2003年11月号109ページに掲載

 行政手続きのオンライン化で自治体業務を改革、インターネットを活用して住民サービスの向上を目指す「電子自治体」がもうすぐ実現する。国の「e-Japan戦略」に沿って中央省庁と全自治体が「総合行政ネットワーク(LGWAN)」で結ばれ、すでに住民基本台帳ネットワークシステムが稼働しているが、問題は市町村の電子化。総務省では各自治体に基盤整備や実施計画を進めるよう要請しているが、経費負担や市町村合併が絡んではかどらない。一方でIT企業は2.5兆円といわれる巨大市場を狙い市町村へのシステム売り込みに躍起だ。

「メリットない」と不評の住基カード

 「1カ月間で900件に満たない」−8月25日から始まった住民基本台帳カード(住基カード)の交付で、人口138万人を誇る福岡市で受け付けた件数はわずか850件ほど。大半が高齢者で、それも顔写真がなく氏名だけ記載のカードではなく、顔写真つきで氏名から生年月日、性別まで記載されたカードを申請していることから「身分証明用に取得したのでは」(区政課)とみる。また、熊本市の場合も約300枚の発行にとどまるなど今年度末までに1万3000枚の交付見込みを大幅に下回っている。この低調ぶりは他の市町村でも同様で申請件数はいずれも人口比0.1%未満。
 住基カードは昨年8月からスタートした住基ネットの本格稼働(2次稼働)に伴って住民票の広域交付とともに始まった新サービス。しかし、カードが住民票の写し申請や転出入の手続きにしか使えずメリットがないことや手数料(500円)が必要なこと、さらに「身分証明用」といっても運転免許証やパスポートがあればこと足りるため申請者は少ない。そのためか総務省は住基カードの発行枚数は300万枚、国民の3%以下にとどまると予想している。
電子自治体の基盤となる住基ネットだが、住基カードの人気は今一つだ(大分市役所)
 住基カードにはICチップが内蔵、本人確認用の暗証番号が入っているが今後、条例などによって多くの個人情報が挿入される可能性があり、宮崎市では印鑑登録証明書を取得できるサービスを付加したことから受け付け1カ月間で約9400人、9月末には1万人を突破した。5年後に現行の印鑑登録証が使えなくなるため、無料切り替えをアピールしたことが人気の要因。市民課によると現在、印鑑登録証の保有者は18万4000人おり、有効期限の09年3月末までに「すべて住基カードに切り替えるよう促している」という。そうなれば人口の約6割がカードを取得することになる。こうした独自サービスは福岡県飯塚市、大牟田市、大分県佐伯市でも行っているがまれなケース。多くの自治体では住基ネットそのものに個人情報保護やセキュリティーの面からいまだ住民の不信感が拭えないことに配慮、積極的な交付促進策をとっていないのが現状だ。
 ただ、住基ネットも住基カードも電子政府・電子自治体の基盤となるもので現在進行中の地域イントラネット基盤施設整備事業など「地域公共ネットワーク整備」において不可欠なものだ。

九州の地域公共ネット整備率ただいま76%

 地域公共ネットワークは総務省が01年1月に国が打ち出した「5年以内に世界最先端のIT国家を実現させる」という「e−Jаpan戦略」の基本方針に沿って策定した「全国ブロードバンド構想」の中で「05年度まで地域公共ネットワークの全国整備を図る」と掲げたもので、地域公共団体に対し具体的整備計画の作成を要請、財政的支援も約束した。
 これは教育、行政、福祉、医療、防災などの高度化のため学校、図書館、公民館、市役所などを接続する光ファイバー網などの地域ネットワーク整備を目指すもので、電子自治体構築に欠かせないインフラ整備だ。しかし、総務省調査では昨年7月時点での整備状況は全国の3288地方公共団体のうち地域公共ネットワークを「整備済み」が34.8%にすぎず、「整備計画を作成済み及び整備予定」が37.3%、「整備計画なし」が27.9%もあるなど大幅に遅れていることが分かった。
 九州総合通信局調査によると九州管内(512市町村)の今年4月末時点の地域公共ネットワーク整備率は76.4%。前年4月時点と比べ15.1ポイントの増加となった。県別では大分が91.4%とトップで、以下、佐賀85.7%、福岡81.3%と続くが、最も低い長崎でも63.3%あり、全国平均を上回っている。
 一方、自治体の公式ホームページ開設率は97.3%、うち佐賀、宮崎、鹿児島の3県では100%。また、庁内LANの整備率は93.2%で、うち佐賀県は100%。ほかに公立小中学校のインターネット接続状況ではそれぞれ99.1%が接続環境にあり、小学校では鹿児島県、中学校では佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島の5県が100%に達している。
 これだけで判断すると九州の情報化度は高いように思えるが、公的個人認証サービス制度の構築やオンラインによる申請・届け出、入札、歳入、地方税の申告、さらにはセキュリティー対策など電子自治体構築に向けた計画などの策定については「策定済み」がわずか11.7%にすぎず、「今年度中に策定予定」が19.5%、「予定なし」がなんと36.5%もある。

