2004年2月号140ページに掲載

本格焼酎メーカー各社が取り組む戦略とは

花開く九州の本格焼酎文化 いよいよ第2幕

■雲海酒造
 九州各県の本格焼酎出荷量は、県別で多少の差はあるものの軒並み伸びを示し、焼酎市場は一段と拡大を見せている。こうした動きに対し、新工場建設や増設など大型の設備投資に踏み切り切るところも少なくなく、焼酎メーカーはさらなる需要の掘り起こしを行っていく考えだ。
 本格焼酎の動向、業界が抱える問題点、各蔵元の取り組み、などを追った。


九州各県で順調に出荷量を伸ばす

 九州の本格焼酎(乙類)の勢いが止まらない。今や「焼酎バブル」という声さえ聞こえるほどで、テレビ・新聞・情報誌などのマスメディアに次々に紹介され、異常ともいえるブームになっている。
 02年酒造年度(02年7月−03年6月)の九州各県の出荷量は軒並み前年を上回り、本格焼酎が全国人気になっていることを裏づけた格好だ。(上表)
 なかでも鹿児島県のイモ、黒糖の伸びは目覚ましく、九州7県の中で最大となっている。 同県酒造組合連合会によると鹿児島(110社)の生産量は前年比17.2%増の8万9700キロリットルで過去最高を記録。また27社が生産する奄美群島の黒糖焼酎も、前年比25%増の6900キロリットルに上った。もともと分母が小さいとはいえ、この伸びは驚異的で、生産量の約48%に当たる3300キロリットルが県外出荷であり、いずれ県内出荷を上回るのは間違いない勢いだ。
 このため生産が追いつかず、小正醸造、長島研醸、田苑酒造、、朝日酒造、奄美大島開運酒造など多くのメーカーが出荷調整、小売店や量販店への営業活動を自粛するなどの状況が続いている。
 一方、伸び率が最高だった福岡では、紅乙女酒造が主力の麦焼酎やゴマ焼酎が伸び、前年同期を5%上回っている。また熊本や大分 では小幅な伸びとはいえ前年を上回り、高橋酒造、三和酒類の年間出荷量は5%増だ。
 いずれのメーカーも首都圏や関東以北の伸びが好調と口をそろえ、徐々に北上を続ける本格焼酎が日本全国に浸透するのはそう遠くなさそうだ。こうした背景を日本政策銀行南九州支店、佐藤淳企画調査課長は「本格焼酎の銘柄の多さ、飲み方の多様さなどに加え、一部の“幻の焼酎”の登場でこれまで焼酎に興味のなかった消費者の関心を呼んだ。しかし幻の焼酎はそう簡単には手に入らず、それならば、と飲んだ焼酎の質の高さに驚き焼酎ファンになっていった」と分析する。
 こうした状況下、これまで慎重だった各メーカーが積極的に設備投資に踏み切るケースが続出。鹿児島県のイモ焼酎メーカーの大口酒造協業組合、濱田酒造、白金酒造、大和桜酒造、黒糖焼酎メーカーの奄美大島にしかわ酒造、喜界島酒造などが新工場建設や増設を決定しており、増産体制を図る考えだ。

避けて通れない原料の産地表示

 3度にわたる増税を跳ね返し、長年の懸案事項だった本格焼酎の定義も確立。売り上げは右肩上がりで一見順風に見える業界だが、今後避けて通れないのが原料の産地表示の問題だ。前述した増産体制問題とも絡み、鹿児島産のイモを使っての生産となると、「せいぜい1割が安定した伸びの範ちゅうではないか」(薩摩酒造、鮫島吉廣常務)という声や、「これまで無理をせず着実にやってきたからこそ消費者の心をつかんだ」と多くのメーカートップが口をそろえる。本格焼酎をアピールする絶好のチャンスであるとはいえ、設備投資を危惧する声も聞こえ、原料の調達や販路の開拓など難問は山積しているといえよう。
 一連のBSE問題や大手食品メーカーの偽装が発覚以来、消費者が食品に対し過敏ともいえる反応を示している中、国はトレーサビリティ(原産地表示)を積極的に進め、食品の情報開示は新たな付加価値となっている。その結果、どの食品スーパーでも 、玄界灘のマダイ、熊本産太刀魚、鹿児島産黒豚、青森産ニンニク―というようにきちんと産地表示を行うことで消費者の信頼を勝ち得ている。消費者は多少高くても、原産地のはっきりした安心な品を求めるように変化しているのである。
