再構築で免疫学の新領域 横断的研究も着々と進行■人々の健康志向の高まりから免疫(力)の向上が注目されています。まずは免疫(力)について教えて下さい。―免疫という言葉は「疫を免れる」と書きますね。疫とは疫病のこと。かつて疫病とはペストやコレラといった伝染病を指しました。それが1978年にジェンナーが牛痘をもとに天然痘の治療を確立して以降、19世紀はワクチンの開発が進み、「どうやら外から体内に侵入する細菌やウィルスといった感染症に対して体を守る機能があるらしい」ということが分かってきました。 免疫という仕組みを簡単に言えば、外から入ってきた敵を記憶するということです。例えば、おたふく風邪やはしかなどは基本的に一度だけしかかかりません。これは、体内で免疫という仕組みが働いた結果です。現在は、分子生物学やバイオテクノロジーという分野が進歩し、分子一個一個の状況が明確に分かってきました。個々の細胞の性質をさらに分析することを再構築と言いますが、これにより免疫という仕組みをより詳細に説明できるようになり、免疫学の新しい解釈も生まれています。 ■他の病気との関係で、免疫力はどうとらえられますか。 ―これから年末に向けては仕事量が増える、アルコールを飲む機会が増えるなど体を酷使しがちですね。別の表現をすれば体にストレスがかかる時期でもあるわけです。ストレスがたまり食欲減退や不眠など悪循環に陥りやすい時期とも言えるでしょう。人によっては寒さがストレスになるかもしれません。また冬場は空気が乾燥しますが、ウィルスは乾燥に強い特性を持ちます。他方、人の体は鼻やいん頭の粘膜が乾燥しやすくなり抵抗力が落ちる、つまり、免疫の第一線の防御システムが弱くなって病気にかかりやすいという状態になると説明できます。 がん、脳卒中、心筋梗塞に代表されるかつての成人病は、「食習慣、運動習慣、休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が、その発症、振興に関与する疾患群」、生活習慣病と定義されています。生活習慣病の要因とされるものは多くが前述した要因とも重なります。これは免疫学的に見るとか、循環器系から見る、あるいは消化器系から見るなど、医学的な見方の違いによるものです。様々な見解からの研究が進み因果関係が認められれば免疫と生活習慣病との関係も解明されるでしょう。 例えば、「病は気から」「笑う門には福来る」など、単に昔の言葉遊びだったものが、一つひとつの研究の積み重ねで科学的根拠が示されるようになりました。笑いが免疫力を高めることや、良い食事の習慣が、消化器系の働きを活発化することも分かってきています。また、ストレスは精神的なことと体の働きを結びつけて語られますよね。それと同じようにストレスが免疫状態を変化することが指摘されてもいます。生活習慣病は、一般人が身近に分かる病気や症状を指すことが多いですが、それを免疫という観点を交えて表現することが増えてきたことは確かです。例えば、動脈硬化は最近、炎症という観点から語られることがあります。以前は代謝やコレステロールで語られていましたが、血管内で炎症が慢性的に続いている状況が動脈硬化を促進しているという見解です。まだまだ多方面からの解析が必要ですが、この説が病状を説明するのに無理がありません。そういう意味では生活習慣病と免疫(力)との関係が、これからいよいよ本格的に語られるのかもしれません。 体の好不調を自らで判断する指標を持つのが肝要■免疫力が低下する要因とされる睡眠不足や過労、ストレスなどは現代人の生活につき物です。うまく付きあいながら、免疫力の低下を防ぐにはどうすればいいのでしょう。―現代社会で、ストレスと無縁という状況はまず考えられません。ですから、自分は疲れている、または調子がいいということを自分自身で判断できることが非常に大切です。この場合、快眠、快食、快便は、非常に分かりやすい指標となります。この3条件がそろえば、自分は健康体だということがある程度分かります。健康体だと感じられるということは、ストレスを上手く処理できているという状況です。