2003年11月号71ページに掲載

鷹戦士かく戦えり
playback the victory road


 千葉の夜風を全身に浴びながら、ダイエー王監督が5度舞った。9月30日。ロッテ戦の試合中にライバル西武が敗れて優勝が決まった。そのロッテ戦も見事な逆転勝ち。「選手の気持ちが伝わってきてうれしかった」。お立ち台に上がった王監督の瞳は潤んでいた。

 V直前に3連敗ともたついたが、それまでの足取りは王者にふさわしいものだった。シーズンを通して4連敗は一度もなかった。王監督が開幕前に「今年は連敗しにくいチームになった」と胸を張った通りの戦いだった。これまでのダイエーと言えば大型連勝もするが、大型連敗もする、よくも悪くも勢いがあるチームだった。今シーズン積み上げた勝利は82。堅実に一歩一歩優勝へ歩んだ結果がダイエー初の大台突破に結びついたのだ。
 シーズン序盤。チームに好スタートをもたらしたのは若き先発投手陣だった。開幕ローテーションは斉藤、ナイト、杉内、新垣、和田、寺原の6投手。平均すると23歳にも満たないフレッシュな顔ぶれがそろった。特に和田と新垣は経験の少なさが心配されたが、「即戦力」の前評判通りの活躍をみせた。まずは杉内が球団最速となる開幕3戦目のロッテ戦で完封勝利を飾った。4月14日からは杉内、新垣、和田、寺原の4投手で4戦連続完投勝ち。ダイエーでは南海時代の77年以来、26年ぶりの快挙だった。新垣と和田はともに2ケタ奪三振試合も早々と達成。同一チームの新人2投手が2ケタ奪三振を記録するのはパ・リーグでは初めてのこと。王監督も「2人は開幕カードで先発させることも考えたほど」と明かしたように、ルーキーの左右腕が新風を吹き込んだのは間違いなかった。若手投手陣の躍進で4月を終えた時点で16勝11敗で貯金5。さらに和田は5月6日のオリックス戦で7連続奪三振も達成。早大時代に東京6大学で通算476個の奪三振新記録を樹立した「ドクターK」の本領を思う存分に発揮した。
 先発陣の奮闘は打線の粘りを生んだ。記録ラッシュの1年となった起点は、5月14日の近鉄戦だった。序盤に8点のリードを奪われたが、終盤に反撃。9回裏に一挙5得点しサヨナラ勝ちを飾った。主砲小久保が右ひざ重傷で戦線離脱している中で、15安打を浴びせて奪い取った1勝がナインに自信を与えた。城島はその思いを代弁した。「ヒーローは俺じゃない。8点差をつけられてもみんなの(あきらめない)気持ちがうれしかった。このチームなら1年間戦っていける」。つなぎにつないでもぎ取った逆転劇に胸を張った。同20日の日本ハム戦で打線はさらに勢いづく。この日は王監督の63回目の誕生日。2回の攻撃だ。打者14人を送り込み、9者連続安打のパ・リーグタイ記録をマークするなど華々しい勝ち方でバースデー・プレゼントを贈ったのだ。
 投打がかみ合った戦いは天敵をも跳ね返した。5月16日からの西武3連戦で2年ぶりのL戦3連戦3連勝。4月には同カードで3連敗を食らった屈辱を晴らしてみせた。6月に入ると打線は手がつけられない状態となる。6月17日のオリックス戦で3者連続アーチを含む、1イニング4本塁打と爆発力も兼ね備えてきた。その試合では21得点し、ダイエー最多得点を記録した。6月末の西武3連戦では南海時代を通じてライオンズ戦では初めてとなる3試合連続の2ケタ得点。圧巻は前半戦最終カードの西武との3試合。投げては和田、斉藤、新垣の3投手が連日の力投を演じた。打線も怪物松坂をKOするなど、まさに横綱相撲で3連勝フィニッシュを収めたのだ。4年ぶりの首位ターン。王監督の言葉に力が入らないはずがない。「ホットな気持ちで後半戦に入れる」と野太い声をひびかせた。
