地場密着で親しまれるお菓子和菓子とお茶の世界では「11月8日の立冬を『お正月』」と呼ぶ。和菓子の原材料である五穀類が収穫期を迎える一方、緑茶も旬。炉を開いて、茶壺の新茶が「口切り」される時機だからだ。香ばしい和菓子には、熱い新茶が実によく合う。洋菓子でも、デザート、ケーキなどこれからのパーティー、クリスマスシーズンで楽しい主役を勤めること受け合いだ。そこで、今回は「お菓子」を取り巻く世界に注目。誌上に、いま、これからの“甘い話”を展開してみた。「可処分時間」に向けた“生活習慣食”として(1)長引く平成デフレ不況と(2)少子高齢化、そして(3)流通構造の変化。お菓子の世界には、3つの潮流が取り巻いている。個人消費が振るわない中、購買単価が下落する点は、全産業界共通の課題だが、その打開策として大手のお菓子メーカーは「『可処分時間』のマーケティングが望まれる」と読む。 1日の生活時間の中で、仕事や勉強などから開放された「自己裁量で自由に過ごせる瞬間に、どう切り込むか、がテーマになる」(江崎グリコ九州統括支店)わけだが、ここでは自社ブランドのライバルは必ずしも同業他社だけではない。小中高生をターゲットとした商品なら「携帯電話やテレビゲームが“本命”かも知れない」と続く。その合間をぬって「可処分時間」内の”習慣食”としてお菓子を提案する視座がある。
“健康食品”化から他食材との関連販売お菓子の機能や効果を訴求する展開も際立つ。スプーンに絡みつくほどの粘りが出て、もちもちとした食感が新鮮なアイスクリームや、ニンニクなど食べた後の口内をフレッシュに保ち、咀嚼(そしゃく、かみ続けること)効果による、だ液の分泌(ぶんぴつ)が抗菌力や免疫調節作用があり、虫歯菌自体の繁殖抑制効果があるといわれているキシリトールを甘味料にした「虫歯になりにくいガム」が評判を呼ぶ。チョコレートに含まれるポリフェノールは悪玉コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化の予防効果が期待できる。
スーパーやコンビニエンスストアに流通するお菓子は、生活必需品などの買い物のついでに買う傾向が強く「店内の陳列手法が死生線」だ。秋口の行楽シーンや年末年始のクリスマスやパーティーなどの演出もリアルで多彩。夏場はカレー、冬にはパン、ワインなどお菓子と相性のいい食材との関連販売(クロスマーチャンダイジング)も強化する。特にレジスター付近ではキャラメル、キャンディなどアイテム数を増やすことで、料金支払い待ちのユーザーに、選択の幅を広げ衝動買いの機会を高める。 こうして流通市場に存在感を示す一方、OL向けにオフィスユースのスナック、ビスケットなど開発する試みもある。職場の常備薬ならぬ「常備食」として、お菓子が重宝されているようだ。 歴史と風土が培った味で地元を深耕し市場を開く九州各県のお菓子メーカーは、歴史と風土に育てられた名菓が武器。おみやげ1つにも、贈る人から受け取る人へ、さまざまな気持ちが行き交う。鶴乃子(石村萬盛堂)の卵を模したパッケージは創業(明治年)以来、時間の中で磨かれてきた。手にした瞬間に、ふんわりあったかみが伝わるデザインで「あのひとに博多をもっていこう」と呼びかけている。 ショップ展開では「地場を深く掘り下げながら、市場の拡大を狙う」(さかえ屋)動きが一般化している。「お菓子には、時代の中で変えてはならない点と、次代に合わせて変えるべき点がある」。 地域の味覚に添ってブランドを深化させる一方、交通事情や周辺環境など日々、姿を変える町に向け、店作りも進化させている。 鹿児島県では、九州新幹線鹿児島ルートの完成(2004年3月に新八代駅〜西鹿児島駅間)が待ち遠しいところ。 「ボンタンアメ」(セイカ食品)はポケット菓子のロングセラー(発売77周年)。どこか懐かしさを感じさせる箱と南国の風味は不滅の認知率をキープする。さあ、以下ではお菓子の魅力と未来像に迫ってみる。 〈如水庵〉最高峰のお菓子づくりで世界一の老舗に天正15(1587)年創業、菓子メーカーとしては日本で3番目に古い歴史を持つとされている如水庵(福岡市)。しかし森恍次郎社長は「それだけでは何にもならないので、この社歴に恥じない、最高峰のお菓子づくりを目指し、風格と品格ある世界一の老舗に」なる事を目標に掲げている。