 本格焼酎の場合、九州でつくられたという点ではこのニーズに合致したといえるが、まだほとんどの銘柄が産地表示を行っていないのが現状だ。
 同じ酒類であるワインを例に上げると、フランスワインはフランスの法律に則して製造されており、当然産地表示がきちんと行われている。もし産地偽証をした場合には相応の罰則が定められており、こうした姿勢がフランスワインを世界の酒に押し上げているのである。ちなみに日本におけるワインは、外国で醸造されたワインを日本でビン詰めしただけで「国産ワイン」と名乗れてしまうあいまいな表現が許されている。唯一、山梨県ワイン酒造組合が同組合による品質検査をパスしたものだけを「山梨県産ブドウ100%使用」との統一マークを貼って販売しているが、これも規定を破ったときの罰則は不明瞭で、あくまで業者のモラルに頼っているのが現状だ。
 こうした中、鹿児島県の知覧、指宿の両酒造組合は加入する16社のメーカーに対し、原料に鹿児島県産サツマイモと水を使用、南薩摩で製造(蒸留)などの基準を満たしたイモ焼酎だけを「南薩摩・本格いも焼酎」と認定する組合の認証マークを添付することを決定、03年12月から出荷を始めた。組合加入のすべてのメーカーが歩調をそろえたことで注目が集まっており、こうした動きは今後ますます活発化 すること も予想される。

外国産原料の使用も止むを得ず

 生産量増加に伴い国内産のイモや黒糖の確保が難しい状況となった現在、中国産の冷凍イモや東南アジアの黒糖を輸入して使用しているメーカーも出ている。すでに麦焼酎が海外産の麦を使い製造していることは周知の事実で、今さら海外産を使うのも止むを得ないことも確かだ。「品切れや品不足を起こし、消費者にご迷惑をおかけすることは、メーカーとして恥ずべき行為」(あるメーカートップ)との声もうなずける。さらに中国冷凍イモを使用する酒造メーカーは、国内での製法にあわせてコガネセンガンを育成。長期保存ができるよう冷凍し、独自に開発した技術を用いて国産イモを使用した場合と同質の商品開発に成功している。国産イモと中国産イモとの味の違いには「まったく変わらない」という声と「違う風土でできたものだから、同じはずがない」と二通りの意見があるのは当然だろう。この新たな問題が今後の焼酎業界にどのような影響を与えるのか、推移を注意深く見守る必要がある。
 以下南九州から北上し、各メーカーの取り組みを紹介する。
〔田苑酒造〕
田苑酒造(鹿児島県樋脇町、本坊幸吉社長)の創業は1890(明治23)年。1世紀以上にわたり焼酎づくりを続けてきた歴史を持つ。昨年7月には田苑栗源酒造から現社名へ変更、社名が変わっても焼酎づくりに掛ける一途さはまったく変わることがない。
 同社の特徴は1次仕込みタンクに音楽振動変換装置「トランスデューサー」を取り付けていることだ。クラシックを波動させることにより、樫樽内の熟成が進みまろやかな逸品へと生まれ変わっていくのである。こうした取り組みにより、主要銘柄の「田苑芋」「田苑麦」「田苑米」をはじめ、02年に発売した「田苑黒」も好調な伸びを見せているという。
 同社の高い技術力を証明するものとして、年1回開かれる鹿児島県本格焼酎鑑評会および熊本国税局主催酒類鑑評会において25回連続「優等賞」を受賞しているメーカーは鹿児島には見当たらない。「いいものを時間をかけてじっくりつくり、じっくり売る」(有川徹常務)。一部の人気銘柄に見られるプレミア現象には目もくれず、あくまで本物をつくり続ける考えだ。
〔山元酒造〕
 九州新幹線の開業(2004年3月)に期待が高まる鹿児島県川内市では、山元酒造が存在感を増している。
 「純粋に、おいしい焼酎作りに専念する」(山元隆功常務)姿勢が、全ブランドに反映しているのだ。例えば「黒蔵の神」。酒蔵には壁や柱などに長く住みつく「蔵付酵母」があるが、「蔵独自の味を醸し出す、守り神のような存在」だ。創業92年目の同社で培養・蒸留された蔵付酵母と黒麹から作られた新商品は「すべての甘味に加えて、オリジナルの旨味」が伝わる。
