本格焼酎 座談会
魅力を競う本格焼酎 さらなる需要拡大に期待
本坊 喜一郎氏 本坊酒造会長 薩摩酒造会長 九州本格焼酎協議会会長(左)
中島 勝美氏 雲海酒造社長 焼酎乙類業対策専門委員会副会長 宮崎県観光協会会長 宮崎商工会議所副会頭(中)
堤 正博氏 峰の露酒造社長 焼酎乙類業対策専門委員会需要開発部会長 宮人吉商工会議所副会頭(右)
今、最もマスメディアの注目を集めている本格焼酎。ブームは異常とも思えるほどで、生産が追いつかず、出荷規制している焼酎メーカーも出始めている。九州を代表するメーカートップに、今後の本格焼酎の進むべき方向性、魅力ある焼酎づくりなどについて話し合ってもらった。
本格焼酎ブームの背景にあるもの
−6年前から蔵元を取材してきましたが、状況がかなり変わってきています。ここ2、3年、本格焼酎の認知度がグッと上がり、最近では雑誌やテレビで芸能人や作家が蔵元を訪れてレポートするといったものが多くなり、東北、北海道あたりまで本格焼酎の注目度が上がってきているようです。このブームを契機に本格焼酎を定着させる必要があるではないでしょうか。
本坊 6年前はちょうどWTOが決着したころで、非常に心配されたわけですが、焼酎メーカーの皆さんが危機感を持って取り組まれた成果が如実に現れてきています。危機感が業界の結束と同時にそれぞれの企業が努力し、それが結集されたことがベースにあると思います。それに、いまの社会では健康志向が大きな流れになっており、健康志向ということで本格焼酎が消費者の皆さんに認識していただいたことも大きな支えになっています。さらに、若い女性層の方々に幅広く選ばれるようになり、話題性を呼んでいます。飲むスタイルも自由で、お湯割り、水割り、ロックと、自分のペースで自分の好きなように飲んでいただくことで、なおさら健康にいいということを実感していただいているのではないでしょうか。焼酎自体が持っている健康志向的な特徴に加え、飲み方のスタイルも非常に上手に飲んでいらっしゃるようです。本格焼酎にはそれぞれの原料の持ち味があり、それもまた認められてきているようです。
中島 さすがに3度目の増税の時には非常に危機感がありました。最終的に値上げ幅が250円を超えましたが、自由価格ということで、金額的にはお客さんが受け入れられないような金額ではなかったし、値段も上がったけれどもステータスも上がったということがありました。健康志向では、宮崎医科大学にいた須見先生と美原先生が学術的に数値を上げて説明され、テレビ番組で発表されるなどマスコミに大きく取り上げていただきました。それをしっかり取りいれて焼酎は健康にいいんだということで取り組み、それが実ったと言えます。さらに本格焼酎の定義の制定が非常に大きかったと思います。焼酎には甲類と乙類があり、酒税法では乙類については“しょうちゅう甲類以外のしょうちゅう”としか表現がありませんが、それを本格焼酎という名前を使い、本格焼酎の定義をつくって甲類との差別化を図ろうということで業界が一体となりました。品質のいいイモ、穀類などの原料と麹を発酵させて蒸留したものを本格焼酎としました。アルコール以外に、酵素などのいいエキスが凝縮されていて、それが血栓を溶かすなど健康とつながりがあるということが分かったわけです。それに飲み方が自由ということで、そこに女性が入ってきた。
甲と乙との差をつけたために今まで甲類の強い地盤である関東・東北地区、北海道地区などでも伸びてきました。東京ではまだまだ甲類が強いですが、乙類の機運が上がってきているので、まだ倍の市場が残っているというぐらいの気持ちを忘れずにやりたい。中小メーカーさんの特色のある商品が話題性をつくっていっていますが、清酒の大吟醸のようなことにならないようにしないといけない。自由に値段をつけていくので、お客さまの手の届かないような値段を設定されると、そういうものは最初のうちはいいけれどもいつまでも続かない。そのあたりを注意しながらやっていく必要があると思います。
−皆さんに共通しているのはレギュラー商品プラス高付加価値商品ということで、両方持っているようですね。
中島 長期貯蔵酒は根強い人気があります。私どもは中小メーカーさんにできないようなことに力を入れており、トンネルに毎年貯蔵しています。技術の次には貯蔵しかないですね。貯蔵で品質を上げるということになります。
