2004年11月号133ページに掲載

お菓子特集

喜び、満足感を与えてくれる

■五十二萬石/如水庵 ■セイカ食品 ■石村萬盛堂 ■ニ鶴堂
■千鳥饅頭総本舗 ■馬場製菓 ■ひよ子 ■風月フーズ
■村岡屋 ■江崎グリコ ■ロッテ商事

 お菓子といえば誰もが好きなもの。真ん中にすると和やかな空気に包まれる。そのお菓子について、作る側のプロを育てる中村調理製菓専門学校の中村哲理事長・校長に語っていただいた。現在の九州のお菓子事情やその魅力とは…。

九州は日本の中でも歴史的にお菓子の先進地

 九州というのはお菓子の世界で見ると非常に面白い地域で、例えば安土桃山時代から江戸時代にかけては、ヨーロッパやアジアとの窓口でした。特に長崎には当時の海外のさまざまなお菓子が入ってきたため、今でもカステラや丸ボーロなどの有名店が長崎には軒を多く連ねています。
 さらにさかのぼって、日本の饅頭のルーツはどこかといえば、諸説ある中で博多とするのが有力説の1つとなっています。これは中国大陸から日本に饅頭が伝わってきて、その際に窓口となったのが、往来が盛んだった博多というものです。ちなみにお菓子とは切っても切れないお茶も、最初に博多に入ってきたとされています。
●中村 哲(なかむら・てつ)
 81年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大手自動車メーカーなどを経て、95年中村調理師専門学校(現中村調理製菓専門学校)・中村国際ホテル専門学校校長。99年学校法人中村専修学園理事長就任、現在に至る。公職に日本菓子教育センター理事など。1953年8月生まれ、福岡市出身。
 このように九州は、日本の中でも歴史的にお菓子の先進地で、九州とお菓子が互いに密接な関係を保ちながら、独自の発展を遂げてきています。
 それでは現在の九州のお菓子はどうかというと、その前に今の日本のお菓子の事情に目を転じてみましょう。ここ10数年の間にヨーロッパをはじめとして洋菓子などのコンクールが大変盛んになってきており、日本からの出場者で優勝する人や上位入賞者が相次いでいます。
 また、その洋菓子の本場ヨーロッパへ修業に行って、高い技術を身に付けて戻ってくる人たちも増えています。その上日本人の感性や味覚は非常に優れていると評価されており、こうしたことから現代の日本の菓子職人のレベルは、世界的でもトップクラスにあると言えます。
 そして素材。日本には世界中からモノが集まってきていて、お菓子の素材も同様です。最高級のチョコレートやバターでも、冷蔵して空輸してくることが簡単にできるようになりました。
 さらに価格の面でも、例えば洋菓子作りに欠かせないリキュールは、昔はウイスキーなどと同じで高くてなかなか手を出すことができませんでしたが、今はその同じリキュールを、安い価格で手に入れることができます。
 片やこだわりの菓子店では、農家と契約して安全で安心、しかもおいしい素材を直接仕入れています。このように素材の点からも、日本は大いに恵まれた環境にあります。
 そうして作られたお菓子を味わう顧客の方はというと、こちらもいい素材で、いい技術で作られたお菓子を食べる機会が増えているので、目にも舌にも磨きがかかり、受け入れる側のレベルもますます高くなっている状況です。
 この豊富でいい素材、それを生かす職人の確かな腕、そして評価する顧客の厳しい目と舌。この3つがそろい、さらに高いレベルを目指しているというのが、今の日本のお菓子の世界です。

増加の一途をたどる菓子職人を目指す生徒

 九州も基本的には、この日本のお菓子の世界の流れと同じで、もちろん優秀な菓子職人もどんどん増えてきています。
 当校は校名の調理・製菓専門学校が表す通り、いわゆるプロの料理人と菓子職人を送り出す学校ですが、実はこの校名は今年から掲げたもので、昨年までは調理師専門学校としていました。
 なぜ変更したかというと、製菓の部門を志す生徒たちが増えたからで、学科構成で言えば4学科の内の半分の2学科、生徒数だと650人の内の200人にまでなりました。いわば名が体を表さなくなったので、こうした実情に合わせて改めることにしました。このように九州でも菓子職人を目指す人たちが増加しており、一流となって各所で活躍しています。
 お菓子の素材では、特に安全で安心、そしておいしいという点で、九州は他の所よりも一段と恵まれています。九州全域、沖縄まで、お菓子では重要な素材となる果物が、バラエティーに富んでおり、しかも新鮮なままふんだんに入手することができます。
 九州にはレベルの高い菓子店がたくさん店を構えていますので、顧客の評価の目も肥えています。海外の有名店なども進出してきていて、それらとも競い合いながら腕を磨いており、九州のお菓子の世界も着実に進展しています。

そこにあってより潤いを与えてくれるお菓子

 これほど人を魅了してやまないお菓子ですが、何がそうさせるのでしょうか。その大きな理由は、お菓子が喜び、満足感を与えてくれるということです。これは医学的に見ても血液中の糖分が上がることによって満たされた気分に包まれます。例えば料理の最後の一品にデザートとして出されると、より一層満足感が広がっていきます。
 私は出張の折の手みやげには、地元のお菓子を持って行くことがほとんどです。焼酎でも他の食品でも、何を持って行っても構わないのですが、どうしてもお菓子の方に手がのびてしまいます。お菓子をきらいな人というのはめったにいないし、やはりお菓子がみんなに一番喜んでいただけます。
 家族の団らんに、知人との談笑の際に、あるいは一人静かに憩いのひと時に、そこにあってより潤いを与えてくれるのがお菓子です。そしてお菓子はアルコールなどとは違って子供からお年寄りまで、男女の別を問わず誰でも楽しむことができ、お菓子を真ん中にすると和やかな空気に包まれます。また、ひな祭り、七五三といった年中行事や人生の節目にも欠かせず、それだけふだんの日本人の生活にも深く浸透しています。

国が豊かになればなるほど高まるお菓子の存在意義

 このお菓子が好きというのは万国共通。視察でヨーロッパやアメリカの学校を見て回りましたが、お菓子の部門でプロを目指す人たちが非常に増えています。それだけ需要も増加しているわけで、あちらでもお菓子人気は加熱している様子です。
 人は食べる事にある程度不自由しなくなると、食に関してそれ以上の満足感を得たいという欲求が強まり、その気持ちが自然とお菓子に向かわせているようです。
 お菓子はそれが特になくとも生きていけるものなので、貧しい国では当然ながら、お菓子の占める割合はごくわずかですし、一方、国が豊かになればなるほど、お菓子の存在意義は高まってくる、というのが現実です。
 また、お菓子は、各国それぞれの食文化とも深く結び付いています。例えばイタリアで料理を食べると、パンチがあってメリハリが効いたものが出てきます。そしてその料理の流れのままデザートを食べるとおいしくいただけるのですが、これが単品でデザートだけ食べると、メリハリが効き過ぎて頭が痛くなるほど甘く、とても食べられた代物ではないものもあります。
 一方日本の料理は穏やか。香辛料もあまり使わないし、塩なども控えめ。こうした食文化だと、自然とお菓子の表情も穏やかなものになります。中国なら中国で食文化に根ざしたお菓子があり、その国の生活・文化とお菓子とは密接につながっています。
 食について今や日本は成熟期に入っており、こうした時代の中ではお菓子の存在意義がますます大きくなることはあっても、小さくなるということはないでしょう。賞味する側としては喜ばしい時代です。

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