 このスタンスは「一貫して、昔ながらの手造りを守る」点にも光る。国内産の破砕米をこしきで蒸し、手作業で種麹をつけ、かめ壷に仕込む。この間、使われるのは自社の畑や契約農家で栽培した「おごじょ芋」。仕込みと割り水(希釈水)は、冠嶽山(百次町)の伏流水「長命水」だ。硬度30度弱の丸くふくよかな水質が身上で、タンクローリーで1日に4往復して集水することもある、という。
 川内市は、九州3大河川の一つである川内川がゆったりと流れ、天孫降臨神話に出てくるニニギノミコトを祭る新田神社や染島津義久と豊臣秀吉が和議を結んだ太平寺があるなど、自然と歴史に恵まれた観光名所でもある。街のもつ水と緑、そして文化を五感で味わいながら、黒じょかを傾けるのもまた一興といえる。
  〔濱田酒造〕
 濱田酒造(鹿児島県串木野市)は「創業(明治元年)以来の一大ターニングポイント」(濱田雄一郎社長)に立つ。2003年からサントリーと業務提携。新ブランドを共同開発する一方、全国から海外に及ぶ販路も強化、活用する。
 提携の理由は「焼酎の価値観を共有できると判断した」から。濱田社長は「商品には、均一な規格と品質で大量の生産・消費を繰り返す『工業商品』と、地域の歴史や風土に密着、生活の中で練り上げられる『文化商品』があり、焼酎は後者」との持論をもつ。
 両社は、焼酎の500年間にわたる生活文化を守りながら、次代に受け継ぐ価値を探る。2年間に及ぶ準備期間を経て完成した芋焼酎「黒丸」は女性に好評で、出来立ての「黒丸新酒」はさながら“焼酎のボジョレヌーボー”といったところだ。
 また「原料はすべて国内産」を徹底。芋焼酎ブームが加熱する一方、芋農家が減る中、芋不足が続くが「鹿児島県産芋を使ってこそ、『さつま焼酎』」と、中国輸入の冷凍芋に走る県内事情をけん制する。発酵に使う米も、コストアップ覚悟で国内産を貫き「安心しておいしく飲める品質」を約束する。「海童 祝の赤」の原料水には同県西部の下甑(しもこしき)島のこしき海洋深層水を100%使用。ミネラル分が豊富で、香りも引き立つ逸品が提案されている。
  〔本坊酒造〕
 本坊酒造(鹿児島市、本坊修社長)の創業は1872年。「桜島」「貴匠蔵」「石の蔵から」などのイモ焼酎をはじめ、ワイン、ウイスキーなど幅広く製造している。同社は知覧、津貫、鹿児島のほか宮崎県の小林にも工場を持ち、1次仕込み、2次仕込みから蒸留、貯蔵と各工場の役割が見事に分担されている。
 同社のコンセプトはシンプルで明確だ。新鮮なイモをその日のうちに処理すること。知覧工場では地元の契約農家から運ばれた掘りたてのコガネセンガンをすぐさま製造へ回し、良質な焼酎づくりに励んでいる。「いかに新鮮なイモを使って、イモの個性を引き出すかが第一」(本坊和人専務)と言うように、焼酎づくりの原点ともいうべき姿勢を貫いている。こうした中から生まれたのが「石の蔵から」。樫樽貯蔵した原酒を3年から5年寝かせることでイモの香りと樫樽の香りが渾然一体となり、万人が抵抗なく飲める焼酎が誕生した。しかもアルコール度数を17度に設定してあるため、そのまま割らずに飲むことができ、愛好家や女性に人気の商品となっている。
  〔大口酒造〕
鹿児島県の北部、大口市伊佐郡にある大口酒造協業組合(上田和城代表理事)は、70年に地元の11社の蔵元が集まり設立された。伊佐郡で造られる焼酎は昔から評判が高く、小説家の海音寺潮五郎氏も絶賛したほど。
 同社の主力商品「伊佐錦」「黒伊佐錦」はレギュラー商品として幅広い人気を持ち、特に「黒伊佐錦」は黒麹ブームに火をつけた先駆け的商品だ。同組合は全国的な焼酎ブームで現工場が手狭になったため、隣接地に新工場を建設予定だ。建設場所は市東部に隣接する菱刈町で、用地面積は約4万5000平方メートルとなっている。新工場完成を機に年間7200キロリットルの生産を目指すという。上田代表理事は「これまで生産が追いつかず消費者にご迷惑をおかけすることもあったが、増産体制を整え安定供給を図りたい」と抱負を述べている。