堤 最初の話に戻りますが、いま焼酎がブームであるという話でしたが、私はブームではないんじゃないか、本来の姿がようやく認められてきつつあるという段階じゃないかなという気がします。日本に本来昔からあった蒸留酒として、イモ焼酎あり、米焼酎あり、ムギ焼酎ありと、いろんな蒸留酒があります。これがいまバラエティーさという形でさらに認識され、そしてそれぞれが個性を持ち、独自の歴史と文化と品質を持って育ってきている。それがいまようやく正しく認識され始めたのではないかという感じを持っています。従来、酒税が安かったために安い酒というイメージが非常にありました。それが増税で高い税金をかけられることによって、安物商品的なイメージがなくなってきたということが、ある意味では正しい評価をさせるひとつの原因になったのではないか。増税の時に業界がなくなるのではないかというぐらいの危機感があったのですが、それが逆のプラスイメージに変わったということが大きいと思います。それに最近の健康志向があります。外国から来るいろんな蒸留酒その他との差別化をするためにいろんな加工技術が抑えられてきました。だからいっさい加工しない、純粋な形で生き延びてきた本格焼酎が、逆に健康志向の中で高い評価を受けるというようなことが起こってきています。
私はいま需要開発部会長をしており、各地で焼酎フェスタとか焼酎講座を開き、アピールしていますが、非常に反応が良くなりました。ただ、まだ正しい認識がされているということではなく、され始めたという気がします。だから、これからも正しい認識に基づいて訴え、しかも私たちの業界が目先にとらわれず、今まで持っていた本質的な動きをそのまま継続して伸びていけば、これはブームではなくて、正しい本格焼酎の認識が国民全体に浸透していく段階だという気がしています。
米焼酎についてですが、私自身はもともと焼酎は米焼酎だったと思っています。なぜかというと、日本には清酒があり、お米から造る酒の文化があります。それに蒸留技術が入ってきてできたのが焼酎だと私は思っています。これにはいろいろ異論があるかもしれません。それはともかく、いままでムギ、ソバ、イモの焼酎ブームがありますが、まだ米焼酎のブームがないんですね。本来は米焼酎だったが、米が江戸時代あたりでもなかなか庶民の口に入らないということで、ある程度の代替品がつくられてきた。ところが、その高かった米がどちらかというと米余りとかでイメージ低下し、逆にイモが焼きいも用などとして値段が上がってくるということでイモ自身のイメージが上がってきたし、ムギやソバも健康にいいといったことでイメージが高くなった。
これから米焼酎がどのようにして伸びていくのか私たち自身では分かりませんが、できたら一度くらい米焼酎のブームが起きないかなという気がしないでもありません。ただそうなった時に、従来から造られてきた米焼酎ではなくて、清酒屋さんが造られる米焼酎が出てくるとすればドッと出てくるのかなという感じがして、従来の歴史的な造り方とは少し違う形にならなければいいなといった懸念が多少あります。
女性層の焼酎ファンをさらに拡大
―熊本は米がいっぱいとれて米焼酎、鹿児島はイモやサトウキビがとれるのでイモ焼酎に黒糖焼酎、宮崎もソバ焼酎にイモ焼酎と、本格焼酎は地域性豊かな酒だと思います。だから最近は焼酎専門の居酒屋やバーができて、うちは300種類置いていますとか400種類置いていますということで、焼酎がお客さんを呼び寄せる目玉になっているようです。
中島 今年、ソバ焼酎は30周年になります。売れた要因を考えると、ほかの焼酎よりも高かったけれどもソバは健康にいいということがあったようで、いまの本格焼酎ブームとぴったり合っているんです。当時のソバ焼酎といまのソバ焼酎を飲んでみて、技術の進歩により味わいに違いが出てきている。もう一度ソバ焼酎を飲んでもらおうという企画を考えています。うちの場合はメーンに雲海という銘柄があり、ほかにいろいろ造っています。それが各メーカー出していますから何がどこのか分からないくらいですね。