地場IT企業育成へオープンソース実施

 中央省庁と県、それに政令指定都市の間ではすでに総合行政ネットワーク(LGWAN)で結ばれている半面、一般の市町村でLGWANに接続しているのはまだ少ない。これは経費負担の問題のほかに職員に情報技術分野の専門家がいず、業者と対等に交渉して計画を立てたり、コスト計算ができないからだ。そのため入札説明の原案作成を大手業者に依頼することもしばしば、入札価格も大手業者のいいなりで、地場IT企業の参入は容易でなかった。佐賀県内の産学官で構成するネットコムさが推進協議会では今夏、企業や自治体職員を対象にした研修機関「ITネットワークアカデミー九州」を設立した。
 一方、大手企業任せによるコスト高要因を除くためIT専門家を職員に採用する自治体も相次いでいる。その中で長崎県ではシステム専門家と地場IT企業社員を県職員として受け入れ、県庁マンを加えたチームで計画書や仕様書を作って公開。競争入札によってコスト削減を促すだけでなく、地場企業の受注機会を増やすという独自の仕組みをシンクタンクの日本総合研究所(東京)と共同で考案、この方式をビジネスモデル特許として共同出願した。
 また、福岡県ではこのほど同じ地方分権研究会メンバーの宮城県とシステムを共同開発・運用してコスト削減を図っていくことに踏み切った。これは申請、調達、文書管理、財務など多岐にわたる分野を両県で共同開発、その中でソフトウエアの設計図にあたるソースコードを公開するオープンソース方式を採用、大手がほぼ独占していた開発業務を小分けして地元企業にも発注するというものだ。いずれ同研究会の岩手、三重、和歌山の各県にも情報提供する方針で「将来的には民間にも開放していきたい」と語っている。
 総務省では電子自治体構築における受発注規模を「02年度から05年度までで約2.5兆円」と見込み、ある大手情報関連企業では「中央省庁向けだけで2兆円、地方自治体まで含めるとその3−4倍」と試算する。そんな電子自治体特需に情報関連企業は群がり、富士通だけで05年までに6000億円受注を目標に掲げる。
 総務省が発注したLGWANや住基ネットでは富士通、NEC、NTTデータ、NTTコミュニケーションズなどが延べ334億円で受注している。現在、大手のターゲットは地方自治体で九州でも各地のシステム企業と連携して市町村への食い込みを図っている。これに05年3月をめどにした市町村合併が加速すればシステム再構築の需要が見込まれることから業界はまさに追い風だ。NTT西日本では昨年末、九州の各支店や地域会社に「e−ガバメント推進室」を設置、九州各自治体のIT化支援のためソリューション営業を積極展開している。

受注確保へ地場と手を組むシステム大手

 今年8月、福岡市で「電子県庁・電子自治体フェア」が昨年に続いて開かれた。福岡国際会議場を会場にした今回は前三重県知事の北川正恭氏や都市情報システム研究所長・茶谷達雄氏らによる電子自治体にまつわる講演や福岡県宗像市など先進自治体によるセミナー、システムなどを売り込む出展28社のプレゼンテーションなどが行われ、主催者の社団法人日本経営協会によると「2日間で自治体・情報関連企業関係者が約800人集まった」という。同様のフェアは沖縄県でも開かれた。
 フェアで注目されたのは地場企業の動きだ。富士通、日本電気、日立製作所などのIT大手に混じって九州電力グループや麻生情報システム、ゼンリン、西銀コンピューターサービス、安川情報システムなどがブースを構えた。
 九電グループでは九電工がセキュリティー構築に欠かせない認証システム(シングルサインオン製品)、西日本技術開発が納品から検査、保管までの電子閲覧システム、ニシム電子工業が電子インフォメーションシステム、キューデンインフォコムがGIS(地理情報システム)を使った生活情報配信サービス、正興電機製作所は自治体向け施設管理業務支援システムなどを独自展示、ゼンリンはGISをベースにしたアプリケーション、安川情報システムは電子自治体セキュリティーソリューションをそれぞれアピール。
 その中で九電工がニッセイ情報テクノロジーと組んだ認証システムの導入価格は県クラスで4000万円(市町村クラスは約半分)といわれ、同社では今年度、2億円の受注を目指している。ほかにもゼンリンがNTTグループと組んで新システムを開発、西銀コンピューターサービスは日本ベリサインと提携してシステムの売り込みを図っている。

コスト高で通信インフラ整わない離島県

熊本県庁内の情報プラザに設置されている専用情報端末(キオスク)
 現在、九州各県では県や主要市を中心に電子自治体整備に向け活発な取り組みが行われている。
 2年前「ふくおかギガビットハイウェイ(FGH)」を構築した福岡県では9カ所のアクセスポイントから各市町村と接続するブロードバンド回線を一括調達することで市町村が低コストで利用できるようになる共同利用センターに参加するよう呼びかけている。同センターはオンラインによる電子申請や電子入札など電子自治体としての基本的なシステムを県と市町村が共同で動かす中心施設。
 熊本県では昨年、県と県内10カ所の地域振興局、そこから市町村や県立学校、県公共施設を結ぶ熊本県総合行政ネットワーク(KSGN)が整備され、県民は自宅のパソコンからネットを経由して運動場など県公共施設の予約状況を確認したり、利用申し込みができるようになった。また県庁情報プラザや振興局などに設置した計22台の専用情報端末(キオスク)からも同様の手続きができる。
 宮崎県が昨年構築した「宮崎情報ハイウェイ21(MJH21)」も県内8カ所のアクセスポイントを拠点に44市町村とも光ファイバーで結び、行政だけでなく民間にも開放したため国内外のIT企業が相次ぎ進出するなどの効果を表した。現在は各種申請のオンライン化に向けて広域実験をしており、各市町村が持つデータを一括管理する中央データセンター構想もある。また電子カルテなど医療用システムを大学とともに開発、全市町村で利用可能にする。
 大分県も県内44市町村と光ファイバーで結ぶ「豊の国ハイパーネットワーク」が完成、現在は地域公共ネットワーク整備を進めているが、近く完了見込みと他県を先行している。
 ただ、九州は離島が多く通信インフラ整備にコストがかさむことも事実。そのため一部自治体で情報化整備が遅れており、総務省ではこうした地域のイントラネット基盤整備など公共ネットワーク事業に03年度は全国で約44億円の補助金交付を決定したが、うち九州は約10億円を受けている。

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