そのため「価格や品ぞろえで他社と競争するつもりはなく、あくまでも顧客本位に立った上での、品質と技術を追求していく」考えである。 昨年の第24回全国菓子大博覧会では、発売以来25年余りにわたって幅広い人気を集めている「筑紫もち」が、最高位賞である名誉総裁賞を受賞、そのレベルの高さを実証した。同社ならではの素材や製法に対するこだわりは、この「筑紫もち」も同様で、もちの原料は佐賀筑紫平野ヒヨクもちと阿蘇白水村産の陸稲、それに富山県産の水稲(こがねもち)をブレンドして製粉し、蒸し練ったもの。黄な粉は琵琶湖のほとりで栽培されている大豆を原料とした京黄な粉を使用。そして黒蜜は、当初沖縄県の波照間島で産される黒砂糖を使用していたのを、台風の影響などで安定供給できないことから、全世界から取り寄せた黒砂糖を吟味、勝るとも劣らないタイ産のものを使用している。9月1日から11月下旬まで販売している「嘉喜ようかん」も、季節感あふれるこだわりの逸品。極上といわれる長野県「市田柿」の干し柿と高品の富有柿を餡に練り、自然の甘さを大切にしたようかんを作り上げた。「常に最高のものを目指して」とその情熱は増すばかりである。 〈セイカ食品〉ロングセラーを続ける「ボンタンアメ」セイカ食品(鹿児島市、玉川哲生社長)の人気商品「ボンタンアメ」が初めて発売されたのは大正15(1926)年。日本中の誰もが一度は口にしたことがあるロングセラー商品 である。クラシカルなパッケージはどこか懐かしさを感じさせ、南国の太陽を思いっきり浴びて育ったボンタンの皮から取った香りを加えた「ボンタンアメ」は、口の中でボンタンの甘酸っ ぱさがほのかに香るため、子どもからお年寄りまで幅広い人気を獲得。その人気は親から子へ、そして子から孫へと何代にも渡って受け継がれている。 「ボンタンアメ」のもう一つの人気は小さくポケットに入るため、手軽に食べられる点にある。現在でもスーパーや駅売店では定番菓子となっており、また鹿児島観光の土産品としても重宝されている。 同社ではほかにも「兵六餅」「さつまいもキャラメル」など鹿児島独特のヒット商品を生みだしているが、鹿児島に昭和初期から伝わる氷菓「氷白熊」を「南国白くま」とネーミング、流通菓子として30年以上にわたり販売している。シャリシャリの氷に練乳をたっぷりとかけ、フルーツをトッピングした「南国白くま」は夏の風物詩として鹿児島では定番の氷菓子となっている。玉川浩一郎専務は「菓子作りには奇をてらわず、まじめに取り組んできた。今後もこの企業姿勢は変わることはなく、お客様に安心して食べていただける菓子を提供したい」とおう盛な意欲を見せている。 〈福砂屋〉わが子を慈しむようにひとつひとつに手間カステラのしっとりとしたおいしさを決めるのは、ひとえに卵の泡立てにかかっている。この泡立てには、手間のかかる別立法とミキサーを使う共立法があり、福砂屋はかねてより独自に別立法を確立し、手立ての泡の良さから生まれる、ふっくらとしたカステラができ上がっている。また、焼き上げてからは、一昼夜熟成させ、さらに甘みとコクを引き出していく。そしてその後の厳しい検査を経て、製品として初めて顧客の前にお目見えしている。 古来長崎カステラの特長の1つは、カステラの底の方を口にしたときに感じる、双目(ザラメ)糖の細やかになった一粒一粒のシャリッとした感触。これも鍛練を重ねて得た、手づくりならではの製法から生まれるもので、決して量産はできないが、この長崎カステラ独特の感触、懐かしい風味を、福砂屋だけが守り続けている。 〈石村萬盛堂〉もらった人のこころを和ませてくれるお菓子鶴乃子のまあるい箱をそっとなでてみると、手のひらにやさしくなじむ、自然なふくらみがあることに気付く。石村萬盛堂(福岡市、石村善悟社長)の創業者石村善太郎は、「競争はするな勉強をせよ。人が角いものを作ればこちらは丸いものを作れ」とよく言い、人と争わず、共生しようとするこころを持つこと、そして人の真似をせず独創的な菓子づくりをする、を信条としていた。その精神から生まれたのが鶴乃子であり、鶴乃子を入れる卵型の箱だった。 初代は、隠居してからも「鶴乃子の箱だけは私が作るばい」と、柔道の稽古着を仕事着に、毎日一つ一つていねいに紙を張り、茶碗の底を使ってあのやさしい丸みを出していた。