〔小正醸造〕
 小正醸造(鹿児島市、小正芳史社長)の「さつま小鶴」は、「やわらかさの中にコクがある」のキャッチコピーで広く知られる代表銘柄だ。鹿児島県産のコガネセンガンと天然地下水を使用し、伝統の手法で出されたモロミを独自の単式蒸留機で蒸留したものだ。また「さつま小鶴・くろ」は黒麹を使用した逸品。コクがあって甘い、との評判は全国に広がり、売り上げを順調に伸ばしている。
 またレギュラー商品に加え、さまざまな高付加価値商品にも力を入れている。「小鶴 朝掘り仕込み」は契約農家が朝掘ったイモを工場へ直送、新鮮なイモを原料に使用したもの。また有機栽培のイモを使用した「天地水楽」などがある。このほかにも現代美人画の巨匠、鶴田一郎氏が描いたボトルデザインなど豊富なラインナップを揃え、焼酎ファンを喜ばせている。
〔白金酒造〕
 創業1869(明治2)年という鹿児島でも古い歴史を持つ白金酒造。商品には「白金乃露」やイモの皮をすべて取り除いて仕込んだ「姶良」などがある。またすべて手づくりにこだわり、蒸留は木桶蒸留器を使った「石蔵」は同社の杜氏、黒瀬東洋海氏が丹精込めて仕上げた逸品だ。また最近は、俳優で画家でもある片岡鶴太郎氏のデザインによる「龍神蔵」「鶴日和」を地元のコンビニエンス「サンクス」で販売。前年を大きく上回る売り上げを見せている。竹之内雄作専務は「本当にいい焼酎は水9、焼酎1で割ったときも、イモのコクがしっかりと残っている」と自社製品に自信を示す。
 同社は、現工場の生産が追いつかなくなった同社は、現工場近くに新工場建設を計画している。
〔知覧醸造〕
 「 薩摩の小京都」と呼ばれる鹿児島県川辺郡知覧町は薩摩藩士の武家屋敷が並ぶ観光地で、茶の産地としても有名だ。また太平洋戦争の末期には陸軍の特攻基地があったことでも知られ、特攻記念館には多くの千羽鶴や花が手向けられている。
 知覧醸造(鹿児島県川辺郡、森正木社長)は記念館から車で約20分、東シナ海を展望する地にある。主力銘柄は「知覧武家屋敷」「同黒こうじ」。また映画「ホタル」にちなみ「「ほたる」を発売。この製品のラベルは「特攻の母」と言われた鳥濱トメさんの孫である鳥濱明久氏のデザインによるもの。ブルーのボトルに黄色の字で書かれた「ほたる」の文字が印象的だ。同社の製品はいずれも近郊農家が栽培したコガネセンガンを使用。あくまで地元産にこだわっている。森社長は「地元産のイモにこだわり、ていねいに仕上げた焼酎。ぜひ独特の風味を味わっていただきたい」と話している。
〔白露酒造〕
 白露酒造(鹿児島市、岩崎芳太郎社長)は岩崎産業が経営母体で、揖宿郡山川町にある焼酎工場は、本土最南端の佐多岬や太平洋上の竹島、硫黄島などを一望できる小高い丘にそびえている。主要銘柄は「白露」「白露黒」「岩いずみ」「麻友子スイート」「同ドライ」などがあり、いずれも地元の農家が栽培したコガネセンガンを使用。また開聞山麓地下地下数百メートルから湧き出る天然水を仕込み水として使用しているが、この豊富な湧き水も白露酒造のおいしさを支えている。なかでも「麻友子スイート」「同ドライ」は女性を意識してつくったもので、減圧蒸留によりイモ臭が少なくマイルドな味わいに仕上げている。
 また「匠の華」はサツマイモの表層部を1個ずつ丁寧に取り除き、真ん中の旨み成分だけで醸造した、まさにこだわりの逸品で、本格焼酎党から高い人気を得ている。
 こうしたイモブームの追い風に乗り同社の出荷量は前年比30%アップという。
〔田崎酒造〕
 市来町は、7000人余りの人口に6つの酒蔵がひしめく、良水と焼酎の町。ここで、長期貯蔵法と熟成技術で他社をリードするのが田崎酒造だ。