本坊 ほかの酒と比べると消費者の方々の間で本格焼酎が広く認識されてからまだ新しいわけです。どちらかというと、平成になってウルグアイ・ラウンドで増税になった初めくらいからゆっくり関心が出てきたような感じがします。ウルグアイ・ラウンドが始まる前の酒税と比べると全然違いますが、それに伴って価値観まで増してきたような気がします。いまはレギュラーな製品だと清酒と全く変わらない価格帯で、レギュラーなワインと比べてもちょうど同じくらいの価格帯です。清酒にしても本格焼酎にしても、あるいはワインにしても同じ価格帯の市場になっているので、昔のような安い酒、高い酒といった格差といったものはありません。だから自分が好きなものを選ぶ、その中に本格焼酎も選ばれるということになっています。全く価格ではなく、自由に選んでいただいている中での焼酎だということのようです。そういう意味で本格焼酎について認識が深まればまだまだ伸びますよということのようです。
堤 本格焼酎の世界に女性が非常に入ってきています。私は需要開発の部会長をし始めて5年目になりますが、毎年、国際食品見本市に出しています。最初のころは若い女性の方が来られて、試飲してみませんかと勧めても、私は焼酎は飲みませんというような感触でした。いまは違います。若い女性の方がパッと来て、あれ試飲できるか、これ試飲できるかと聞いてきて、それを飲ませてくれという形で積極的に来られます。様変わりです。需要開発委員会で焼酎にこだわっている東京の店をリストアップし、全部調査してもらいました。そうしたら、そういうお店は非常におしゃれなお店で、客単価も高くて、女性の多い店だそうです。そういうお店で焼酎にこだわって商売をして、非常にうまくいっている。それも平成の11年ごろからで、ほとんどが12年、13年ごろから始められた、あるいは新たに切り替えられたという店が多いということです。本当に数年前からそういう形で急激に女性の本格焼酎に対する感覚がすっかり変わってきたということを肌身で感じます。
本坊 女性の方は興味を持たれると熱心ですね。いろんな商品の中でも女性の方々の影響というのは市場を引っ張っていかれるようです。蔵に入って一緒に作業をしたいという方も随分増えてきています。
中島 蔵見学は観光につながっています。ただ見るだけでなく、自分もカイの1本でも持ってみたいという傾向が強くなってきているようです。当社の鹿児島工場でも手造り蔵が別にありますが、手造り蔵の方が人気がいい。大きな工場はただタンクがあるだけですが、手造り蔵だと、麹室、かめ仕込み、木桶蒸留と焼酎づくりの過程が一目瞭然なのでそっちの方が人気がいいようです。
堤 うちの蔵も20数年前に工場を造り替えましたが、その時に見学ができるようにしました。いつもオープンにしており、別に観光施設ということでやっているのではないのですが、最近では年間5万人以上の方が見学に来られます。観光バスが結構入ってきて、皆さん、興味を持たれているようです。
本坊 地域性がありますし、それぞれの蔵が伝統に支えられてきているし、かなり地域性と文化性を兼ね備えた商品が本格焼酎です。これからはだんだん自由化傾向が出てきて、酒類総合メーカーといった方々が参入してくる中で、われわれとしては地域性、文化性を生かしたものが本格焼酎本来の姿だということで、単なる量を求める大手とは違った形で進めていかなくてはいけないだろうと思います。それだけの価値観のある商品を出すということが大切です。
観光や農業とも結びついている本格焼酎
−観光と地域性という話が出ましたが、これだけ焼酎の蔵は注目を浴びているわけですから、蔵元の連携というか、各蔵元めぐりとかも観光面で焼酎の蔵というのは生かされていいのではないかと思います。それに、地域でできた農産物を使っているので農業とのかかわりも非常に高い産業ですよね。
堤 いまは神社仏閣を見るといった観光に興味を持たれなくなってきたということで、いままで見たことのない焼酎蔵に行ってみたいといって来られる方が多くなってきています。
中島 私たちも流通の第一線の方をお招きしています。これが一番早いですね。一回行った蔵には愛着がわくということで、これが宣伝として一番早い。何か企画してそういう人たちを少しでも増やしていく必要があるようです。