例えば頭が重い、体がだるい、良く眠れないという人が、血液検査で異常がなかったから「あなたは健康です」なんて言われても納得するはずもありません。医師が健康と診察しても、健康体ではないと自覚してしまうのがストレスが溜まる状態と言えるのかもしれません。つまり、自分自身で健康のバロメーターを持ち、体調不良の場合には意識して体調を復元するような努力をすることで、間接的とはいえ免疫力の低下をある程度、防ぐことはできるでしょう。 ■免疫力は高ければ高いほどいいのでしょうか。 ―これは言葉の質の問題があります。まず、正常な免疫力が高まることはマイナスではありません。外部から攻撃するウィルスなどを敵と認知して撃退し、速やかに定常状態に戻れれば何ら問題はないわけです。ただ免疫は性質上、問題のあることが時々あります。つまり、時々敵ではないのに間違って免疫反応を示すケースがあります。これを自己免疫疾患または自己免疫力と言います。本来、働かなくてもいいケースで免疫力が働き体を攻撃するわけですから病的な免疫力です。自己免疫力を正常な免疫力と同義で扱う人もいますが、医学上正しくはありません。 一般に「免疫力を高めることが健康にもいい」と言われるのは、感染症予防および現代人にとって最大の敵とも言えるガン予防の観点からです。免疫力を高めてガン細胞を早い段階で敵として察知して免疫力で抑えようという発想が根底にあります。そこで免疫力は高ければいいという解釈になってきたのではないでしょうか。 ■病的な免疫力の原因として何が考えられますか。個人的な体質も関係あるのでしょうか。 ―個人の体質は大きく関与します。例えば、アトピーやリウマチの素地というのは検査ではっきりと分かります。系統立てて考えて免疫力に問題があるのでは、と考えるケースもあります。病的な免疫力を抑えるためには、例えば、ストロイドという免疫抑制剤のような薬を使用することがありますが、現代医学では病的な免疫力だけを抑制することはできません。正常な免疫力も含めて抑え込んでしまいます。この点が問題になることが多々あります。 笑いでNK細胞を増殖「欲」の減退が黄色信号■免疫の質も強さも個人差があると思います。薬以外で正常な免疫力を高める方法はありますか。―前述したように、例えばストレスを減らし、自分が日々健康であるという状況をできるだけつくっていくということです。近年注目されるのが笑いの NK(ナチュラルキラー)細胞ですね。ガン細胞を攻撃するNK細胞は、笑うことで増殖することが実証されています。他にも快眠や適度な運動も免疫力を高めます。つまり、体にとって気持ちのいい、心地いい状況になれば免疫力が向上すると考えれれば、まず間違いありません。その意味で、体に気持ちいいことを感じる感覚を磨くことは非常に大切なことだと言えます。 ■冬に特に気をつける点はありますか。 ―一つには急激な温度差です。室内と室外だけでなく、例えば、風呂場の脱衣場やトイレなど自宅でも他の部屋との温度差が大きい場所はあります。急激な温度差は、体にとって瞬間的なストレスです。温度差がある場所に移動する場合には一枚上着を羽織る、保温、保湿に注意するという意識を習慣づけることが大切でしょう。 ■ストレスが溜まっていることに本人が気付いていないというケースもあるかと思います。周囲が気付くサインはありますか。 ―確かに早い段階で本人の不調を周囲が気付いてやることは大切です。自分では分かっていてもなかなか言えない人もいるはずですし。また、はっきりと分かる以外でも、例えば、言葉数や表情からも分かります。食欲の減退や良く眠れない、夜中目が覚めるといった睡眠の諸症状もストレスの前兆の場合があります。言い換えれば本能として人間が持つ欲が失せるのはストレスが誘導してきた危険信号かもしれません。精神的ストレスがいくつかの指標を動かすことは分かってきていますから、できるだけストレスをかけない、そういう状況でもうまくリカバーできるようにすることは免疫力を高めることにつながると言えます。 ■CRCサポート ■今宿病院 | |
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