その数は、1日に200〜300箱にもなったそうだ。 「花持ちし人よりよくる小路かな」。しっかりとした自信を持った人は、自分から人に道を譲りつつ前進するものだ。確固たる実力を備えながら、謙虚でありなさい、という意味である。 この教えもまた、鶴乃子とともに初代から先代、現社長に受け継がれ、90年のときを超えて今に伝えられている。「よろしく」、「ごめんなさい」、「たのしかった」。おみやげにはいろんな思いが込められるが、鶴乃子はきっと、もらった人のこころをふっと和ませてくれる。角のない、丸い気持ちがずっと込められてきたお菓子だから。 味だけでは語れない歴史がある。ふんわり、おいしい。博多銘菓鶴乃子。創業以来、素材を吟味し続けた石村萬盛堂自慢のお菓子である。 〈二鶴堂〉ブランド作りに捧げる情熱がメーカー、売店間に「好循環」二鶴堂(福岡市)は「拠点特化と地場重視の戦略」(橋本由紀子社長)で、“第2の定番”を築きつつある。「博多ぽてと」を福岡、佐賀県など北部九州の空港や駅売店に集中して展開。1日当たり平均販売量(約1万個)は、発売初年度(1997年)の2倍をマークしており、同社の売上高の4割を占める、「博多の女(ひと)」の脇を固める勢いだ。 「素材の風味を生かしながら、前面に出ない甘みを求めた」ため、原料のミックス配分には1年を費やした。実際、ぽてとの素朴でほっこりとした舌触りは九州人だけでなく、東京、関西など都市圏からもファンを獲得。光沢を放つショッキングイエローの包装紙は「店頭での“主張”も明快」で学生からビジネスマンまで、幅広くアピールしている。もちろん販売効率の高い商材は、売店側からも大歓迎。地場産素材を厳選し、ブランド作りに丹精込める同社の姿勢が、販売スタッフを動かし、お菓子メーカーと売店双方に「好ましい循環を生んでいる」ようだ。 〈千鳥屋ファクトリー〉伝統的ドイツ菓子「ドレスナーストーレン」が好評「千鳥饅頭」があまりにも有名な千鳥屋ファクトリー(福岡市、原田光博社長)だが、一方で吟味を重ねた原料に伝統の技を生かしながら、時代にマッチしたさまざまなお菓子を送り出している。 例年10月から翌1月まで、3カ月間の期間限定で製造・販売している「ドレスナーストーレン」もその1つ。ドイツを代表する伝統的なお菓子で、製造する際には同国で決められた調合があり、天然のバターを必ず使用し、フルーツ50%、アーモンドペースト10%が入っていなければ、ストーレンとして認められない。これを同社では独自の製法を取り入れつつ製造、「乾燥させたフルーツや木の実をふんだんに使い、できたものはそのまま1カ月以上寝かせて熟成させている。おかげで年々伸びており、今年は30%の増産を計画」(原田光博社長)と好評。 また、9月12日にオープンした早良区の有田店で発売以来、「飛ぶように売れている」のが「ロールケーキ」。ストロベリー、ブルーベリー、メイプルなど、吟味厳選した良質の素材を生かして、風味豊かな味わいと、生クリームのしっとりとした、ふんわり柔らかな食感のロールケーキに仕上げた。「今夏は長雨の影響もあり、全般的に好調だったので、この勢いのままクリスマス、バレンタインの繁忙期に向かっていきたい」とするが、こうして好調なのも、同社のお菓子づくりに対するこだわり、情熱があって故のものである。 〈馬場製菓〉新幹線開通を見据え鹿児島産菓子をアピール鹿児島県上屋久町に本社を置く馬場製菓は、屋久島のポンカンを餡にした「ポンカン最中」、一吉 紫いもを原料にした「薩摩きんつば」や「ハローキティーのかるかん」などを次々にヒットさせ、 すっかり甘党を魅了している。同社の菓子は九州をはじめ和菓子の本場、京都でも高い評価を得、京都伊勢丹の菓子コーナーでも人気商品となっているほど。 こうした高い評価を得ているのも、同社の菓子作りに対する徹底した姿勢があればこそ。同社が企業理念に掲げる「農菓発想」とは、地元の農作物を原料とし、それを菓子にすることで、農家との共存、協栄を図る、というものだ。馬場社長は「あくまで鹿児島産にこだわるのも故郷に対する愛着。農家も菓子屋も、地域に貢献してこそ、菓子の未来がある」と熱い思いを語る。 