本坊 われわれ焼酎業界は農業に直接関係があります。サツマイモの作付けそのものは10年ほど前からみても随分減っています。ほかの食品みたいに今売れるからすぐ増やすというわけにいかないので、どんなに短くても1年かかるわけです。そういう意味ではイモ作農家との結びつきが大事です。鹿児島県の場合、昨年11月に初めて、県の商工観光や農政部局、農業試験場、工技センターと一緒になり、耕作農家、私ども焼酎メーカーが一堂に集まり、サツマイモ生産を考える会合を開きました。そういう会が中心になり、回を重ねるごとにしっかりした焼酎用原料イモの供給の仕組みを打ち立てていきたいと考えています。それぞれの立場でやろうという気持ちになっているので、これを生かしていきたいなと思います。
中島 以前は5月ごろに農協さんと買い上げについて相談していましたが、いまは12月ごろからやらないといけないようになってきています。
堤 米焼酎の場合はそういう不自由はありません。昔、食管制が厳しくて自由に米を売り買いすることがなかなかできなかったですが、最近は比較的自由になってきています。わが社では、各地の米で造っていますが、佐賀県、福岡県ぐらいまでは水を汲みに行き、そこの米と水で焼酎を造るといったことをやっています。最近では岩手県の米で焼酎を造っています。そうするとそこの地域おこしにもなるわけです。米焼酎だからこそできることでしょう。それと、わが社の技術は100年蓄積されていますが、幸か不幸か爆発的に売れたことがない。だからある意味での技術的な蓄積とか、古酒もたくさん持っているので、いろんなことがこれからできてくるだろうと思っています。基本的な部分を侵してはならないが、それ以上の部分で多様化ができてくる気がします。
原料の産地表示にどう取り組むか
―これだけ注目されている焼酎業界ですから、今後の問題として、産地表示の問題も考えていい時期にきているのではないでしょうか。消費者は食品の産地に敏感になってきています。
本坊 いま原料表示に消費者が一番関心があるので、ここで正しい理解をしてもらい、消費者に分かってもらうことが大切ですね。私のところでは立地条件に恵まれているのでそういう表示をはっきりさせていますが、全体的にもそういうことになっていくのではないでしょうか。
堤 本格焼酎は表示問題を非常に厳格にしています。自主基準をつくって、それを公取委に認めていただいています。だから原料の表示もはっきりときちっとした形で書くということで頑張っています。甲類焼酎業界にはそういう厳しい表示義務がありません。そのへんとの関係がどうなるかという問題があります。それに外国から安いアルコールが大量に入ってきています。伝統的な造りの本格焼酎とそういうものとの見境がつかなくなってしまうというのが一番怖いことだと思います。一般にお飲みになる方は細かい内容表示までご覧にならない。全体的なイメージで飲まれるケースが多いので、そのところを理解していただこうという努力を私たちはしていかなくてはならないと思っています。手作りで造っている世界と、アルコールを輸入して薄めたり、あるいはちょっと混ぜただけの世界と一緒にされたらたまらないというのが本音です。いま外国で本格焼酎が造られ始めています。台湾や中国などで大手メーカーが始めているようですが、そういうものについては原産国表示をきちっとさせることが必要です。
本格焼酎自身が一つのジャンルとしてきちっと確立されて、そういう表示問題をきちんとした形で一般の愛飲家の人たちが正しく理解していただくような世界をつくっていかないといけません。そうしないと、また一過性のものとして落ちていくことになりかねない。そこを守るためには歴史と文化と伝統があって、造りがきちっとしている世界をはみ出さない、あるいは外からも入り込めない世界をきちっとつくっていく必要があります。あいまいのままにしておくと元の木阿弥になりかねません。
中島 私たちは常にお客さまの目線でやらないといけないということだと思います。甲類か乙類か、甲類と乙類を混ぜたものかといった、お客さまの目線に合わせて、お客さまが選別できるようにメーカーとしては整理しなくてはいけない。韓国でも中国でも本格焼酎の輸入が始まっています。日本の本格焼酎も世界の焼酎になりつつあるので、そういう点では表示をしっかりしていくべきです。海外に出して説明ができないようではいけません。
―これからもおいしい本格焼酎を期待しています。今日はありがとうございました。
|