 米焼酎「万夜の夢」は1953年製造の原酒をべースにする。当時主流だった直火蒸留で仕上げ、地下のかめの中でじっくり熟成。720ミリリットル瓶で5000本ほどしかないため、完全注文制となる。 芋焼酎「千夜の夢」は3年以上(1000夜)貯蔵した古酒100%で造る。また、芋焼酎「古酒たなばた」は、原酒を地下タンクにいったん収め、6カ月間貯蔵してからホウロウタンクに移すとい伝統的な手法を守る。
 すべては「長い時間と独自の技術で、コツコツ品出ししてきた」(田崎正人社長)ブランドで、くせがなくまろやかな甘味を放つ。
 こうした姿勢と味わいが、ソムリエ・世界ナンバーワンの田崎真也氏の目に止まったことから、一気に商品力がアップした。東京、大阪など首都圏中心に反響を呼び、2002年からはセブンイレブンが関東圏で「たなばた」を売り出したことから、“全国ネーム”となる素地が固まった。生産量は一挙に2倍になり、「原酒の管理保存とともに、市場への対応にも追われる毎日」という。
〔大和桜酒造〕
 焼酎は「自然と人間の“対話”から生まれる」とは、大和桜酒造(鹿児島県市来町)の若松一紀社長。石造りの室(むろ)で、蒸米に麹菌をまいて繁殖させる。また、蒸した芋と水を加えて、かい棒でかき回しながら発酵させるプロセスには「人間の『五感』が試される」。そして出来あがった「商品」としての焼酎は、一口しただけで、蔵元の考え方から姿勢まで伝わる。「商品(焼酎)は、つくりり手の人間性をそのまま反映する」のだ。まして「ごく当たり前」に全行程で完全手造りを貫く同社なら、なおさらのこと。1本の焼酎に1蔵人の「気」を込めて、世に送り出している。
 特に長期貯蔵の米焼酎(30年)と芋焼酎(25年)をブレンドした「本手造り焼酎 とっておき」こそ、秘蔵の一品。時間と技術のみがはぐくんだキレとコク、そしてふくよかな香りが共存する。左党なら、ネーミング通り、ボトルの中に残る量を惜しみながらチビリチビリ、といきたいものだ。
 なお、大和桜酒造は市来町の土地区画整理事業で移転対象地となったのを機に、今の製造場に隣接して新工場を建設する。製造棟が約330平方メートル、瓶詰め作業棟は約150平方メートルで、あえて、現製造場と同じ木造平屋造りで建てて、04年秋から操業を始める。
〔奄美大島にしかわ酒造〕
 奄美にしかわ酒造(大島郡徳之島町)は海運業、ホテル、タクシー、遊技場などを経営得する西川グループが母体。異業種参入にもかかわらず、ここ数年着実に売り上げを伸ばしている。主力製品の「あじゃ」「必勝まる」に加え最近「あじゃ黒」を発売。黒糖の魅力をさらにアピールしていく考えだ。
 ここ2、3年、首都圏における黒糖焼酎の伸びは目を見張るものがあり、前年比30%アップの伸びを見せているという。このため生産が追いつかず、新工場を新設する計画だ。西川雄一社長は「早くから集荷量を抑えていたので伸び率は30%にとどまったが、建設による製造量拡大で、新規の黒糖ファンを開拓していきたい」と意欲を燃やしている。
〔玄海酒造〕
 「むぎ焼酎発祥の地」と言われている、玄界灘のロマンの島・壱岐。約1700年前の弥生時代、中国の「魏志倭人伝」に一支国として登場、古くから日本とアジア大陸を結ぶ文化交流の要衝として重要な役割を果たしてきた。ランビキによる焼酎の蒸留製法もこの交流の中で伝えられ、16世紀ころには麦を原料に、壱岐独特の焼酎が生み出されたとされている。
 この壱岐を代表する本格焼酎メーカーが玄海酒造(山内賢明社長)である。厳選した原料と壱岐で一番高い山(岳の辻)の伏流水を用い、長年培った醸造技術を駆使して数々の逸品を生み出している。麦の香りの風味と、米麹を使用することによる天然の甘みが特長で、もちろん砂糖などの甘味料は一切使っていない。
 こうした同社の本格焼酎の質の高さをあらためて示したのが、欧州で最も権威ある酒や食品類に関する品評会「モンド・セレクション」2003年度選考会において、「むぎ焼酎壱岐」(美鏡)が最高位である大金賞を受賞したこと。「ヨーロッパのワインやウイスキーなどと同様、壱岐焼酎は地理的表示の産地指定を受け、既に世界の銘酒の仲間入りを果たしているが、この受賞が地元にとっても一段の弾みに」と壱岐酒造協同組合理事長も務める山内社長は、さらなる飛躍を期している。