また同社は、来年3月の九州新幹線開通を見据え、鹿児島でしか食べられない菓子をアピールしていく考えだ。新製品の「紫いも福」は一吉紫いもで作った餡とあずき餡の2つを大福の中に入れ、2種類の味が楽しめる逸品。すでに地元の百貨店、山形屋で発売中だが、おいしさが評判を呼び、毎日完売状態が続くほどの人気商品となっている。馬場社長は「新幹線開通は鹿児島にとって大きなチャンスとなる。他県の方に、鹿児島でとれた原料を使った薩摩ならではの和菓子を食べていただきたい」と話している。 〈ひよ子〉地鶏玉子を使用した「丸ぼうろ」を新発売昨年、「名菓ひよ子」が誕生90年を迎えたひよ子(福岡市、石坂博史社長)では現在、商品、店舗、営業展開など、あらゆる面にわたって見直しを行っている。「ここでもう一度原点に戻って、これまでのあり方を見つめ直し、新たに再構築していく」(中村憲治・取締役経営企画室室長)という考えからで、商品についてもデザインやパッケージまで含めて、リニューアルを進めている。 そして同社がこの見直しをする中で重視しているのが素材。「安心して食べていただくというのはもちろんだが、よりいいものを追求」する姿勢である。こうした一環で10月1日からは「丸ぼうろ」をさらにグレードアップして新発売、素材に地鶏玉子をぜいたくに使い、風味豊かに焼き上げた。しかも価格は従来の1枚65円のまま。他に包装や箱も新しくしており、まさに内外ともに生まれ変わった。同社では既にどら焼きやカステラにも、地鶏玉子を取り入れて好評を博しており、今回も人気を呼びそうである。 <リード> 〈風月フーズ〉店内工房できたての「浜シュー」に人気7月には西鉄福岡駅のコンコース2階に同駅2店目となる「バンテルン」を出店、中2階の同店と共に電車の利用客に好評で「求めやすさ」を打ち出している。さらに、福岡空港ターミナルビルの同店をリニューアルするなど、さまざまなニーズをとらえ店舗形態に変化をつけている。商品開発についても、積極的に研究と検討を重ねているのが同社の強みかもしれない。 〈さかえ屋〉“一人十色”市場で「地域一番店」への布石を打つすでに、素材の品質や製造技術などは各お菓子メーカー間で、ある程度の水準まで達しているため、「お菓子の持ち味であるおいしさや楽しさ、そしてやすらぎなどの効用をどう演出するか、がこれからカギになる」と読む。 ここを軸に、同社では福岡県下の「さかえ屋ショップ」(114店)の見直しを進める。既存店をリニューアルすると同時に、拠点都市ごとにアンテナショップを導入。それも「都市の性格や文化、そしてお菓子のし好性に密着した店作りを目指す」ため、基本的に一店舗ごとにまったく異なる概観デザインや商品レイアウトになる、という。 限りなく「個別のし好の変化」を追うこと自体は、経営上の効率面、合理性からは矛盾する展開だが、「全エリアで『地域一番店』の地歩を固める上に不可欠な布石」と判断した。さっそく10月中旬、北九州市にオープンした「メゾン・ド・フレ」(敷地面積100坪)では、フランス石窯パン森ん子はじめ、新コンセプトのブランドが勢ぞろいしている。 〈江崎グリコ〉地域限定主義とクロスマーケティングで先行大手お菓子メーカーの「地域攻略」に先鞭(せんべん)をつけたのが、江崎グリコだ。「その地ならではの素材を生かし、その店でしか手に入らない『限定性』」(永尾正之・江崎グリコ九州統括支店長)が光る。 「博多名菓ぺロティ」は、ひよ子のひよ子饅頭(まんじゅう)のデザインを借りたチョコレート菓子。ひよ子、グリコのネームバリューと素材を出し合い「お互いのブランドの融合と、『いいとこ』取りを目指した」格好だ。 パッケージにも両社のロゴが載り、ユーザーには親しみと安心感を与える。イチゴ、メロン、バナナの3つの味わいで、台紙の裏面では博多弁を紹介する。九州への出張族から観光客まで、両社に新しいファンを呼び込む期待値が高い。 〈明治製菓〉「チョコレート」が実る秋に“親子2世代ブランド”明治製菓は「10月をチョコレートの販売拡大スタート月」と位置づけ、「この間の『ユーザー満足』を一気に年末年始にまでつなげる」(樋口正明・明治製菓九州統括支店長)方向にある。 | |||||||||
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