 ダイエーがチーム防御率をトップで折り返したのは南海時代の65年以来(前後期制を除く)、38年ぶりのことだった。ダイエーとは対照的に他球団の先発に疲れが見え始めた7月になると、打線が猛攻でV奪回への歩みに弾みをつけた。7月27日のオリックス戦は1試合32安打のプロ野球新記録を樹立。8月1日の同カードでは1試合29得点と、こちらはパ・リーグ新記録だ。7月末から8月上旬まで9試合連続で2ケタ安打。95試合目にはついにチーム打率が3割に到達した。過去、100試合以上を消化して打率3割をキープしたチームはなかったが「スーパー打線」は125試合まで大台を達成するなど、まさに球史を塗り替えるところまで進化したのだ。
 8月17日にマジック30が点灯。3度の消滅を味わうなど苦しみながら、最後はゴールテープを切った。それでも、不安要素がなかったわけではない。最大の懸念は小久保不在の穴を埋められるかどうかだった。小久保は3月6日、西武とのオープン戦で右ひざ故障。今季絶望の重傷だった。ナインのショックも大きかったが、危機感はプラスに作用した。城島は打率、打点、本塁打の打撃3部門でキャリアハイをマークした。打撃面では伸び悩んでいた井口も変貌を遂げた。「本塁打を捨てる気持ちで」打席に入り続けて一時は首位打者争いを展開、6月には5試合連続猛打賞の快挙も成し遂げた。松中は右ひざ負傷を抱えながら、チームリーダーとして4番の重責を見事に果たした。最終戦で30本塁打の大台に乗せ、打点王に輝いた。バルデスも3年連続で打率3割をマーク。この4選手はいずれも100打点以上を挙げており、球界初の「100打点カルテット」として名を残した。8月末に右鎖骨骨折で戦列を離れた村松の存在も忘れてはいけない。7月1日の近鉄戦でサイクル安打を達成、今季の150安打はシーズン自己最多だった。
 投手陣にも「エース」が誕生した。右肩故障に悩みつづけた斉藤がプロ8年目で大輪の花を咲かせ、リーグ18年ぶりの20勝を達成するなど投手部門のタイトルをほぼ独占した。4月26日のオリックス戦で3勝目を挙げてから9月10日の近鉄戦で敗れるまで何と16連勝と白星街道を突っ走った。4カ月以上も負けなかった斉藤には王監督も「チームが苦しいときに踏ん張ってくれたし、若手を引っ張ってくれた」と全幅の信頼を寄せる。和田はほぼシーズンフル回転し、14勝と力をみせつけた。新垣は右足首故障に見舞われたが、それでも4試合連続の2ケタ奪三振を記録するなど8勝。2年目の杉内は8月5勝無敗と夏場に調子を上げ、念願の2ケタ勝利に到達した。寺原も昨年の勝ち星を上回る7勝。00年は2ケタ勝利投手なしでリーグ連覇を達成したが、今季は3人が10勝以上。プロ入り1、2年目の投手で計39勝を挙げ「新時代到来」を予感させた。
 若き先発陣につなぎの打線で全球団に勝ち越す「完全優勝」の悲願もやってみせた。特に西武戦には22年ぶりのシーズン勝ち越し。王監督も「全球団勝ち越しは我がチームの悲願でした。優勝と合わせて二重の喜びです」
と声を震わせた。王監督にとってみても念願の「常勝球団」が目前だ。巨人監督時代の5年間ではリーグ優勝が1度だけ。94年オフに新天地の福岡に乗り込んでから丸9年が経とうとしている。ここ6シーズンはAクラス。そのうち優勝3度。最愛の恭子夫人が亡くなる悲報にも耐えながら「常勝」の夢を追い続けた。V奪回しても、なお「俺は絶対的な戦いをしたい。90勝でも100勝でもしたい」と言う。現役時代にV9を飾った「世界の王」が、今度はダイエーに黄金時代をもたらそうとしている。
(写真提供=日刊スポーツ新聞社/文・松井周治)

●ご意見・ご感想・情報提供はこちら
  (尚、無記名・連絡先のないメールは削除されます)