〔西吉田酒造〕
 「本格焼酎はスローフード」との立場を取るのが西吉田酒造(福岡県筑後市)の吉田元彦常務。
 焼酎は、三里四方で取れる自然の恵みをベースに、蔵元から沸き立つ麹の香りや仕込みの様子などを思い浮かべながら「五感で味わうのが基本」だからだ。
 米、麦など原料の収穫や製造期間も限られるため、ファーストフードのような大量生産・消費はできない。原料の風味を生かしながら、家庭内工業的にコツコツと出荷してきた。
 一方で本格焼酎のアロマ(芳香)は、脳の中枢に働きストレスを和らげ、アルコール以外の微量成分が血液をサラサラにして、血行を良くするなど健康性も注目され、「いやし効果の高いヘルシードリンク」として市場を拡大。  ちょうど、スローフード運動がイタリア・ブラ村の町おこしとして始まり全世界に広まったように「焼酎も、時代の“後押し”を受け、『国民酒』に近づきつある」。
 同社の純米焼酎「和泉の杜」は国産米のみを使い、米ならではの甘味が身上。オンザロックで、くつろぎのひとときを演出できる。
 麦焼酎「つくし」は白ラベルが九州全域、黒ラベルで首都圏で人気があるという。5年以上熟成し原酒をブレンドしており、柔らかな口当たりはさすがだ。
〔鷹正宗〕
 鷹正宗(久留米市、三宅俊樹社長)は、遠く天保年間に筑後の地で創業。筑後川の澄んだ伏流水にも恵まれ、芳醇な酒のいのちを大切に、伝統を重んじながらも常に新しい商品づくりを続けてきている。
 そんな同社が自信を持って世に送り出したのが、穀物を感じる個性豊かな味わいを重視した飲みごたえのある本格焼酎「ばっかい(麦快)」。原料大麦を厳選することはもちろん、蒸留法の違う数種の原酒をブレンドしたもので、まさに「豪快に飲み干し気分壮快。愉快な時間が広がり喉越しは痛快。身も心も全快。旨さは明快。快い時間、いろんな旨さに酔える焼酎」である。
 さらに特別樽長期貯蔵「筑紫の坊主」は、1982年以前に常圧蒸留で造った原酒を木樽で数年、ほうろうタンクで15年の歳月を経たものを絶妙にブレンドし、今までの味わいとは違った発見ができる芳醇な香りを放つ琥珀色の焼酎として完成させた。心ゆくまで味わいたい逸品である。
〔やまと酒造〕
 やまと酒造(佐賀県大和町)が提案する「隆盛と重信」はイモ・米ブレンド焼酎。まず、鹿児島県のイモ焼酎と佐賀県の米焼酎の原酒を、ほぼ1対1の比率で混ぜ合わせ「イモのもつ風味を、米の上品な飲み口に包み込む」(北島恭一社長)。
 さらにこれを「竹炭ろ過」することで、雑味が取れ、香り高いフレーバーだけが残る。孟宗竹を焼いて集めた「竹炭」には抗菌、防湿、調湿などの浄化作用があり、同社は「竹炭ろ過」焼酎のパイオニア酒蔵である。
 ネーミングは、それぞれ鹿児島、佐賀を代表する明治維新の志士、西郷隆盛と大隈重信から。王政復古、大政奉還と揺れた日本に、文字通り生死をかけて臨み、近代的な国民国家の樹立に寄与した2人の夢は「本格焼酎の世界に新しい夜明けを告げる」ブランドとして具現化した、といえる。
  〔老松酒造〕
 老松酒造(大分県日田市)では、「本格焼酎は、固有の付加価値を発信する次元に入った」(森山保徳社長)との実感をもつ。
 もともと九州の地酒だったものが、全国ネームに近づきつつある中では、さらにその地域だけ、その蔵元のみ、の独自性を追究する必要がある。「大都市圏ほど、地方に対する思い入れやあこがれが強い」からだ。同時に、この独自性の追究と競合が焼酎全体のボリュームアップにつながるのも確かで、ここで存在感を増すのが同酒造のブランドだ。
 シティーホテルのレストランや焼酎バーでは、「麹屋伝兵衛」の手触り感のある白系和紙と深紅のキャップが、ローカル感を帯びながら都会的なのだ。居酒屋でも「閻魔(えんま)」の強烈な存在感は色あせない。もちろん、どのブランドも、麦焼酎ならではの、原料の風味に合わせ、口当たりと飲み心地の良さはクリア。都会人に極上の憩いを提供し続けている。
〔宝酒造〕
 甲類・乙類を合わせた焼酎市場でトップシェアの宝酒造が、本格焼酎として取り組んでいるのが、基幹ブランドの「よかいち」(米、麦の2種)と、「本場九州産にこだわった」商品群である。焼酎の持つ多様な価値が評価されるようになった昨今、本場九州各地の蔵元と提携した付加価値商品は、とりわけ高い評価を得ている。
 洞窟かめ貯蔵の本格米焼酎「巖窟王(がんくつおう)」は、米を55%まで磨いた米麹だけを香り酵母を使用して低温で発酵。それを蒸留後に、通気性の良いかめで呼吸させながら、しかも年間を通じて温度変化の少ない大分県の洞窟内でゆっくりと貯蔵、熟成させたもの。芳醇な香りとコクのあるまろやかな口あたりが特長である。
 また、鹿児島の老舗蔵元の小牧醸造と提携して、その販売を手掛けているのが純芋焼酎「一刻者(いっこもん)」。麹にもイモ麹を使ったイモ原料100%の本格焼酎。イモ本来の甘い香りと口あたりのよい上品な味わいが特長である。同じく鹿児島の老舗である神酒造と提携販売しているのが黒麹かめ仕込み・本格芋焼酎「黒甕(くろかめ)」。イモ原料には主にコガネセンガンを、仕込み水には紫尾山系の地下水を使用。「黒麹」を使った濃厚でコクのある味わいと、「カメ仕込み」による幅のある味わいを楽しめる。
 さらに製造数量の制約により、業務用市場ルート限定商品になっているものもある。沖縄県石垣島の高嶺酒造所で造っている本場琉球泡盛「於茂登 炎(おもと ほむら)」、そして長崎県壱岐の猿川伊豆酒造場の壱岐麦焼酎「音波(おとは)」で、いずれもこだわりにこだわった逸品である。
〔高橋酒造〕
 高橋酒造(熊本県人吉市、高橋光宏社長)のある人吉は清流球磨川が流れ、おいしい米を育てる肥沃な盆地がある街として知られる。またこの地での焼酎づくりは相良藩によって保護され、米焼酎文化がしっかりと根を下ろしている地でもある。高橋酒造の主力商品、純米焼酎「白岳」「白岳しろ」は選び抜かれた米と球磨川の水とでつくられ、芳醇な香りとすっきりとした味わいは大きな評判を呼び、地元をはもちろん首都圏でも人気を博している。
 なかでも「白岳しろ」はテレビCMの効果もあり、居酒屋はもちろん、最近ではバーや高級クラブにも置いてある人気商品に成長。「白岳しろ」のおいしい飲み方はずばり「割らず、混ぜず」。「おいしい米とおいしい水でつくられた大自然そのものの奥深い味わいをロックで味わっていただきたい」(久保田一博広報部長)はアピールする。
〔メルシャン〕
 「水にこだわった焼酎をつくりたい」。本格焼酎「白水」の誕生は、そんな造り手の思いから始まった。そこで白羽の矢を立てたのが、阿蘇山に降り注いだ雨が幾重にも重ねられた自然のフィルターを通ってわき出る、日本銘水百選としても名高い白川水源の水。毎分60トンのわき水は驚くほど透明度が高く、豊富に含まれるミネラルがまろやかな味わいの源となっている。
 このすばらしい水を得て目指したのが、豊かな香りとすっきりとした味わいの本格焼酎。そしてこれを実現するためにたどり着いたのが、減圧蒸留でマイルドな味に仕上げることであり、厳選した原料を独自の酵母で低温発酵させることによる、華やかな香りの演出だった。
 こうして誕生した「白水」は、高品質の本格焼酎として評価され、着実にファンを獲得、さらにその後、「こしひかり」「あきたこまち」などの銘柄米を使ったシリーズへと発展し、瞬く間に人気商品となった。また、モンドセレクションでも大金賞、金賞を連続受賞するなど、水へのこだわりから始まった丁寧な焼酎づくりは、今や世界でも高い評価を得るに至っている。
〔紅乙女酒造〕
 「心休まり、明日への活力につながるようなよりよい祥酎の提供目指して努めていきたい」(林田博隆副社長)と紅乙女酒造は創業以来、徹底した本物志向である。約年前、現社長の林田春野さんがウィスキー、ブランデーに並ぶ味と香りを持つ蒸留酒・焼酎をと、取り組みを始め、最後まで納得がいかなかったのが香り。そして思いつく限りの原料を試し、たどり着いたのがゴマで、自信作が生まれるまでに7年の歳月を費やしていた。
 ゴマ祥酎「紅乙女」の繊細な味わいと豊かな香りは女性の感性から生まれたものであり、麦・米で醸す良さに、さまざまな栄養素を含有するゴマを加えたことで、結果的に体にも優しい焼酎となった。また、祥酎としたのも「祥」の字に喜び・めでたさ・幸いといった意味を含んでいることから使用した。「自然の摂理にかなったものを」と添加物は一切使わず、さらに何年もの熟成貯蔵期間を経て世に送り出されている。こうしたこだわりから2003年4月の福岡国税局酒類鑑評会の本格焼酎部門では最高位の大賞を受賞、平成の年代に入ってからだけでも11回目の大賞受賞と、福岡が全国、世界に誇れる銘酒の1つである。
〔田中酒造〕
 全国で初めて菱(ひし)の実を使った焼酎「菱娘」が売り出されたのは1982年。以来、「まろやかな味わいとともにキレが良く、口当たりもさっぱり」(佐賀県蓮池町、田中傳也社長)していることがうけて着実にファンを増やしている。そして何よりその一番の魅力はほのかな菱の香りであり、特にオンザロック、水割りでおいしくいただける。
 原料は世界最高とも言われる菱の実からの良質なでんぷん。大菱(鬼菱・唐菱)50%、米麹33%、米27%のみの無添加で、品質本位をモットーに造られている。この菱の実は地元佐賀産のものでは量が足りないことから、現在は全部を中国浙江省の揚子江流域で栽培しているが、非常にデリケートな植物でもあり無農薬で育てている。そして収穫、殻からの実の取り出し、天日乾燥など、すべて現地での丁寧な手作業で手間ひまをかけた後、ようやく「菱娘」は世に送り出されている。

九州の焼酎から世界のへ飛躍するには

 紹介したように、九州各県のメーカーから個性あふれる本格焼酎が次々と市場へ送り出されている。焼酎を飲む理由は、健康指向から焼酎本来の持つ味わい深さに変わってきており、、今後需要がさらに拡大していくのは間違いない。また海外でも徐々にではあるが焼酎が浸透してきており、世界の「SHOCHU」となる日もそう遠くはないだろう。
 そのため次に何をやるべきか。原料の産地表示もその一つだろう。本格焼酎の定義を確立した今、早急にこれを実現しないと海外進出はおろか、いずれ日本の消費者も離れてしまいかねない重要な問題だ。
 イモ焼酎の本場、鹿児島の中心街では、某団体の宣伝カーが「中国産の冷凍イモを使用しつつ、薩摩焼酎とうたうのは偽装表示であり、消費者への裏切り行為」と抗議を繰り返していたというメーカーの自主判断にゆだねる部分が多い産地表示の問題だが、こういった問題が浮上した以上はメーカーが集まる協議会や各県の酒造組合などがリーダーシップを取り、何らかの対策を講じることが必要だろう。
 九州の本格焼酎が世界の本格焼酎へと飛躍する絶好の機会でる。
【参照・引用文献】「鹿児島の焼酎」欺文堂、「焼酎楽園」金羊社

女性にも人気本格焼酎のある居酒屋

 居酒屋などの飲食店では本格焼酎をどれだけそろえているかが、集客のポイントの一つとなっているようだ。
 福岡市中央区春吉にある「地酒屋ぼんちゃん」はもともと全国の日本酒を置いていた店だが、ここ5、6年前から徐々に焼酎を飲む客が増え、現在は本格焼酎350種類をそろえている。店主の田中清司氏によると、以前は焼酎を頼む女性客はほとんどいなかったが、最近は若い女性が4、5人で訪れ、それぞれが違った銘柄を指名するという。「互いに一口づつ回し飲みし、味の違いを確かめている。若い女性にとっても焼酎はおしゃれな飲み物になっている」と言う。また九州一の繁華街中洲でも焼酎しか置いてないスナックも登場。一定の料金を払えば飲み放題のシステムが受け大繁盛しているという。

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